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新作始めました。



「お姉ちゃんどうしよ。あたしこの国の王子様に見初められたの! これってすごくない!?」

「は?」


 何を言っているのか分からなくて聞き返すけど、あたしの言葉なんか聞こえてなんかいないように顔を赤くしながら言うのは双子の妹のユリア。


 時間は夕方。もう少しユリアが帰って来るからと夕飯の準備をしていたら息急ききったユリアが駆け込んで来るなりまくし立てた。


 ユリアはあたしと同じ水色の髪を耳の上で2つに縛り、あたしと同じ色のはずの金色の瞳はどこまでもキラキラと輝いていて眩しい程だ。


 顔が赤いけれど、別に熱がある訳でもなさそうで、瞳は夢見る女の子のように輝き、頬はまるで熟れた苺のように赤く愛らしい。


 対するあたしは、ユリアと同じ水色の髪を縛るでもなく腰まである長い髪を背中に垂らし、何度も洗ってくたびれた服を着て、同じ顔でもどうしてこんなにも違うのかと同じようにボロを纏った妹のキラキラした表情を見つめている。


 どういうこと? と問いかける間もなく、妹はくるりとあたしに背中を向けてしまった。


「あたしね、貴族の養女になって王子様にふさわしい存在になる。あ、そうだ! あたしが妃になったらお姉ちゃんも貴族にしてもらうね!! じゃあねお姉ちゃん元気でね!」


 待ってと言いたいのに口が動かない。妹が去って行くのに体は鉛のように重たく一歩たりとも歩かない。


 どうして動かないの?! 早くしないとユリアが行っちゃう!


 お願いだから動いてよ! ねえ、ユリア戻って来てよ!!


 動け動けともがいている内に目が覚めた。


「……」


 ベッドから起き上がると大きく息を吐く。


 この間まで二人で暮らしていたのに、今は一人暮らしになってしまったけれど、それでも狭い部屋にため息を吐きながら洗面所に歩く。


 ベタベタの寝汗が気持ち悪い。


 ユリアが居なくなってあれから半年か。月日が経つのは早い。


 ユリアが居なくなった日の夢を見て、うなされたから朝から優雅にお風呂と洒落こみたいが、親なしの孤児は生きて行くだけで精一杯。汗を軽く拭って着替えを済ませてボロアパートを出ると仕事場へと急いだ。


「おはようございます!」

「ラナ遅いじゃないの! 今まで一体何してんだい?! 水汲みと掃除!! それが終わったら下ごしらえの手伝い!」

「はい!」


 店に着くなり、お店の女将さんから叱責が飛ぶ。それに返事をしてから水汲み用の桶を持って急いで井戸に行く。


 あたしは安い飯屋の下働きとして働いている。ユリアが居た頃はユリアも一緒に働いてたし、もうちょっと女将さんの扱いも生活もよかったけど、ユリアが居なくなってからあたしへのアタリがきつくなった。 


 まあ、仕方ないよね。


 ユリアも同じ店で働いていて、ユリアは愛想もよかったから女将さんに気に入られていたのに、愛想のよくない方のあたしが残ったから機嫌も戻らないのだろう。


 それは別にいいんだけど、仕事が増えたのに給料減らされたのはキツい。辞めてしまいたいところだが、孤児なんか雇ってくれるところなんて早々ないと諦めのため息を吐いていたらあっという間にいつも店で使う井戸にまでたどり着いた。


 この時間、いつもは井戸に沢山の人がお喋りしながら洗濯だの食器だのを洗っているから、いつもはかなり待たされるので女将さんに怒られるんだけど、今日は珍しく人は居なくてすぐに店に戻れそうで運がよかった。


 水を汲みながらふと朝見た夢を思い出す。


 朝見た夢というかあれは過去の記憶だ。それを振り払うかのように汲んだ水を持って店に戻った。


 掃除をしたりあれこれと働いているともうお客さんが入り始めている。


 いつもより水汲みが早かったから、女将さんが勘違いしてもうお客さんを入れちゃったんだ。


 急いで下ごしらえの手伝いに入りながら店内の噂話が耳に入らないかと聞き耳を立てる。


 ユリア。あたしの双子の妹。ユリアには昔から不思議な力があり、この国ではそういった人は祝福の子と呼ばれ貴族や王族に多かったが、少ないけれどあたしたちみたいな下級階級の人間から産まれることもある。 


 双子だからあたしにもあるんじゃないかって両親や周りの大人たちは期待していたらしいけど、あたしにはそんな力がないと分かるとあっさりとあたしだけ捨てようとした。


 でも、ユリアはあたしを助けに来てくれた。


 あたしだけ捨てられそうになるのが分かるとユリアはあたしと親の後をこっそりとつけ、親が居なくなるとあたしと一緒がいいと言って一緒に逃げ出した。


 逃げてからは二人でなんでもやった。


 ここ、ロンシャウの街にたどり着いて、女将さんに雇ってもらえて住むところまでお世話してもらえた時は夢じゃないかって二人してお互いの頬を何度もつねったりもした。


 夢じゃないと分かってからはお互いに抱きしめ合って一日中馬鹿みたいにはしゃぎ回った。


 辛い時も苦しい時も楽しい時も何でも二人で共有して笑っていた。


 それなのに今まで何でも共有してきたユリアが嬉しそうに結婚だと言ってあたしの元から去ってしまった。


 最初はどうして? って思った。


 いい人が居るんだったら教えてくれてもよかったのに。あたしがユリアの想い人を盗ると思った? そんな訳ない。ユリアが幸せになるんだったら全力で応援するし、邪魔だと言うのならあたしは消えたってよかった。


 それなのにあんな嘘まで吐いて出ていくことなんてなかったのに。


 王族の結婚ならばすぐに噂話として入ってきそうなのにユリアが居なくなってから半年たったが未だに何も聞かない。


 ユリアあなたは一体どこに行ったの? やっぱり騙されていたんじゃないの?


 それともあたしのことなんて忘れてどこかで楽しく暮らしているのだろうか?


 せめてユリアが元気に暮らしているかだけでも知りたい。

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