表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/122

67

 滝壺の中は相変わらず冷たくて、飛び込んだ衝撃も痛くていますぐ気絶したくなったけど、あたしにはすることがある。


 やるべきことをするために気絶している暇はないと、目をしっかりと開けて滝壺の底に刺さっている剣を見つけて近寄る。


 水底に刺さるそれは持ち手こそはボロボロだったが、刀身は錆びることもなく今にも扱えそうだ。


 これなら持ち手さえ変えてしまえば、すぐにでも使えるんじゃないかと持ち手をぐいっと引っ張ってみたが、しっかり刺さっていたのか、それともあたしの力じゃ弱すぎて引っこ抜くのは無理っぽい。


 やっぱり無理だよね。


 ちょっとがっかりしたけど仕方ない。


 この水流でも流れて行かなかったんだもんと思いながら、念のためにと持って来たロープをしっかりと剣の柄に巻き付けていたら息が苦しくなってきた。


 もうちょっと……。


 泳ぎはそれなりに出来るけど、強い水流のせいで流されないように必死に剣にしがみつきながら急いで剣にロープを巻き付けた。


 何とかロープを巻き付け終えると、水から上がって乾いている服に着替える。


「さ、寒い……」


 髪についた水気を絞って乾いた服を着ただけで、冷えきった体にはとてもあたたかく感じられる。


 乾いた毛布のじんわりとしたあたたかさってこんなにいいもんなんだなぁ。


 風邪引かないように早くあったまりたい。焚き火したい。でも、我慢。


 だって、麓の人たちに山から煙上がってるのが見えたら何事だって驚かせちゃうかもしれないんだもん。


 焚き火が出来たらあったかい物を食べられるんだけど、あたしはここを立ち去っていることになってるから山から煙が出ていたら山火事かと心配させちゃう。


 麓の人たちにはお世話になったので、出来たらそれは避けたい。


 寝込んでいた間の宿代は自分がお使いを頼んだせいだからと宿のおばさんは受け取ろうとしなかったし、医者代はジャンが落っことしてしまったからと払ってくれたからお金が浮いてあたしも助かった。


 それにしても、一回でロープを縛りつけられてよかった。何度も滝壺に入るのは無理。


 こんなこと何度もしていたら体壊しちゃう。


 本当にすぐ終わってくれて助かったわ。早くあったまってくれと願いながら毛布をしっかりと巻き付ける。


 ガチガチ鳴る奥歯がうるさいけど、震えが中々止まらないので、こればっかりは仕方ない。早く体があったまってくれるのを待つしかない。


 あんなたところから落っこちたら命いくつもあっても足りないと思っていたけど、意外と怪我もしなかったから意外となんとかなるもんね。


 意外と怪我一つない自分の体を見下ろして感嘆のため息を吐く。


 なんだって昔の人はこんな場所に隠したんだろ。もっと分かりやすく王様のところに置いておけばよかったのに。それともどっかから落ちてここまで流れちゃったんだろうか?


 こんなところの滝壺に隠れてるだなんて普通思わない。あたしだって滝壺の見えづらい位置にあるかもって覗き込んでいただけだったもん。


 狼に追いかけられたのは大変だったけど、それらしい剣が見つかってよかった。


 体があったまるのを待ってから毛布を置いた。これはもう必要ない。次はあの剣を引っこ抜く番だ。


 体があったまるまでロープは近くの木に縛っていたけど、それを一旦外して引っ張ろうとするが、ちょうど太い木が目に入ったので、その木の幹にロープを回してぐいぐい引っ張ってみる。さっき自分で引っ張ったよりかは動くような気がする。


 これならいけるかもしれない。


 そうやって幹を利用しながらしばらくぐいぐい引っ張っていたら、途中から手応えが変わった。


「!」


 いきなり軽くなったロープにちょっとびっくりしたけれど、剣が抜けたのかな?


 確認出来たらいいけど、またあの冷たい水の中に戻って行く勇気なんてないから引き上げるだけ引き上げよう。


 ロープだけになってたら嫌だけど、それはないと信じたい。


 剣が抜けていたらこれで帰れるかも。あたしには祝福の力はないけどユリアなら問題ない。帰ってからユリアにさっさと確認してもらえばいいやと引き上げる。


 しばらくロープを引き上げていたらようやく剣が出てきた。 


「やった! これで帰れる!」


 ロープをしっかりと握っていたせいで手が痛いけど、そんなの後だ。


 これが王様の言っていた剣かはあたしには分からないけど、こんなところに隠れていたんだもん。可能性としては高いよね。


 いそいそと剣についた水気を切って荷物をまとめる。


 剣を手に入れた以上、これ以上ここにいる必要はない。すぐに王都に戻ろう。


 あたしが水中で見つけた剣は思ったより重くて、帰りはフラフラしていたけれど、何とか王都までたどり着くことが出来た。


 帰りは行きの馬車の件で馬車に乗って移動するのには抵抗があったから歩いて帰ったから余計疲れた。


 帰ってからすぐにジゼルに馬車の詐欺についての苦情を伝えて取り締まりを強化してもらうことを約束してもらったけど、さすがに王都行きはあっちも警戒するんじゃないのかと不思議そうに言われたが、何回もやられた身からしたらそんなの信用ならないよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ