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真珠湾攻撃、そして豪州東海岸砲撃  作者: ぼむぼむぶりん
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第一章 長い1941年 第一話 馬鹿が長門でやってくる

初めて書きました。

真珠湾攻撃もするなら、豪州も同時に叩くべきである。

1941年8月上旬、連合艦隊上層部内で真珠湾攻撃が検討されている頃、真珠湾攻撃に反対する人々によって少しずつ作戦の情報が海軍内の至る所でリークされ始めた。反対派たちはその投機的な作戦をやめさせるために味方を集めようとしたのだが、それは逆効果だった。山本長官の熱にあてられた一部の若手将校たちが次々と奇抜な作戦を考え始めたのである。山本一味以外の上級将校は軒並み作戦に反対ではあったのだが、若手には米国を打倒できる唯一の道という認識ができ始めていた。実際国力の差は歴然としていて、戦力差は年を経るごとに広がることは火を見るよりも明らかであった。この状況を変えるために開戦劈頭の奇襲攻撃で米太平洋艦隊を撃滅するのはたしかに理にかなっているように見えた。

だが、もっと効果のある作戦はないのだろうか。真珠湾攻撃を知った若手将校たちは軍令部や連合艦隊と言った枠組みを超えて各地で研究会を開いていった。投機的で野心的な、それでいて効果が望めそうなハイリスクハイリターンな作戦が考案されては議論の俎上に上がっていった。そのうちいくつかが、段々と「まともな」形になっていった。

やれパナマ運河爆撃だの、サンディエゴ砲撃だの様々な作戦案が出てきては消えた。そして最後に外務大臣になった元海軍大将豊田貞次郎が首を突っ込んでしまったことで投機筋の作戦は一つにまとまった。名付けて、

「豪州東海岸奇襲艦砲射撃作戦」

である。それは航空屋が鉄砲屋を焚きつけて始まった扶桑山城不要論が発端でもあった。

「扶桑も山城も違法建築の欠陥戦艦。呉の島々に一体化した活きのいい浮き砲台」

「航空機が戦艦を撃沈するなど前代未聞。標的艦ならいざ知らず、手練れの乗った戦艦の操艦に航空機が追いつけるわけがない」

「でも扶桑も山城ものろまじゃん」

「ぐう」

「植民地軍の航空機だったら大丈夫そう」

「あとやっぱ戦艦てでかいし? 砲艦外交と言えば戦艦だよね」

「太平の眠りを覚ます上喜撰、たった四杯で夜も眠れずってか」

「四杯か……ついでに伊勢と日向も行っとくか」

9月のある日、豪州攻撃勉強会と名乗る青年将校たちが長門へと直談判しに上がった。その時はたまたま山本はいなかったのであるが、参謀長宇垣少将はいたため、青年将校たちの作戦案はまず宇垣少将の目に入った。


『豪州東海岸奇襲砲撃作戦』

 扶桑、山城、伊勢、日向の四隻を基幹とする南洋艦隊を編成し、その砲力を以って豪州東海岸に艦砲射撃を敢行。而る後、豪州政府に砲門を向けた状態で訪問し、その場で外交交渉を行った上で豪州政府を降伏せしめんとす。豪州空軍には戦艦四隻を撃沈せしめる戦力はなく、航空機の援護なくとも作戦遂行は可能なりと思われる。


「これは君たちが考えたのか?」

「はい! 我々は真珠湾攻撃に匹敵する壮大な作戦だと自負しております」

「航続距離的に不安があると思われるが」

「その場で豪州政府を下し、豪州から石油をぶんどって帰って来れば問題はありません!」

「ということは、片道切符ということか?」

「はい! 帝国海軍に片道切符を恐れる怯懦な者などおりませぬ」

往復を考えていない馬鹿な作戦ではあったが、確かに現地で下した後に補給すれば問題ないようにも思えた。もちろんそれは降伏の条件などにもよるのだが……

「よろしい! 連合艦隊参謀長たる私がまず預かろう」

「ありがとうございます!」

突然押しかけた青年将校たちを咎めるつもりではあったが、宇垣は柄にもなくその作戦案に興奮してしまった。あの黄金仮面と言われた宇垣が破顔していたのを見て、周囲の人間は珍しいものだと拝み始めたと言う。

宇垣は大艦巨砲主義者である。青年将校らの考案した大鑑巨砲外交とでも言うべき壮大な作戦案は、実に自分の趣味趣向とマッチしていた。山本から冷遇され、参謀長という立場ながら作戦立案の立場から外されていた宇垣は、この案を連合艦隊として後押ししようと考えていた。自らの鉄砲屋の人脈を使い、軍令部に根回しをした上で、山本の裁決を取ろうとした。

若干の宇垣による修正を経たこの作戦案を見て、最初山本は渋い顔をした。しかししばらく考えたのち、これは名案だとして軍令部総長永野大将にも直で掛け合うことにした。軍政家山本五十六としての思考が、鉄砲屋のガス抜きをしつつ、失敗をすれば航空屋の発言権拡大できると考えたのである。めんどくさい鉄砲屋たちが総出でオーストラリアくんだりまで出掛けるのは喜ばしいことだと思っていたし、真珠湾攻撃と違って足の遅い艦隊での奇襲となるため失敗も予想していた。なんなら今後の航空屋の発言権拡大のためにも鉄砲屋にはできるだけ失敗して欲しかった。成功した場合も連合艦隊の司令長官として自分の手柄になるとも思った。

また、この作戦案は艦隊の編成にも大きく影響を与えた。当時の世界の認識だと扶桑山城は欠陥という見方はされていたが、伊勢日向はビッグセブンに次ぐクラスだと認識されていた。そのため真珠湾攻撃では第一艦隊所属の長門、陸奥、伊勢、日向は空母機動部隊の後詰めとして期待されていた(扶桑山城も所属はしていたが期待はされていなかった)。長門、陸奥だけでは心もとないと思うものたちもいたが、山本長官は航空攻撃の失敗すなわち作戦の失敗であるので、後詰めがいてもいなくても変わらないのではと考えていた。

とは言え後詰めとして戦艦が二隻だけ待機するのは馬鹿馬鹿しいので空母機動部隊に随伴することとあいなった。長門も陸奥も空母機動部隊と比べて遅いのだが、巡航速度であればついていけないことはない。それにいまだに指揮官先頭を好む輩の多い海軍において、山本長官自ら長門に乗って真珠湾攻撃に参加するというのはそれなりに意義のあることであった。鉄砲屋たちに後ろ指を刺されることなく戦争で指揮をとれる、真珠湾攻撃を現地で主導したという経験もあれば今後の海軍内での発言権を拡大できる、などなど。これにあたって第一航空艦隊司令を南雲中将から小沢中将にし、南雲中将を南洋艦隊(豪州作戦に伴い新設された艦隊)司令にするという人事が行われた。他にも爆撃回避法なるものを考案して航空屋鉄砲屋双方で話題になっていた松田大佐が日向艦長に抜擢された。

こうして始まった豪州作戦は豊田貞次郎外務大臣の肝煎りもあり、豪州東海岸を砲撃して回りつつそのままシドニー、もしくはメルボルンに砲門を向けて降伏勧告をするということになった。よって、交渉のための外交団も乗り組んだ上での作戦となったのである。日本を開国しにきた憎き黒船と同じようなことを白人国家に対してするというので、海軍も外務省も大盛り上がりであった。本来は真珠湾攻撃も豪州砲撃作戦も極秘作戦なため、一部の人間にしか知られていないはずだったが、海軍内のリークとその後の若手の勉強会によって徐々に広がっていったのである。

もちろんそれは諜報能力の高いイギリスでも把握するところになったのだが、その馬鹿馬鹿しい作戦を真剣に受け止めていなかった。戦後、あのチャーチルまでもがまさかやるとは思っていなかったと回顧するほどである。イギリス紳士が思うよりも日本というのは馬鹿な国なのである。アメリカも真珠湾攻撃の情報を掴んではいたが、その実現可能性について懐疑的であり、さらに太平洋艦隊の戦力に自信を持っていたため特段対策をすると言うことはなかった。

戦艦部隊の人員選定は、南洋艦隊に行きたがる人間もいたので若干もめたのであるが、大半はハンモックナンバーで決められ大した支障もなく終わった。南洋艦隊は南雲と松田の指揮の下、航空機対策を考えた艦隊運動に修練し、来るべき日に備えた。

逆に外交団の人員選定は難航した。こんな命の危険が伴ういかれた作戦に同行し、かつその場で降伏させるなど前代未聞である。最終的に英語に達者で英米に詳しい人材として吉田茂が選ばれた。彼が外交団に選ばれた時に、

「馬鹿野郎」

と言ったかどうかは定かではない。戦後を考えればおそらく言ったのだろうが、彼は当時のことを黙して語らなかった。

そして、ハルノートが渡され、日米交渉の決裂が見えた頃。単冠湾から北方航路を第一航空艦隊が進み、トラックから南方航路を南洋艦隊が進んだ。

潜水艦と甲標的でシドニー攻撃はあったんですけど、戦艦でやればよくね? と思って書きました。米豪遮断作戦が始まってからは南太平洋に米軍機がわらわらいてできないので、開戦劈頭、ソロモン諸島に航空機がいないタイミングでやれば案外成功するんじゃないかなと思いました。まあ頑張って完結させたいので多少のことには目を瞑って見守ってくださるとありがたいです。資料が手元にたくさんあるわけじゃ無いのでいろんな情報くださると勉強になるので嬉しいです。

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