「カラス」 「斧」 「白」1
「あ~、『能力』に目覚めねえかな~! 『能力』さえあれば平凡な学生生活もガラリと変わるんだけどな~!」
バカみたいな事を喋りながら俺の横を歩くのは、親友の郷田だ。ここだけ聞けばまるで人が不思議な能力を持つ事が当たり前の世界のお話みたいに感じられるが、実際は郷田が夢見がちなだけである。ここは2023年の現代日本の朝だし、俺達は高校に向かって歩いている。
「時を止める能力って良いよな! いや、むしろシンプルに炎を操る能力とかさ! 俺が炎なら、お前は特別に土を操る事を許可してやるぜ!」
自分が華々しい炎をチョイスしておきながら、友人にはいかにも地味な土を押し付けてくる性根は相変わらずだ。でも炎と土なら土の方が勝ちそうだ。こいつが能力の闇に堕ちたら俺の土で殺してやろう。
俺は俺でしょうもない空想を繰り広げている横で、こいつも相変わらず「あの能力が良い」とか、「どのスタンドが欲しい」とか、好き勝手に喋りまくっている。特別相槌すら打たずとも続いていく不思議な距離感の空気。俺がこいつを親友と呼ぶ理由、心地よい関係性だった。
「てめえ何すかしてやがんだごらああああああ! こんなの全然心地よくねええええ!!」
突然郷田が拳を握りしめ、俺の頬をフルパワーでぶん殴ってきた。たまらず地面に倒れ伏す。ぼたぼたと零れ落ちる二本の奥歯を視界の端に、逆光になった郷田の顔が俺を向いていた。