表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

違った時代にて

作者: 小松真琴

 真っ白いTシャツを身につけた若者は、道を歩いていた。

 今日も今日とてタイムマシンの娯楽に興じるつもりなのである。しかし、このタイムマシンの娯楽は、一時期金持ちに流行ったものの、ある欠点においてウケが悪く、すぐに大衆の娯楽へとなりさがった。

 道端の電気屋の看板の上に設置されたディスプレイは隣国と自国の戦争勃発について話されていた。

 「核兵器はまだ使われていませんが、なぜ使われないのでしょう」

 「それはやはり、残虐性があまりにも強く、他の国から批判が大きいからでしょう。輸入が止まれば戦争の負北が目の前になってしまいますから」

 「なるほど。あと、根本的な質問ですが、なぜ自国は戦争を受け入れ、応戦したのでしょうか」

 「自国は貧困に苛まれています。ここでエイ国に勝ってしまえば、経済効果も見込めます」

 自分達は戦争の外側にいると思っているスーツの老人たちは好き勝手に自分の論を展開している。

 一般の若者に兵役が課せられるのは時間の問題だった。これまで災害などに対処するために置かれた兵隊たちは、ほとんど戦争で命を狩られてしまった。

 この若者は今度は自分に兵役が回ってきて命が潰えることを考えると、もはやそのときまで貯金を切り崩し、娯楽を楽しむしかない。現在に絶望を感じたので、過去を体験できるタイムマシンにハマってしまったのである。

 ビイ時間旅行店についたのは昼過ぎだった。受付で簡単な契約書にサインをし、若者は受付の女性に注意点を説明された。

 「ではこれから話す注意について、注意深く留意してください。まず、時間旅行先で起こったすべての出来事について当店は責任を持ちません。つぎに、この時間旅行で得た記憶は現在に帰ってくると同時に消え去ります。ただし、感情は残ります」

 そう、この一点こそが金持ちに流行らなかった理由である。時間旅行をしても、記憶は全て消えてしまうのである。しかし、感情は残るので、楽しかったなどの心の体験を残すことができる。

 「お姉さん、ひとつ聞きたいんですけど」

 「はい、なんでしょう」

 「未来に行くのは無理なんですか」

 「お客さま、以前にもご説明しましたが、技術的には可能です。しかし、未来に行ってしまうと様々な問題点が残ってしまうので法律で禁止されているのです」

 「そうですか」

 若者は部屋に案内され、円盤型のタイムマシンに乗り込んだ。

 技術者は若者に尋ねる。

 「お客さん、いつ頃にタイムリープしましょうか」

 「そうだな、今日は3年前くらいの近い過去にします」

 「わかりました」

 技術者はダイヤルを回すと、時間を設定した。

 機械の音がだんだん大きくなり、フッと円盤が消えた。無事に時間旅行ができたのである。

 若者は円盤から降りた。すると不思議なことに地面が砂でできていた。ここ10年ほどで地球上の地面のほとんどはアスファルトで覆われていたので、若者は驚いた。

 地面から前を見上げるが、辺り一面すべて、本で見た砂漠のようになっている。人さえいない。

 若者は歩みをすすめた。砂の上を踏んだことのない足は、不思議な感じがした。

 「3年前というと普通の都市だったはずだぞ。砂漠なんて何年も前に全て消えてしまったはずだ。さては、3年前のはずが三百年前に飛ばしてしまったんだな。あの技術者め」

 そう思いながらも、若者はこの状況を楽しんでいた。

 しかし、歩けど歩けど何も見つからない。全て砂だ。若者はもはや帰ろうと思い、方位磁石を頼りに円盤にもどる。

 円盤がようやく見えて、若者はひと安心した。一体何年前にタイムリープしたのかと、円盤の中の時計を覗く。

 すると、円盤は三年前ではなく、三年後にきていた。つまりここは未来だった。

 若者は技術者が間違えて三年後に送ってしまったことに気づいた。アホだなあと思っていたが、ある事実に気がついた。

 「未来なのにどうして砂漠なんかになっているんだ」

 しばらく考えて、まさかと思い、その考えを口に出してしまった。

 「もしかして、核戦争が起こって、それで、ああ」

 若者はうなだれた。自分が現在に戻っても記憶は綺麗さっぱり消えてしまう。しかしすることもないから、戻るしかない。

 仕方なく円盤のスイッチを押し、現在に戻る。

 技術者は尋ねた。「いかがでしたか?」

 若者は答えた。「なんだか、とてつもない絶望感を覚えた気がします」

 若者は絶望感の理由を必死に思い出そうとするが、それは無駄なことだった。

 家路に着く途中、公園では子供がボール遊びをしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ