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余命一日と言われたので、好きに生きてみた

作者: NEET0Tk

「明日死にますねぇ」

「へ?」


 俺は耳を疑った。


「え、えっと、すみません。風邪が悪化したみたいです。もう一度お願いします」

「ここ」


 医者は俺のレントゲン写真を指差す。


「この白い部分、分かる?」

「はい……」

「これ多分癌」

「タブンガン!!」


 何だその病気は!!


「それはまずいんですか?」

「不味いね。てか死ぬね。何で生きてるの?」

「ど、どうしてでしょう……」


 そうか……俺は普通死んでるのか。


「ま、どう考えても明日には確実に死ぬね、うん」


 そして医者はあっさりと俺を家に帰した。


 ◇◆◇◆


「死ぬの?」


 未だに現実が受け止めきれない。


「そっか……」


 風邪だと思ってた病気は、どうやら俺を確実に死に至らしめるものだったらしい。


「俺、何もしてねぇよ」


 思い出が蘇る。


 小学生でバカやって先生に怒られたり、中学校で幼馴染を好きになったけど、結局今の今まで告白できてないし、それに


「なーんか、おっきいことしたかったなぁ」


 余命短い俺は、現実逃避とばかりにそのまま眠りについた。


 ◇◆◇◆


「海斗ー、ご飯よー」


 階段から大きな足音が響く。


「おはよう!!母さん!!」

「あ、あらおはよう。今日も元気ね」

「当たり前だろ」


 俺はこれまでの人生の感謝を込め、最期の母の味を噛み締める。


「美味しいよ、母さん。これまで沢山のご飯を食べてきたけど、やっぱり母さんのご飯が一番美味しいよ」

「どうしたの?海斗。熱でもあるの?」

「熱ならなかったよ。残念なことにね」


 俺は学校に行く準備を整え


「母さん、ハグしていい?」

「ホントにどうしたの?いつもは恥ずかしがるのに」

「偶にはいいかなって」


 俺は母親とハグを交わす。


「大きくなったわね」


 その一言に涙が溢れそうになる。


 俺はこの人に何か恩を返せただろうか?


 一人っ子の俺をここまで可愛がって育てた母さんに、孫の顔でも見せてやりたかった。


「母さん、今まで言えなかったけど、言わせてくれ。こんな不甲斐ない俺を、育ててくれてありがとう」

「ホントにどうしたの?お母さん嬉しくて泣いちゃうよ?」


 きっと明日になれば、その涙は悲しみに変わっているのだろう。


 でも、せめて今は


「ありがとう、母さん」

「ええ、海斗も立派に育ってくれてありがとう」


 母さんはゆっくり俺を剥がす。


「ほら、もう学校の時間よ?」


 少し涙目の母さんが背中を押す。


「行ってらっしゃい」

「ああ」


 これが最期の行ってらっしゃいか。


「行ってきます」


 ◇◆◇◆


「あれ?海斗今日は早いね」


 家の前には幼馴染の舞。


 性格も明るく、可愛いため学校では当然のように人気者さ。


 だけど何故か全ての告白を悉く断っているらしい。


「どうしたの?ボケっとした顔して。ほら、早く学校行こ」

「舞」

「どうしたの?今日はやけに真剣だね」

「好きだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「え?」


 俺の魂の告白に


「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」


 舞も同じようにどでかい声で返す。


「い、今のって…もしかして、もしかしなくとも告白?」

「返事はいい」


 俺も分かってる。


 俺なんかが舞に釣り合うはずないと。


 だが、今日だけは


「今日だけは俺の彼女になってもらう!!」


 俺は無理矢理舞の手を握り、走り出す。


「え!!ちょっと待って!!あ……でもいつもと違って積極的な海斗もいいかも」


 久しぶりに彼女と手を握る。


 あの頃とは違い、こんなにも手の大きさが変わっている。


 でも


「見ろ!!舞。俺らの中学校だ!!」

「もう!!いつも通ってるから!!」


 あの時も


「俺らが遊んだ公園だ!!」

「泥団子投げたこと今も恨んでるから!!」


 この時も


「犬に追いかけられた舞を俺が助けたところだ!!」

「あの時はありがとう!!」


 思い出が繋がる。


「舞」

「海斗?」


 もうすぐ学校に着く。


「今日も最高の一日にしような」

「海……斗……」


 舞が異変に気付く。


 でももう遅い。


「悪いが今日の俺は無敵だ!!」


 舞を抱きしめる。


「俺の勝ち」


 こうして目の焦点が合わない舞を置いて、俺は学校に走り出した。



 ◇◆◇◆



「おはよう!!」


 俺は元気一杯に挨拶をする。


「お、おう、おはよう海斗」


 最初に返事を返したのは親友の長門。


「お前が早起きとは珍しいな。何かことあったのか?」

「逆だ!!」


 死ぬからな。


「何だ?空元気というか、むしろ吹っ切れたみたいな感じか」

「そんな感じだ」


 長門はとりあえず座れよと言って席を指す。


「こういう日常も……最期か」


 俺は素直に席に座る。


「実は海斗に話したいことがあってさ。昨日な」


 そうして俺はいつもと変わらない雑談を繰り返す。


「なんだ、いつもなら適当に返すのに、今日はやけに真剣に俺の話聞いてくれるな」

「そうか?俺はいつだってお前の話を面白いと思ってるぞ?」


 じゃなきゃこうして仲良くなってない。


「どうした急に気持ち悪ぃ」

「そうだな」

「マジでどうした?なんか辛いことでもあったのか?」


 真面目に心配してくれてる。


 いつもはふざけた奴だが、こうして最期の目で見てみると俺には勿体ないくらいよく出来た友人だ。


「なんでもねぇよ」


 だからこそ今日くらい


「そうだ、昼休み久しぶりにあれしようぜ、あれ」

「あれってもしかして屋上の?」

「ああ」

「あれは中学で卒業しただろ?」

「いいじゃねーか。初心に帰るって奴だ」

「まぁ、いいけどさ」


 少し躊躇いながら、長門は引き受けてくれる。


 そして


「お!!愛しの幼馴染の登場だ」


 長門が茶化すように伝えてくる。


「そうだな」


 俺はどこか上の空である舞に近付き。


「ほら、舞も一緒に話そうぜ」


 俺はこれでもかとキメ顔を作る。


 普段なら恥ずかしくて出来ないが、今の俺は別だ。


「!!!!!!!!」


 舞はこれまでにない程慌てふためき


「私保健室行ってくりゅ!!」


 ダッシュで廊下を走っていった。


「おーい、怪我するなよー」


 俺は先生みたいな台詞で舞を見送った。


「何かあったのか?」

「別に。告白して抱きしめただけだ」

「なーんだ、告白して抱きしめただーー」


 長門は持ってたシャーペンを落とす。


「おい、落ちたぞ」


 俺はシャーペンを拾って渡そうとする。


「こんなもんいらんわぁあああああああああああああああああああああああああああああ」


 シャーペンが凄い勢いで地面にバウンドする。


「え?マジでどうしたお前!!何かの冗談じゃないよな?どこかに隠しカメラがあるとか?」

「アッハッハ、アニメの見過ぎだ長門」

「俺はそのアニメの世界みたいな現象に驚いてんだ!!」


 長門が息を荒げる。


「返事は?」

「え?」

「返事はもらったのか?」


 急にどうしたんだ?


 長門がやけに真剣に尋ねてくる。


「俺が舞と付き合えるはずないだろ」

「え?まさか振られたのか?」

「いや、返事はいらないって言った。俺はとりあえずこの思いだけは精算しておこうと思ってな」

「いやいやいやいや」


 長門は全力で手を顔の前で振る。


「陰でエセ鈍感系主人公と言われてるお前が、告白したんだぞ?」

「俺そんな不名誉なあだ名で呼ばれてたの?」

「もうあと一歩じゃん。一歩どころかお前がオーバーフローして先越しちゃってるじゃん。ずっと待ってた舞が急にジェット機乗ったお前に抜かれてビックリだわ」

「何言ってんだお前?」


 急に親友が壊れてしまった。


「俺は満足だ。舞を好きになったこと、このことに悔いはない」

「悔いはないどころか成就するよ?お前って何でいつも少しズレてるんだ?」

「さぁ」


 確かに昔から少し変だと言われてきたが


「それもいつか笑い話になる」


 だから


「今日はとにかく楽しもうぜ」


 俺は笑った。



 ◇◆◇◆



「この問題、分かるやついるか?」

「はい!!」


 俺は元気よく手をあげる。


「お!!じゃあ海斗」

「特殊相対性理論です」

「海斗、今は地理の時間だ」

「ならフィヨルドかツンドラ気候の二択ですね」

「答えはアメリカだ」


 先生が「もういい座れ」と悩ましげに言う。


「珍しいやつが手をあげるから当ててみたが、何だ?急に高校生デビューでもしたくなったか?」

「いえ、高校入学の時に髪を一センチ切ったのに誰も気付かなかったことからデビュー系は基本しないようにしてます」

「それに気付いたら多分それはストーカーだ。むしろ炙り出すのにちょうどいいかもな」


 先生が謎にウンウン唸りながら、切り替えるように授業を続けた。


「はい授業終わり。礼はだるいからすんな。あと海斗、お前ちょっと来い」


 なんだろう?


 俺は廊下で待っている先生の元に行く。


 先生はタバコを口から離す動作をするが、ないことに気付き少し残念そうにする。


「なんだ?お前イジメられてるのか?」

「いえ特に」

「そうか、ないならないでいいし、あるならあるでちゃんと言え。多少助けになる」

「本当に大丈夫ですから」


 どうやら俺の無敵モードをイジメと勘違いしたようだ。


 普段は気怠げだけど、いい先生だ。


「先生こそタバコを控えては?」


 俺は自分が思ってるよりも悲しげに言葉を吐露する


「確かに人生はいつ終わるか分かりません。だからこそ、今を楽しむのは大事です。ですが、いざ目の前に死神が来た時。初めて自分達は当たり前の日常に感謝するんです」

「……」

「タバコ一本は人生の30分を削ると言われてます。その30分で、先生は家族に、大切な人に、思いを伝えられないかもしれませんよ?」


 先生は大きくため息を吐く。


「餓鬼のくせに人生語んな」


 怒られた。


「そういうのは俺らみたいな歳とって死にかけた奴の言うべき言葉だ。お前にはまだ早い」

「そうですね」

「だがまぁ」


 先生はポケットのタバコを一本だけ取り出し


「しょうがねぇから今日はこの一本で終わりにしてやる」


 そうして先生は廊下を歩いて行った。


 それと同時に鐘が鳴り


「あ、そっか」


 俺は気付く


「もう昼休みか」


 長門と約束していた時間だ。


「久しぶりだな」


 俺は胸を昂らせた。



 ◇◆◇◆



「来たか」


 どうやら長門は先に着いていたようだ。


「懐かしいな」

「あの時とは景色も身長も変わったな」


 俺らは侵入禁止の屋上から外の景色を眺める。


「バレたら退学か?」

「さすがに謹慎くらいだろ」


 とりあえずバレたらバレたでしょうがない。


 俺はどうせ死ぬし。


「さて」


 長門は座り


「食うか」

「そうだな」


 これまで引きずって何だか、俺らのすることはただの昼食。


 入ったらダメと言われてる場所で食う飯は、色んな意味でスパイシーだった。


「この時が一番生を実感する」

「死と隣り合わせって感じだよな」


 中々的を得てるな。


 すると


「なぁ海斗。なんか声がしねぇか?」

「確かに」


 俺ら以外にも誰かいるのか?


 屋上はかなり広く、凸凹しているため隠れんぼができそうな感じだ。


 声のする方に行くと


「おい、あれって」


 長門が声を上げる。


「おい、さっさと金出せよ」

「俺ら今月だいぶやべぇんだ」

「で、でも、先月貸したお金もまだ返されてーー」

「まさかお前、友達の俺らの頼みが聞けないってわけ?」


 どう考えてもカツ上げの現場だ。


「俺、先生呼んでくーー」

「おい!!」


 もちろん俺は飛び出す。


「なんだぁ?てめぇ」


 ヤンキーがキレたような声を出す。


「悪いがお前らの悪事はここまでだ」


 俺は携帯を取り出す。


「ここにお前らのやったことは録画させてもらった」

「な!!何してんだお前!!」

「おっと動くな」


 俺はフォロワー数が何故か多いサイトを開く。


「お前らがこのまま尻尾巻いて逃げるっていうなら見逃してやってもいい」

「てめ!!あんま調子乗ってると」

「待て」


 リーダーらしき男がゴニョゴニョと何かを相談し出す。


「チッ!!」


 短気そうな男は舌打ちを漏らす。


 その後、俺の横をゾロゾロと帰っていく連中。


「おい、海斗」


 心配そうに声をかける長門。


「大丈夫かよ。こんなことしたら今度はお前が」

「いいんだよ」


 どうせ明日からの俺はいないんだ。


「大丈夫か?」

「あ、あの、ありがとうございます」


 身長の小さな男は、落ちていたメガネをかけ、お辞儀する。


「いいんだよ」


 俺は昼飯の続きに入ろうとすると


「あ、あの」


 携帯を取り出す男。


「フォロー……していてもいいですか?」

「あー」


 うーん、ここで関わり持ってもなー。


 でも


「いいよ」


 最期くらい好きにさせてもらおう。


「行こうぜ長門」

「おう」


 こうして昼休みを終え、そのままいつも通りの学校生活が終わった。


「うーん」


 結局舞は帰って来なかったな。


「もしかしたら結構重症なのかも」


 今朝は元気そうだったが、元気だからって症状が軽いなんてありえない。


 それが今の俺なんだから。


 俺は保健室に足を運ぶ。


「失礼しまーす」


 俺は保健室に入る。


 どうやら先生は出払ってるようだ。


「舞いるか?」


 すると寝息が聞こえる。


「舞?」


 カーテンを開けると


「ス、スー、スススー」


 不可思議な寝息を立てる舞。


「なんだ、寝てたのか」


 よかった、どうやら重い病気じゃなさそうだ。


「よっこらせ」


 俺は椅子に座る。


「は!!」


 気付く。


「今なら好きなことできるのでは!!」

「!!」


 一瞬舞から変な声が出た気がする。


「そうだよ」


 今思えば俺は無敵の人。


「グヘヘ」


 最期くらい楽しませてもらおうじゃないか。


 なんだが舞の首が横に凄いスピードで動いている気がするが、気にしない。


「おら!!」


 掛け声と共に


「おらおら」


 俺は舞のほっぺたを突く。


「クックック、普段どれだけこうしていたかったことか」


 さっきまで急速に動いていた舞は止まり、今は熱があるのか、耳が真っ赤である。


「あーあ」


 この幸せも今日で終わりなのか。


「楽しかったな」


 今日まで本当に楽しかった。


「小学生の頃、俺と舞が夫婦だって揶揄われてた時、嫌がってたけど本当は満更でもなかったんだ」


 思い出す。


「実はさ、健太が舞に告白するって言って、応援するって俺は言ったけど、実はこっそり邪魔してたのは内緒な」


 健太は他校に行っちまったけど、また会いたいな。


「中学生でさ、舞のことが好きって気付いた時は嬉しさと悲しさがあったな」


 その時既に舞は人気者で、俺なんかじゃもう手の届かない場所にいた。


「でも、舞は毎日のように学校に一緒に行ってくれたり、ご飯は俺と長門と食べてくれたり、嬉しかったよ」


 ずっと友情を大切にしてくれているようで。


「だけど、それも今日で終わりだ」


 これまでの友情はもう無くそう。


「大好きだ、舞」


 告白の仕方なんて分からないからこんなことしか言えない。


「今まで俺に構ってた時間を割けば、舞ならきっとイケメン俳優だって狙える」


 きっと舞は優しいから、俺が死んだらずっと、ずっと引きずってしまう。


「だから、俺のことなんて忘れるくらいさ、幸せになってくれよ」


 いつの間にか涙が溢れる。


「俺が……死んでよかったって思わせてくれ……」


 死にたくない


「死にたくねぇよ」


 なんで俺なんだよ。


「どうして俺から幸せを奪うんだよ」


 溢れる


「俺……まだ何もしてねぇよ」


 これから失恋して、でも友達に慰められて、必死こいて勉強して、何だかんだで楽しい日々を


「奪わないでくれ……」


 いつの間にか、俺は舞の胸の中にいた。


「海斗」


 舞は優しく喋りかける。


「私昨日ね、海斗の独り言聴いてたんだ」


 帰り道って


「もしかして」

「今日までなんでしょ?」


 知ってたのか。


「だから私さ、頑張っていつも通り振る舞おうとしたんだ」

「……」

「でもね……ダメだった」


 鼻声になる舞。


「ダメなの」


 俺の目頭も熱くなる。


「嫌だよぉ、いなくならないでよぉ」

「……」

「先越されちゃったけどさ、私も海斗に言いたいことがあるの」


 向き合う。


 涙で潤う彼女の目に、同じく涙を流す俺の姿が映る。


「ずっと、ずっと好きでした。漫画みたいに理由があるわけじゃないけど、一緒に笑って、一緒に喜んで、一緒に悲しんで一緒に泣く。それだけで幸せだった」

「なんだよ」


 やっぱり俺は遅すぎたんだな。


「ごめんな、舞」

「ううん」

「俺よりいい男見つけろよ」

「海斗よりいい人なんていないよ」

「毎日笑って生きてくれ」

「海斗がいない世界じゃ笑えないよ」

「俺を……忘れてくれ」

「忘れたくない」


 舞は悲しそうに


「忘れたくないよ」


 心が痛む。


 好きな人にこんな顔をさせてしまう自分が許せなかった。


 それ以上にそんな彼女に対して


「頼む」


 こんな言葉をかける自分がもっと嫌いだ。



 ◇◆◇◆



「かなりの熱ね」


 舞はその後、まるで死んだように倒れた。


 それと同時に帰ってきた先生が舞を診る。


「夜更かしでもしたんでしょうね」


 優しく布団を被せる。


「親御さんを呼ぶから、君はもう帰りなさい」

「はい」


 俺はそのまま夕暮れを背に、学校を出る。


 すると正門前に


「よ」


 長門は立っていた。


「忘れ物か?」

「親友の様子くらい気付く」


 長門は歩く俺の横に並ぶ。


「俺さ、今日で死ぬらしい」

「そういう冗談って一番タチが悪いよな」

「俺もそう思う」


 無言


「なんだって」

「癌だって」

「有名だな」


 また無言


「突然だな」

「突然だよ、死ぬのはいつだって」


 その言葉を真の意味で知る。


「お前も後悔すんな」

「俺は後悔する生き方なんてしたことねぇよ」

「そうか」


 ならさ


「舞をーー」

「ダメだ」


 遮られる。


「一発殴らせろ」


 そして本当に殴られる。


「次、そんなこと口走ったら殺す」

「結局今日で死ぬのにか?」

「ああ。癌如きで死ぬような男は俺が先に殺してやる」

「……」

「まさか、親友を殺人鬼にするような奴はいないよな」

「そうだな」


 俺は長門の手を掴む。


「そんなクズ死ぬ価値もない」


 長門はニカっと笑う。


「今日ファミレスで食うか」

「俺一番高いあのステーキ食うわ」

「さすが、死ぬ男はつえー」


 笑いながら道を歩く。


 やっぱり長門は最高の親友だった。



 ◇◆◇◆



「遅刻すんなよ」


 長門はそう言って帰っていった。


「おう」


 俺は長門が見えなくなるまで、手を振った。


「夜は冷えるな」


 満天の星を眺める。


「星って確か死んだ惑星の光だっけか」


 浅い知識で思い出す。


「死に際が一番カッコいいっていいな」


 俺もああなりたい。


「男なら、最期くらいデカいことして終わるか」


 俺は携帯を取り出し、撮影を始める。


 最初で最期の黒歴史を作る。


「どうも、海斗って言います。今日は余命0日の男の最期の言葉という動画を撮らせて頂きます」


 俺は人気のない場所で一人でカメラに向かって喋る。


「母親には感謝の気持ちを伝えましょう。人間いつ死ぬか分からないって言いますけど、明日生きれるなら関係良好の家族の方がいいです。だから今すぐ感謝を伝えましょう」


 喋る。


「好きな子がいるなら告白しましょう。成功したらラッキー、失敗したら慰めてもらいましょう。諦めきれないなら諦めなければいい。そんないい相手を逃すなんて死んでも死にきれませんよ。ま、俺は死ぬんですけどね」


 喋る。


「友人は大切にしましょう。楽しい時もあれば、何気ない言葉が突き刺さることがあります。実際さっき親友に殴られちゃいました。でも、やっぱりあいつといれてよかったと思いました」


 喋る。


「よし」


 思ったより長くなってしまった。


「ネットのオモチャになーれ」


 ネットにアップする。


「うっし」


 俺は最期に病院に行くことにした。


「これで誤診だったら面白いのにな」



 ◇◆◇◆



「誤診ですね」

「……は?」


 は?


「その人は最近入った認知症の方で、昔は有名な方だったそうですが、今ではただのヤブ医者です。勝手に入って勝手に診察するから困ってるんですよね。本当だったら気付くんですが、昨日は忙しくて」

「じゃ、じゃあ」


 もしかして俺


「死なないん……ですか?」

「はい。軽い風邪ですね。もう体の調子は悪くないでしょう?」

「ま、まぁ」

「そもそも、明日死ぬ方がそれだけ動けるはずないじゃないですか」


 バカにするように笑われる。


「もしかしてですが、何かやらかしましたか?」


 今日一日の出来事を思い返す。


「やらかしました」

「そうですか」


 何かを書き込み


「安定剤処方しておきました。後は頑張って下さい」


 嘲笑と共に、俺は病院を追い出された。



 ◇◆◇◆



「海斗ー、ご飯よー」


 階段から大きな足跡が響く。


「母さん!!」

「あら、今日も元気ね」

「母さんも今日も美人だね!!」

「まぁ、ありがと。ほら、海斗の好きなご飯よ」

「やったぜ!!」


 海斗は噛み締めるようにご飯を平らげる。


「美味い!!」

「作りがいがあるわ」


 こうして食事を終えた海斗は急いで準備をする。


「そんなに急がなくても学校は逃げないわよ?」

「可愛い彼女が待ってるんだ」

「あらあら、それなら急がなきゃね」

「行ってきまーす」

「はい、行ってらっしゃい」


 玄関から出た海斗の前には


「おはよう、海斗」

「おはよう、舞」


 自然と手を繋ぐ二人。


「慣れないな」

「いきなりハグしてきた人の台詞じゃないと思うな」

「いやー、あの時は無敵だったからさ」

「なら、無敵じゃないとハグできないの?」


 舞はウリウリと海斗の横腹を突く。


「よーし、煽ったのはそっちだからな」


 海斗は舞をお姫様抱っこし


「全校生徒に見せつけてやる!!」

「ちょ!!ご、ごめーん。私が悪かったから!!」


 恥ずかしがりながらも楽しそうに二人は笑った。


 そしてしばらくして、学校近くにたどり着く二人。


「お!!」


 何かを見つける海斗。


「おはよう先生、タバコは程々に」

「だから最近電子タバコに変えたんだ。お前らこそあんまりハメ外すなよ」

「無理です!!」


 そして


「よう、お二人さん」


 正門前で二人は長門と合流する。


「今日も熱々だな」

「冷めるのは死んだ後だけでいい」

「海斗って死ぬネタ増えたよね」


 海斗は舞を下ろし、並んで学校に向かう。


 すると自然と注目が集まる。


「いやー、有名人二人と並ぶと気まずいな」

「何言ってんだ。ただの一時期の熱だよこんなの」


 海斗上げた動画は、とある有名人が拡散したこと、内容が感動的であったこと、そして海斗が死ななかったという勘違いにより爆発的人気を叩き出した。


 その結果例のヤンキー達も下手に動けなくなり、平和な学校が戻る。


「有名人の彼女として鼻が高いね」

「俺も人気な彼女を持って鼻が高いね」

「はいはい、惚気惚気」


 楽しい日々がより楽しい日々になることもあれば、突然奪われることだってある。


 そんな理不尽で、楽しい世界で今日も生きていく。


 ここで最後に一つ


「明日死ぬとしたら何する?」


 後悔しない人生を

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― 新着の感想 ―
[良い点] テンポのいい展開で面白かったです 周りの人達への感謝を忘れないようにしたいですね 素敵な作品をありがとうございます!
[良い点] 短編小説で1番好きです。 最近辛いことが多かったのですが少し気が楽になりました。
2022/08/24 13:26 退会済み
管理
[良い点] とても考えさせられる小説でした まさか短編で泣く日がくるとは…w この小説を生み出して下さりありがとうございますm(*_ _)m
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