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 滝壺に落ちた後、あたしは高熱を出し、一週間ぐらい寝込んだらしい。


 らしいというのは、熱のせいで殆ど記憶がなくて気付いた時には結構な日にちが経っていたからだ。


 しかも、熱が中々引かなかったせいで、宿のおばさんからしばらくベッドから出ちゃダメだって怒られるし、結果的にあたしを落っことすことになってしまったジャンにもめちゃくちゃ謝られてしまった。


 だけど、大した怪我はなかったみたいで、それだけはよかった。


 あたしは熱で朦朧としていたから後で言ってくれとしか言えなかった。


 こっちは熱で苦しんでいるのに、横からずっとごちゃごちゃ言われても余計具合が悪くなるだけなので、別の日にして欲しかったのにごちゃごちゃ言われてうるさくて、感情が爆発してしまい怒っていたら宿のおばさんに病人なんだから大人しくしておくようにと怒られてしまって散々だった。


 そのせいか分からないけど、中々治らなくて暇で暇で仕方なかったし、治ってからもちょっと動いただけで、大丈夫かと聞かれるので、山に行きたいって言ったら絶対にまた怒られるだろう。


 滝の行き方だけ聞いてこの麓とは別の場所から山に入ろう。


 そっちの方がいい。


 とりあえず、あの日助けに来てくれた人たちにお礼が言いたいって言って宿のおばさんにあの時にいた人たちの家を教えてもらった。


 何人かお礼を言って回っていたが、その度に何かもらったり体調の心配とかされてあんまり話が出来なかった。


 そういうことが続くため、宿のおばさんが文句を言いつつも、宿の食事がちょっと豪華になった。


 思わぬ喜びと話の進まない苛立ちに少しずつ鬱憤が溜まって来たけど、まだ我慢出来る。


 これもあの滝壺に行くためだもん。


 でも、みんなちょっとぐらいあたしの話し聞いてくれたっていいのにね。


 何でこっちの話しは二の次なんだろう。もう少し聞いて欲しい。


 もう、麓を離れて別の場所から向かった方が早いかな? そんなことを考えながらジャンの家に向かう。


 あんまり覚えてないけど、ジャンにはキレてしまったらしいので、ちょっと気まずいかなって思ったが、そんなことはなかった。


「ごめんな」

「あたしもキレたからおあいこだよ」

「でもだな……」

「もう、あんたたち辛気くさいわね! いい加減にしなさい! ラナちゃんだっけ? ラナちゃんも無事だったんだから。ほら、二人して外にでも遊んでおいで!」


 ジャンのお母さんに家から追い出されてしまって、そんな雰囲気じゃなくなってしまったからだ。


「……どっかで何か食わねえか? 腹減った」

「……うん。そうだね」


 別にお腹が空いていた訳ではなかったけど!ジャンから聞きたいことあったし、他に行ってもみんな似たり寄ったりな反応しかしないので、ちょっとは違いそうな気がしたからだ。


 適当なお店に入って注文を済ませる。


 あたしはここの名物料理を注文し、ジャンは日替わり定食を頼んでいた。


「あのね、滝壺にはどう行けるかな?」

「は? 滝壺?」

「あ、うん。大事な物をあそこに忘れて来ちゃったみたいで」

「何も落ちてなかったけど……えっと、あの時見つけたのは結構運がよかったんだが……」


 ジャンは記憶を辿っているようで、どうたったかなと首を傾げながら話し出してくれた。


 その様子にようやく話してくれる人に出会えた喜びと、最初からジャンのところに来ればよかったとちょっとだけ落ち込んだ。


 ジャンに話を聞いた後、あたしはすぐに宿を引き払った。


 宿のおばさんにはちょっと心配されてしまったけど、山入れないのなら別の場所に行こうとしていたことを思い出したのだろう。ちょっとだけ心配されてしまったが、最後は仕方ないないねと見送ってくれた。


 ジャンから聞いた滝壺までの道のりと、あたしが山で色々と見てまわった場所なんかからある程度の予想をして山に迎えば、わりかしすんなりと滝壺を見つけることが出来てホッとする。


 これで、後は剣を持って帰るだけだ。


 問題は滝壺がかなり深いってこと。


 普通に泳いで行ってもあそこまでは行けない。また滝壺に飛び込むのは不安だけど、あれが一番効果があるよね。


 この前みたいに風邪でも引いたら元もこもない。今度は誰にも言わずにここまで来たから助けてくれる人もいないし。


 着替えは滝壺の方に置いておく。火を焚いて起きたかったけど、山火事と勘違いさせたら困るので、それはやめておいた。


 変わりに毛布を数枚買って来て、着替えの近くに置いておいた。もちろん獣避けの香は忘れてないよ。


 もう狼に追いかけられるのはこりごりだもん。


 だから、獣避けの香を毛布と着替えにたっぷり匂いを吸わせて、あたしもまた狼に追いかけられないように着ていた服にも匂いを染み込ませたので、多分大丈夫だと信じて山に入った。


 山の中は静かで時たま鳥の鳴き声が聞こえてくるぐらいで、この間狼に追いかけられたのが、嘘みたいだ。


 あれが白昼夢だったらよかったのに。鋭いキバに強そうな爪に獣の息遣い、ジリジリと間合いを詰めてくる恐ろしさは二度と味わいたくないもん。


「……っと」


 そんなことを考えていたら崖の上にたどり着いた。


 相変わらず迫力のある滝にちょっとしり込みしかけたが、さっさと剣を取れたら王都に帰れる。


 だったらためらう必要なんてない。


 長めのロープは買ったし、余裕を持てるように数本買って繋ぎ合わせたから、長さにも余裕がある。


「じゃあ、行くか」


 あたしは覚悟を決めて滝に飛び込んだ。

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