私とお花見
神社の裏山の頂上に大きな桜の木がある。今年も薄桃色が湧いているのを見つけた私は思わず「あ、」と声を上げ、隣の幼馴染は「明日、10時」と言った。それから帰り道を外れてコンビニへ行き、それぞれスポーツドリンクを一本ずつ買った。私はついでにチョコレートも。山の上で食べるおやつは格別に美味しいから。
約束の時間ぴったりにうちに来た幼馴染と一緒に、ひたすら階段を登っている。神社の所有である裏山は大きくて高くて、住宅街の中にあるにはちょっと異質だ。けれどやはり神社の土地として人の手が入っているので、山頂までの階段がある。連なる鳥居と木々しか見えない階段をひたすら登ればいい。
「まだ、かなあ」
「せいぜい半分ってところじゃないか。時計見れば予想できるだろ」
「心が折れ、る。から、見たくない」
「まだまだだってことは分かってるんだな」
息を切らせた私の横を、幼馴染は汗ひとつない涼しい顔で歩いている。足音だって軽やかで、自分の呼吸がうるさくなってからは聞こえなくなるくらいだ。
続く鳥居に囲まれて同じ景色が続く中、呼びかけた名前に応える声はやっぱり聞こえなかった。けれど手を引いてくれたから、私は安心してまた足を進める。
辿り着いた先の見事な満開の桜の下で空を見上げる。名前を呼ばれて返事をして、私はリュックからスポーツドリンクを取り出した。