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ジゼルの屋敷に帰ると挨拶もそこそこにユリアに祝福の力を使ってもらおうと思っていたのに、数ヶ月振りに会ったからか、みんな凄い歓迎だった。
数ヶ月と言ったって二、三ヶ月ぐらいじゃないの? 手紙だって一回書いたし。もしかしてもっと手紙を出した方がよかったのかな?
山を駆けずり回っていたから宿に帰れば早々に疲れて眠っちゃってたし、剣を見つけてからは熱を出したり、歩いて帰って来たからくたくただったけど、みんなの顔を見ていたら帰る前にやっぱり出しておけばよかったかも。
でも、歩きだったから何日に帰れるとかは分からなかったから、予定より遅くなってしまったら、がっかりさせちゃうかもと思って出さなかったんだけど、この様子なら出した方がよかったみたいだね。
いなかった間のことを聞いたり話したりしながら、あたしがいなかった間の溝を埋めるようにたくさん話しをした。
あたしがいない間にユリアも色々あったらしい。そういう話しを聞いていたら、気がついたら夕方になっててちょっと慌てた。
いつの間にこんなに時間が経っちゃってたんだろ。
今からお城に行っても夜になっちゃうから明日行かないといけないじゃん!
のんびりし過ぎていた。
「それで、見つけたのがこの剣なんだけど、あたしには祝福の力を持ってないから、ユリアこの剣に祝福の力を使ってみてくれない?」
「いいの? 壊れたりしない?」
「壊れたら違うから」
「それもそうだね」
「ユリアが祝福の力を使うのは初めてみるかもしれないな」
「意外といつも使っているけどね」
ちょっとわくわくしているジゼルにユリアが返事をするのを聞きながら、これでようやく終わるのか、それともまた旅に出かけないといけなくなるのかと考えたらドキドキしてきた。
「じゃあ、お姉ちゃん移動しよ」
「あ、うん」
「移動するのか?」
「水を使うから部屋の中が水濡れになっちゃ困るでしょ」
「行きましょう」
ユリアの返事にジゼルじゃなくてユーリスが慌てて庭に移動する。
庭は季節が変わったのか、あたしがいない間に咲いてた花が結構変わっていていて見ていたかったけれど、今は剣が本物がどうかの方が気になるからそれはまた今度。
ユーリスが噴水の前に剣を置いたのを見てユリアが祝福の力を使う。
水を操っているのは久しぶりに見るけど、夕陽の下で動く水はキラキラとしていて綺麗だ。
ユリアの祝福を剣にぶつけてもらったが、水が剣にぶつかることはなく、空中で水が蒸発するかのように消えてしまった。
「すごい! どうなってるの!?」
「これはすごい……」
「頑張って探したんだ!」
ユリアとジゼルが目を丸くしている横で、あたしもびっくりしていたけど、それよりもこんなにすごい物を見つけられた喜びと、久しぶりのユリアとジゼルの顔にテンションが上がり過ぎて変なテンションでドヤ顔してしまった。
この剣が別のだったらと考えたこともあったけど、ユリアの祝福を消したのを見て本当に祝福を消せることに有頂天になった。
これでもう山に行かなくて済む! それに王様からの課題も一つ済ませられた!
あたしでもやれることはあるんだ!
ジゼルとユーリスがいなければ、ここで小躍りぐらいはしていたね。きっと。
後はこれで王様に剣を見せて、後二つの課題をすればいいだけ。
剣の効果を見て、すぐに王様に会えるようにとジゼルに頼んだが、ジゼルから待ったを掛けられてしまった。
「何でよ」
「とりあえず、柄を何とかしないと、これは振り回すのは危ない。職人を手配しよう」
「でも……」
「これぐらいなら陛下は怒らないよ。僕からも一筆したためておくから」
意味が分からなくてふてくされながら聞き返したのに、あっさりと決めてしまった。
さっさと次にすることをやってしまった方がいいんじゃないの?
何でここで待ったを掛けられなくちゃいけないのか意味が分からない。
そりゃ、久しぶりにみんなの顔を見られて嬉しいよ。嬉しいけど、
あの国に戻れるのが遅くなってしまうんじゃないかって、ジゼルに食い下がってみたが、ジゼルはさっさと決めてしまってユーリスを呼んでいた。
いいのかな?
確かに久しぶりだったからあれこれ話したいことはあったけど、のんびりしていていいものか疑問に思う。
王都まで歩いて来たのと、荷物が重くなってしまっていたせいで、かなりゆっくりとした足取りだったし。
結構時間が掛かってしまったような気もしなくはないんだけどなとは思ったものの、結局あたしも王都のみんなに会えたことの喜びからまあいいかとその日は色んなことを話した。
「お姉ちゃんあのね、あたしもやりたいことリスト書いたよ」
「あ、本当? 何書いたの?」
「内緒」
「何で内緒なのよ」
あたしとユリアの仲なのに、今さら内緒にする必要なんてある?
「こらこら秘密にしたいことを無理に暴いてはいけないよ」
「あのね、ずっとって訳じゃないの! いつかは言うから」
「……それなら」
別にないよねと思って言ったらジゼルに止められてしまった。
ユリアもいつかは言ってくれると言うのなら、しつこく聞くのもどうかと思って黙った。