表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/122

10

  今日はあの人が来た。


 あたしが逃げ出さないか確認だって。


 馬鹿馬鹿しい。逃げれないようにカゴに閉じ込めるだけではなく動けなくさせたのにまだ足りないというのだろうか?


 あたしに与えられるのは暴力と僅かな食事。ちょっと前まではこの場にふさわしい教育をと言っていたのにあたしがいつまで経っても覚えないという理由で他のことは取り上げられてしまった。


 あたしは自分の足でここに来たというのに、もう自由に動き回ることの出来なくなってしまったことを後悔している。


 お姉ちゃんは今もどこか太陽の下で走り回ってるんだろうか? 羨ましい。あの時声を掛けられたのがお姉ちゃんだったら……ううん。祝福を持って生まれていたのがお姉ちゃんだったらあたしはこんな目に合わなくて済んだのかな。




◇◇◇◇◇◇




「ラフォン様あたしは何したらいいですか?」

「今はそうだな……ゼランに城内を案内してもらえ」

「えっ?! またそれですか?」

「すまんな。今は特に用事がないんだ」


 ラフォン様付きになってから毎日それだけ。もう一週間になるのにあたしじゃ役立たないのかな?


 気になるがラフォン様はあたしなんか見ようともしないでミーヌさんと何か難しい話をしていてあたしの出る幕はない。


 ラフォン様に頭を撫でられすごすごと退散してゼランを探す。


 頭を撫でられるのはちょっぴり嬉しいけどラフォン様付きの侍女になったのに仕事は殆どないのはどういうことか。机の上はあたしにはちんぷんかんぷんでも国の重要な書類だから触っちゃ駄目なのは分かったが、朝と夕方に掃除するだけ食事は最初あたしが運んでいたけれど、あたしがラフォン様付きになったのが気に食わない人たちが嫌がらせをしてくるのでミーヌさんかゼランが変わりにやってくるしラフォン様のお部屋にはお花はいらないとお断りされてしまっている。


 仕事を探すのは大変だ。


 ゼランはラフォン様の護衛の仕事がない時は大体鍛練をしているから探すなら鍛練場へ行けばいいと教えてくれたのはミーヌさん。


 ミーヌさんはゼランと一緒に護衛をしているのかと思っていたけどラフォン様の補佐官という大事なお仕事をしているらしい。あたしには詳しい話を聞いてもイマイチ分からなかったので二人共難しいお仕事をしているんだなと納得した。


 途中何度か迷いそうになりながらも鍛練場に着くとゼランは木剣を振っていた。


「ラナか。どうした?」

「ラフォン様にまた案内してもらえって」


 木剣を振るう手を止めてこっちにやってきたのでラフォン様からだと。


「ああ、ちょっと待ってろ」


 最初に会った時はあたしのこと斬り殺すんじゃないかって思っていたけど、接する内に優しい人だと分かった。


 あの時のことは聞いてみたらラフォン様を守るのが仕事だからすまなかったと言われてるし、あたしも無理やりラフォン様に抱きついてしまったからとお祭りの後にもう一回謝った。


 あの時ベッドに運んでくれたのはゼランだったそうでミーヌさんへのお土産も渡しておいてくれたらしい。何から何までありがたい。


 今だって嫌な顔されないし、たまにだけどお菓子をくれる時もある。


 今度何かお礼をしたいところだけど別にいらないと言われてしまってる。


 こっそりと何か用意しようかと思ってるんだけど、先に給料は自分のために取っておけと断られてる。


 別に高い物を買おうとかじゃなくてささやかな物ぐらいならいいかなって思ってたんだけと、そう言われるとなんか買い辛いじゃないよね。


「行くか」

「うん」


 先を行くゼランの背はかなり高い。あたしはまだ子どもだしゼランは大人だから仕方ないのだろうけど、街中にいる大人の中でも背が高い方だと思う。


「ラナ」

「何?」

「そろそろ城内の覚えたところあるか?」

「えーっと、厨房とラフォン様のお部屋とこの鍛練場。えっと、他に何かあったかな?」


 鍛練場に行く時はたまに迷いそうになる。あたしの部屋はラフォン様付きの侍女だからとラフォン様の城内に与えられている部屋のすぐ側になっている。ラフォン様がお城に泊まることはないんだけど、泊まることもあるかもしれないからとラフォン様の私室と執務室の掃除は欠かさないようにしている。


「それだけ覚えたら十分だな。そこ以外のとこ見て回るぞ」

「はーい」


 あたしがユリアの姿を見かけたらゼランにすぐに教えることになっているが、今のところユリアの姿は見かけない。


 他の侍女に聞こうとしてもあたしが幼いからか声を掛けるだけで嫌そうな顔をされる。


 あの下働きの時に見た貴族っぽい人よりはマシだけどいい気分にはならないよね。


 酷い時にはラフォン様に持って行くお茶にイタズラされる時もあってゼランもミーヌさんも把握しているし、ラフォン様にも一応報告はしてくれてあるらしいけど全くなくなるということはなかった。


 あたしが城で働く人の中で最年少だと教えてくれたのは食堂で働くおばさん。噂好きな人みたいであたしの顔を見るなり色々と教えてくれた。


 あたし一人で行動しないようにと言われてるが、ゼランもミーヌさんも忙しい時があるのでイタズラが全くないっていうのは無理だけど、それでも、こうして一緒に行動してくれるのはありがたい。


 ユリアは今どこに誰といるんだろ? よく見る夢のように泣いてなければいいと思うけど、一目でも会いたい。会って抱きしめてあの輝くような笑みを見せて欲しい。


 ねえ、ユリア。あたしあなたが行くって言ってたお城に今いるよ。


 いつになるか分からないけど、あなたに会える日を夢見てお城の中で頑張ってるよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ