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国境付近でラフォン様の噂をしていたから、王都でもラフォン様のことについて何か分かるかもしれないと、その辺の人たちに声を掛けてみたが、皆一様に口が固くて何も聞き出せなかった。
なので、ラフォン様のお屋敷に向かったけれど、騎士たちがラフォン様のお屋敷を包囲していて近づけない。
何がどうしてこうなったんだろうと、調べてみようとしたが、ラフォン様の屋敷が包囲されていることは王都の人々にも予測出来なかったことで、様々な臆測が飛んでいて、どれが本当のことなのかすら分からない。
グロリアは情報屋とかいう聞いたことのない人たちを雇ってラフォン様に何があったのか調べようとしていたが、情報屋たちはこの件については、もの凄い勢いで逃げて行ってしまうので、使い物にならないとグロリアがぼやいていた。
ラフォン様に関する話が全然見えてこない。
屋敷の様子とかも含めて考えるのなら、ラフォン様がご自身の意思でグレースと連絡を絶ったと考えづらいんじゃないかな?
あたしの考えはグロリアに伝えた。
でも、あの場でラフォン様のことを見つけると言い切ってしまったから、ラフォン様が見つかりませんでしたで、グレースに帰ったら何を言われてしまうか。
グロリアもラフォン様のことを探してくれると、力強く言ってくれたので、こっちに滞在する時間が伸びたとしても、文句言われなさそうでホッとする。
でも、グロリアっていつからそんなに、ラフォン様のこと心配するようになったんだろ?
あたしが見た時は、そんなに親しそうにも見えなかったんだけど、あたしが気付かなかっただけで、本当は結構親しい間柄だったのかな?
グロリアにラフォン様と親しかったのか、聞いてみたかったけど、手分けしてあっちこっち何か手掛かりらしきものはないかと移動して回るのに忙しく、宿に戻る頃にはくたくたで得られた情報をぽつりぽつりと交換する以外は殆ど会話らしい会話はなかったので、聞きそびれてしまった。
だけど、今はそんなこと気にしている場合じゃなかったから、後で聞いてみようって気にもならなかった。
ラフォン様の安否の方が気になるし、誰に聞いても分からないのなら、城の動向を探った方がはやいんじゃない? となってそっちを調べる。
そっちの方はグレースの人たちが前々からやってるからあたしたちが今さら調べたところで、タカが知れているだろうけど、でも、やらないよりはマシなはず。
そう思って毎日出かけるのに、姫の祝福を気にしてるのか、グロリアの様子がちょっとおかしい。
「大丈夫?」
「え?」
「最近グロリアの様子が変な気がするんだけど」
「あ、うん。こんなことになるとは思ってなかったから、ちょっと、ね」
宿の部屋でボーッとしてしていたから、気になって声を掛ける。
いつもなら朝食を食べたらすぐに宿を出るのに、今日は中々朝食を食べに行かずに、ベッドの上でゴロゴロとしているんだもん。変に思うなっていう方がおかしいって。
そう思って声を掛けたらボーッとした顔のままグロリアは天井を見つめながら答える。
「気になってたんだけど、グロリアってラフォン様と仲がよかったの?」
「仲がよかったというか、まあ、一方的にあたしがからかっていたっていう方が正しかったかな」
「そうだったんだ」
他国の王族をからかうとか考えたこともないけど、そんなことして平気だと思っているってことはグロリアの家ってかなり高位の貴族ってことなのかな?
その辺り全然聞いたことないなと思って聞けば、グロリアのおばあさんが王族だったらしい。
「一応あたしにも王位継承権はあるらしいけど、そんなに高くないから気にしなくていいよ」
「気にするよ」
知らなかったからグロリアと普通に喋っていたけど、これからは気をつけた方が絶対にいいに決まっている。
もしかしなくても、今まで結構失礼なことをしちゃった可能性だってあるんだし、謝った方がいいのかな?
「そう言われるのが嫌で黙っていたんだよね」
どうするべきか悩んでいたら、グロリアは軽く笑った。
「でも、グロリアは王族の一員なんでしょ? あたしみたいな孤児が対等に話せるわけないじゃん」
「そうかな? この間貴族たちに啖呵切ってたし、ジゼルだって一応高位貴族になるんだよ」
「あれは違うっていうか……」
この間のは、頭に血がのぼってたから気付いた時には啖呵切っちゃってたし、ジゼルは元々変わった人だなぐらいにしか見てなかったんだもん。
でも、グロリアは違うじゃん。別にグロリアに会う時に怒ったりとかしてなかったしさ。
ぐだぐたと言い訳ばかりしててもお互いに納得出来そうもなくて、結局あたしはグロリアが王族だってことは聞かなかったことにした。
だって、そうじゃないと、喋らないと言われたら聞かなかったフリするのが一番懸命よね。
グロリアは剣の先生でもあるし、今は一緒にラフォン様を探しているのだから、何も喋らないのはかなり困るもん。
なので、あたしは聞かなかったことにして、普段通りの振る舞いをする。