「カラス」 「斧」 「白」3
「たまたまカラスが飛んでいて助かったな……」
たまたまカラスが郷田の頭上を飛ぶ時間と、やつがとち狂って親友を殺そうとする時間が重なっていて助かった。それが無ければ殺されていたのは俺だっただろう。
今の結果だけ見れば俺の『能力』はいかにも強そうに見えるかもしれないが、それは大きな誤解だ。何のことはない、俺の『能力』は文字通り飛んでるカラスを斧に変える……本当にそれだけの能力。カラスから変化した斧を操る事などできないし、降り注ぐ位置を調整する事もできない。
物心ついた時から自分が『特別』である事は理解していた。こんなの超常的で非常識で誰にもできない事だと。そして特別は必ずしも『特上』ではないのだという事を。
「俺は並の人間だよ……何の役にも立たない、さ……」
たまたま頭上をカラスが飛んでいる可能性よりも、たまたま近くにいた人間が声を聞きつけて助けにきてくれる可能性の方が何百倍も高い。
俺は何かを成せるような人間ではない。志望大学はCラン。毎日必死に頑張ってそれでも所属高校に見合った程度。希望に燃えたあいつらの目とは違って、将来に何も見えちゃいない。
「……ん?」
機械的に目の前のスクロールする景色をただ眺めていた。そして道路の真ん中に佇む普通ではない何かに気付き、ふと足を止める。
そこにいたのはカラスだった。しかしただのカラスではない、特別な……白いカラスだったのである。