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「はぁ~」
この国の姫の情報を集め始めてから一週間が経過した。
その間姫の手掛かりらしき手掛かりなんてなかった。
というか、王都の人にも姫の情報がほぼないってどういうことなんだろ?
本当にこの国に姫がいるのか疑わしくなって来ちゃったわよ。
何か姫っていう偶像を作り上げてみんなに信じこませたとかありそうって考えたけど、それはミーヌさんによって否定されてしまった。
ミーヌさん曰くラフォン様はこの国の姫のことはあまり好きではなく、挨拶程度ぐらいしかしない仲だったが、それでも、王族同士お話をされることもあったので、ミーヌさんも何度か姫のことを見かけたとのこと。
姫の瞳は水晶のように透き通っていて、特徴的なんだとか。
他にも姫のことを少し話してくれたけど、ラフォン様がお会いしたがらなかったため、ミーヌさんも知っていることが少ないけど、と申し訳なさそうに言われてしまったが、ミーヌさんが悪い訳ではないので謝らないで欲しい。
ミーヌさんの怪我の回復も順調で、予定よりもちょっと早くグレースに戻れるかもしれないってこと。
そのこと自体は別にいい。ミーヌさんの具合がよくなるのは喜ばしいことだもん。
でも、姫のことは何も分かってないし、ラフォン様だって見つけてない。
それなのにグレースに戻りたくない。あたし一人だけこっちに残るっていうのは無理かな?
今から宿に戻るからグロリアに相談してみようかな。
またため息が出そうになったが、ため息を吐いたって状況が変わる訳でもない。だったらするだけ無駄だ。
ため息を吐きそうになったら深呼吸に無理やり変えてやり過ごそうとしているが、気付いたらため息を吐いててどうにもならない。
ままならない状況にどうにか気分だけでも上がってくれたら何とかなるかもしれないが、上がらないものは仕方ない。
このまま手掛かりらしい手掛かりのない時間は過ごしたくないんだけど、何でどうしてこんなに手掛かりがないのか。
やっぱりお城に侵入するしかないか。
これもあたし一人じゃどうにもならないからグロリアに相談する。
「城に?」
「うん。危ないのは分かってるけど、ラフォン様の情報は全くないし、それならこの国の姫とかの情報を集めようかなって。もちろんグレースの人たちが調べたんだろうけど、あたしも何かしたくて……」
宿の部屋で聞いてみる。
ミーヌさんは隣の部屋で眠っている。あたしもグロリアも別に同室でもよかったんだけど、ミーヌさんは異性だからと固辞されてしまった。
ミーヌさんは怪我しているんだから、そこまで気にする必要はないと思うんだけど、違うんだろうか?
その辺りのことは分からないけど、今はあたしとグロリアだけだ。
聞きたいこと聞いてしまおう。
「……そうだね。でも、今から城に行ったところで今までと変わらないと思うけど」
「それは分かってる。でも、このまま何もしないのは……」
「ラナの言い分は分かる。分かるけど、ミーヌが動けないのだから、ラナのことまで気に掛けなくちゃならなくなる。王都の中はまだあたしでも力になれるよ。でも、お城の中は違う。あそこはこの国の姫の領域だ。だから、あたしとしてはラナにあそこに行って欲しくない」
「……」
きっぱりと言い切るグロリアの顔を見つめる。
グロリアはこれだけは絶対譲りたくないとでも言いたげだ。
グロリアの意見は分かる。あたしが逆の立場だったらグロリアを止めていたかもしれない。
でも、あたしはグロリアじゃない。
だから、行きたいという気持ちの方が強い。
だけど、あたしはただの孤児だからグロリアやジゼルみたいな権力はない。なので、グロリアの協力がないとお城に潜入なんて出来る訳がない。
諦めるしかないのかな。
またため息が出そうになるし、涙まで出そうになって我慢する。
泣いたって状況がよくなる訳でもないんだ。それに今は泣いてる暇なんてない。
グロリアを説得するための上手い言葉もいい材料もあたしにはない。
やっぱり諦めるしかないのかなと考えただけでも、無理やり引っ込ませた涙がまた溢れそうになってきて慌てて俯く。
「ラナの気持ちも分かる。でも、あたしたちにはやることもあるんだから」
「……うん」
「力になってあげられなくてごめんね」
「ううん。話聞いてくれただけでもよかったよ」
あたしにはこれ以上何も出来ないって分かっただけでもいい。
自分の力で諦めることなんて出来そうになかったから、まだ誰かに止められて出来なくなったってなれば、少なからず諦めがつくかもしれない。
「そろそろ帰る支度をしよう」
「あ、うん」
こっちで一ヶ月ちょい過ごした。
あまり情報を得られなかったけど、ミーヌさんの無事が分かっただけでもよしとすればいい。
あたしたちがグレースにミーヌさんの情報を持って帰れば、もしかしたらグレース側がラフォン様を見つけてくれるかもしれない。
でも、ラフォン様を放って戦争になる可能性だってある。
グレースを出る前に参加した会議ではそういった話だって出ていたのだから、充分あり得る話だ。
グロリアの話に納得は出来たけど、不安は残る。
でも、もう出発しないといけないからあたしに出来るのはラフォン様の無事を祈ることだけ。




