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オーケーが出たと言っても最低限らしいので、旅の間も両方共しっかりするように言われた。
「それから、三つ目だが、この国を裏切ることがないように頼むよ」
「はい!」
そして、最初の話し合いの時に来ていた若者たちは今回の使節団の花形を担っているらしい。
あたしはあの人たちの小間使いという位置で使節団に潜り込むのかと思ったけど、剣を持っているのでどうするのかと思っていたら、あたしはグロリアのメイドという立ち位置になるそう。
別に花形たちの小間使いでもあんまり変わらないんじゃ? とは思ったけど、グロリアの屋敷はかなり大きかったもん。かなりの貴族なんだろうなぁ。あたしみたいなのが紛れ込んでいたとしても、押し通すだけの権力があるとか。
多少のワガママならなんとかなるって言われてしまった。
それならあたしがダンスなんて覚えなくてもいいように融通して欲しかったよ。
ジゼルは今回の使節団には関わっていないらしく、何かあったらすぐにグロリアを頼るようにと言われていたが、あたしが使節団に合流して国境を越えたらすぐに使節団から下ろされてしまった。
「え?」
「ラナはそっちの五人と行動して」
「え?」
馬車から降りる時にフードを被らされてしまったのでちょっと視界が悪いが、見えなくはないけど、今何て言った?
びっくりしてフードが取れそうになったが、馬車から降りる前にしばらくは絶対に外さないことと言われたので、慌ててずれてしまわないように手で押さえる。
五人? 意味が分からなくて聞き返したのに、グロリアは聞こえてなかったのか、さっさと行ってしまった。
何それ何も聞いてないんだけど。ジゼルも王様も使節団の一員だって言ってたのに、何であたしはここで下ろされてしまったのか意味が分からなさすぎてどうしていいのか分からなくてオロオロするしかない。
使節団が行ってしまった姿を必死こいて探そうとしたが、無駄だった。
彼らが戻って来ることはなかったし、あたしの足が馬車について行ける訳がなく、あっという間に引き離されてしまった。
その場に残されたあたしは振り返って、一緒にその場に残された五人を見つめた。
あたし以外の五人の内三人が男性で残りの二人は女性。五人共、二十代前半から後半ぐらいの年齢かな?
若草色の髪の女性にピンク色の髪の男性、オレンジ色の髪の男性と金髪の女性、それから焦げ茶色の髪の女性。あたし以外は外套は着ているが、フードをしてない。
あたしもフード外したいんだけど、駄目かな?
もう使節団という後ろ盾がないのなら、危ない橋を渡るのは避けた方がいいのだろう。
フードを脱ぐのを諦めて集まっている五人に目を向ける。
全員落ち着いてる様子からここで降ろされることは知っていたみたい。知らなかったのはあたしだけ。
何であたしには一言もなかった訳?
教えておいてくれたら困惑せずに、あの五人にこれからのことを聞いてすんなり行動出来たかもしれないのに。不親切過ぎじゃない?
全員あたしより年上でこの仕事にも慣れてそうで、今回初めて参加したあたしは場違いのようにしか思えないよ。
何であたしも残されたのか。あの人たちなら何か知っているかな?
名前を聞いてないからあの人たちがどんな人たちなのか分からないけど、あたしそっちのけで五人で話している姿を見ているとあたしは歓迎されてない?
あたしにも教えて欲しいけど、あそこに割って入ってしまってもいいのかな?
邪険にされないだろうか。
どうしていいのか分からず、その人たちを眺めていたら、ショートの焦げ茶色の髪の女性に声を掛けられた。
「ちょっと、あんた。いつまでボサッとしてんのさ!」
「いや、あの……え?」
「……もしかしてだけど何も聞いてない?」
その言葉にこくこくと何度も頷いた。
よかった。これで、何をするのか教えてもらえるかも。
「マジかよ……」
だけど、あたしの予想に反してその女性はあたしの動きに一言呟くと、額を押さえて唸ってしまった。
その姿にがっかりしそうになったため、あんまり見たくないやと目を反らしたら、焦げ茶色の髪の女性以外も変な顔をしている気がする。
もしかして、あたし何か変なこと言っちゃった?
この人たちの様子を見る限り、あたし以外の人たちはどう動くのかとかは知っているみたいで、あたしも同じように呻きたいところだったけど、あたしまで同じことしているだけじゃいつまで経って話が進まない。
いつまでもこうしている訳にもいかないんだから、さっさと何をするのか聞いた方がいい。
「あ、あのあたしラナって言います! あたしは何をするんですか?」
「……あたしはミスカだよ。その話は後、移動するから着いておいで。あ、フードは外しちゃ駄目だからね」
ミスカさんの言葉にまた頷いてフードはしっかりと掴んだ。
あれだけやったマナーは一体何だったの?
あたしここで使節団と離れるんだったら剣術だけでよかったんじゃないの?
あたしの頑張りを返してよと声を大にして叫びたかった。