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 宿を移ったはいいものの、予想以上に隣の部屋の音が聞こえなくてやきもきする。


 どうやってグランディーナさんたちは隣の声が聞こえてたんだろ?


 あの王子の機嫌が悪くて怒鳴っていたと言っていたけど、どんだけ騒いでいたら聞こえてくるんだろ。


 それに、あいつらは部屋で食べているのか、部屋から滅多に出てくることはない。


 宿の人もあたしたちの身分を明かせば、協力してくれると確約してくれた。


「あいつらは十年前、俺の妹を連れ去って行ったんだ。あの時の叫びは今でも耳にこびりついている。あの恨みを晴らしてくれるならなんだってやるさ」

「ありがとうございます。でも、接客は普通にしてください。ここがなくなると困る人もいると思うので」

「……俺は何もしてはいけないのか?」


 落ち込む宿の主人には申し訳ないが、宿の主人が勝手な行動でお忍び中の隣国の王子に何かあったらどんな難癖を付けられるか分からないからと、グランディーナさんの説得で何とかなったっぽいけど、本当に大丈夫かな?


「一応ここの主人のことは見張っておいた方がいいな」

「そうですね。それから、このことを王都に伝えた方が」

「そうだな。この中で動けるのはラナか。頼めるか?」

「あたしもここに残りたいです」


 あたしだってあいつがどんな情報を漏らすか興味があるというか、ユリアの敵がせっかく目と鼻の先にいるのに、このチャンスを逃したくない。


 あたしだってこの宿の主人みたいに感情を露にして、あの野郎に殴り掛かりたいのを我慢しているのに、王都に戻っている間にあいつらが消えてしまったらどうするの。


 それに、そろそろ王都に行っていた騎士が戻って来る頃なはず。またあの人に行ってもらえばいいんじゃないの?


 そう思って言ってみたけど、みんなの反応はイマイチだった。


「ラナ、今は個人の感情より先にすることがあるのは分かっているわよね」

「……分かっています。でなかったらあたしは今頃隣の部屋に入ってあいつらを皆殺しにしています」

「もっと抑えるんだ。その殺気が隣の部屋の連中にバレたらどうする。俺たちは怪我して動けないんだ。ここでむざむざ殺されて何も出来なくなってもいいのか?」

「……っ」

「嫌だって言うのならお前は王都に行った方がいいだろう」

「……分かりました」


 トマスの言葉に反論出来なくて、俯くことしか出来ない。だけど、何とか言い返したいと口をから出たのは王都に行くことを了承する言葉だけだった。


 そのことが悔しくて仕方ないけど、あたしの返事を聞いたみんなの顔がホッとしたような顔で、何だか無性に情けなかった。


 あたしはそんなに分かりやすいタイプだったのかな?


 悔しい。


 だけど、今言い返せないのだったら、意味はない。


 あたしは荷物を纏めて部屋を出る。


 隣の部屋はシンと静まり返っていて、中に人がいるのかどうかすら怪しい。


 でも、宿の主人の話では食事を毎食運んでいるからいるらしい。


 ただ、中のメンツが時折入れ替わっていることがあるらしく、隣の部屋のあたしたちですら気付かずに入れ替わってるなんてあり得ない。


 部屋のドアをうっすら開けて観察していたけど、部屋に出入りするのは宿の主人ぐらいだったので、やっぱり祝福持ちがいるんだろう。


 ユリアとジゼルたちの話ではあの王子は祝福持ちではないと言っていたが、ラフォン様だって祝福のことを隠してらしたし、もしかしたら隠している可能性だってある。


 宿の従業員のフリしてあいつらの泊まっている部屋に入り込めたらいいけど、あたしの顔は知られてしまっている。


 だとしたら従業員のフリしたって無駄だよね。


 このままドアをじっと見ていたって、あいつらが出てくるとは思えない。


 諦めて外に出る。


 最後に宿をちらりと見てから足早に厩舎に移動して、あたしは国境から立ち去った。


 途中であたしより先に行った騎士に会って、あたしの変わりに王都への伝令を伝えてくれないかなと思ったけど、そう都合よくすれ違うことはなく王都へ行って報告すれば、どういうことなんだと大騒ぎになってしまった。


 どういうことだって言われたってあたしだって分からないのにこれ以上の説明なんて出来る訳がない。


 追加報告はしたので宿に戻ろうとしたらグレースの王様に呼び止められて、もう一度さっきの情報を話すように言われる。


「シェスタ・マーベレストの王子が国境の街に現れたってことですか? さっき話したので全部なんですけど」

「そうかもしれないが、何か掴めるかもしれないからな」

「分かりました」


 早く戻りたいけど、王様からの命令じゃ仕方ないよね。


「グランディーナさんが連れ去られた後、みんなの傷の手当てのために街に戻ったあたしたちは騎士たちの傷を見せて療養していました。あたしは軽傷だったために、街に必要な物を買いに出ていたのですが、その時に気になる馬車を見かけて。最初は貴族のお忍びかと考え、気にしないようにしていたけれど、国境が封鎖されてますし、シェスタ・マーベレストの人さらいの話を貴族が知らない訳がないと思って、誰が乗っているのか気になって後をつけ、彼はフードを被っていたんですが、風が吹いてシェスタ・マーベレストの王子の顔はゆやジゼルのおかげで知っているので、あいつがそうだと理解し、国境の外れの宿に入って行くのを確認し、みんなに報告してから確認のため、グランディーナさんたちが宿に入り、シェスタ・マーベレストの王子ということが確認出来てあたしたちも宿を移り、見張っています」

「やつらは一週間ぐらい滞在の予定だったな。そろそろ出発したか?」

「多分」


 どこに行くのかは知らないけど、どうして一週間もあの宿に滞在する必要があったのかも何も分かっていない。


 もしかしたら、今この瞬間に何か手がかりが手に入ったかもしれない。そう考えたらいてもたってもいられない。


 すぐに国境に戻りたかったのに、王様には待機を命じられてしまった。


 王様にもあたしが今すぐにでもあの王子を殺しに行くように見えているのかな。

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