ヴィランの少年は終演に何を願うか
ある西洋の街の中。輝かしい都市の裏の裏の路地に僕はいた。
吐き捨てられた吐瀉物と汚物が撒き散らされ、小さな山になった周りをハエ達がちらちら飛んでいる。
そのハエを捕まえ、口に放り込むところから僕の一日は始まる。
僕はずっと一人だった。たまに男女二人組が
ポケットにお札を入れて、体を寄せ合いながら入ってくることはあったが、僕の顔を見ると、顔を青くして逃げ出してしまう。
いや、正確には昔は一人じゃなかった。
僕の最初の記憶は母と父の会話から始まる。
「あんたが何にも考えないからこうなったんでしょ!!」
「仕方ないだろ!? 君が誘ってきたんだ、俺は悪くない!」
「ふざけないで!! どうすんのよ!!」
僕の目の前で言い争っているのは恐らく父と母だ。僕が産まれてしまったことで喧嘩しているらしい。母の方は頭に小さい角と、口元から牙が覗いている。つまりヴィランだ。
父はそういったものはないただの人間だ。
「もういいわ! あなたなんて知らない!! こんなガキも要らないわ!!」
「ああ、こっちこそごめんだよ!!」
そうして僕は捨てられた。いや、捨てたつもりもなかったのかもしれない。
ヴィランの母と人間の父の間に産まれた僕はハーフヴィランと呼ばれている。
この世界でヴィランといえば、人を殺す悪、物を壊す害、価値のないゴミ、ゴミ、ゴミ。
でも僕はそんな風になりたくない。まずはみんなに怖がられないようにしないと。
そうだ、人助けをしよう!! そうすればきっと一人くらいは笑顔を見せてくれるはず!
そう思って体にへばりついた茶色い腐食物を剥ぎ落とし、路地からでて大通りに向かう。
そのとき―――
「危ないっ!!!」
偶然通りかかった身なりのいい親子の頭上へと花瓶が落下するのが見え、僕は駆け出していた。
「ふぅ……危なかった。」
間一髪のところで花瓶を受け止め安堵する。
「良かった、大丈――」
「キャー!! ヴィランよ!!!」
親子の母親が奇声をあげた。まばらに散らばっていた様々な身なりの人間達がわらわらと集まって口々に言う。
「ヴィランが出たぞ!」
「なんだあいつ、汚ったね。」
「殺せ殺せ! 銃持ってこい!!」
「この害獣が! 出てくるな!!」
僕は何もしていないのに、ヴィランというだけで酷い罵詈雑言が浴びせられる。
そうか。僕はヴィランだから、どんなに善行をしようとしても、優しい心を持っても所詮ただの演劇に過ぎないんだな。
でも不思議と悲しくはないや。だって悪役が死んだら人々は皆笑顔になるんでしょ?
「はははははははは! 人間達全員ぶっ殺してやるよ!!!」
すらすらと、悪役にふさわしい言葉が口をついて出てくる。やっぱりただの演劇だ。
「本性表しやがったな!! 撃てーー!!!」
バンッバン、と二発の銃声が街を揺らす。打ち出された弾は僕の皮膚を裂き、肉を断ち、骨を穿って、脳味噌をぶちまけた。
「よっしゃあ! ヴィラン殺しだ! 役所行ったら金になるな!」
「いやいやこんなガキのヴィラン殺しても、小銭にもなんねえよ!」
ギャハハハと楽しそうな笑い声が伝播していく。ふとさっきの親子に目を向けると母親の方は大口を開けて笑っているが、子供の方は不服の表情をしている。
「ねえお母さん、あのヴィランさん私たちを助けようとしてなかった?」
「そんなわけないでしょ、あんなのただの悪者よ! 騙されちゃだめ。」
「そっか……」
そんなに悲しい顔をしないで。どうか笑っていて。僕が死んでも皆が笑っているならそれで良いから。だから笑って。
どうか、僕の人生が喜劇でありますように。
誰かを笑顔に出来ることほど、幸せなことはありませんよね?
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