SS 眠れる美女
それは、酒の席でのフレッドの何気ない一言が始まりだった。
「ライアン殿が女装したら、ルーチェ嬢になるのかな」
そして、共にしていた全員がお酒の勢いのままに、面白そうだと目を輝かせる。
「やってみましょう!」
と、ルーチェが許可を出し、
「俺、銀髪のカツラ持ってる。あと、男にドレスを着させるのはダリスができるよ」
と、アレンが親指を立てた。
「ならば、私はライアン殿に一服盛ろう。ドレスは私の若い頃のなら丈が合うはずだ」
と、行動力が光るカミラが実行役となれば、
「とても楽しみですわ!」
と、ミアは観客として盛り上げる。
奇しくもライアンを嵌めたメンバーが揃っており、迅速に計画が進んだ。ダリスも「やっと腹いせができますね」と快諾し、その日となったのである。
場所は万が一ライアンが暴れた時のことを考え、オルコット家のライアンの部屋とした。一時間ほど前に訪れたカミラによって、睡眠薬入りのワインを飲まされたライアンをダリスとヴェラが着替えさせ、化粧をした。そして、完成したと満足げなダリスとヴェラに部屋へと通された五人は、寝椅子で瞳を閉じる美女に言葉が出ないのだった。
ルーチェ以外の四人が、まじまじとライアンの女装姿を見た後、ルーチェと見比べる。最初に口を開いたのはアレンで、全員の思いを代弁した。
「そっくりだ……。しかも眠ってるのに、特有の色気がある」
それぞれ頷いており、ルーチェは微妙な表情で近づくとじぃっと粗を探すように隅々までライアンを見る。銀色のまっすぐと広がった髪、長いまつげ、細い顎。イブニングドレスは紺青で、胸は詰め物がされているが腰は細く締まっている。
「悔しい……。同じ顔なのに、なんか負けている気がするわ」
しいていえば、男だから肩幅はあるが、膨らんだ袖がうまく隠していた。化粧の技術も完璧で、常のライアンより肌の美しさが一段上がっている。目を開けて微笑めば、それだけで男が落ちる魔性の女になりそうだ。
私女なのにと落ち込むルーチェに、アレンは慌てて言葉を取り繕う。
「俺はこいつの女装姿より、ルーが好きだからね!」
「アレン……ありがと」
見つめ合って二人の世界に入る恋人たちをよそに、カミラは「うーむ」と低く唸ると、苦笑いを浮かべた。
「酒の席の悪ノリだったが、こうも美女になると反応に困るな」
ミアはうっとりと顔を眺めており、同じ顔のルーチェに視線を向ける。
「素晴らしいですわ。ルーチェ様も、ライアン様も、性別を超越した美しさをお持ちなのですもの」
そして、言い出しっぺのフレッドは顎に手をやって、乾いた笑みを浮かべている。
「こりゃ、だめだ。こいつに女装させると、新しい扉を開けちまうやつが出てくる。下手すりゃ国が傾く」
ライアンの性格上、相手を陥れるために女装ぐらいしてしまいそうだ。美しい顔、魔性の色気、我儘で計算高い性格。傾国の美女の要素が揃っている。想像した全員が寒気を感じ、顔を見合わせて頷く。なかったことにしようと。計画ではここでライアンを起こして驚かそうとしていたのだが、闇に葬らざるを得ない完成度と魔性さだ。みすみすライアンに手札を増やさせてはならない。
「撤収しましょう」
ルーチェの一声で、彼らは部屋を出てダリスとヴェラが証拠隠滅を図る。ものの数分でライアンは元通りになり、寝椅子で熟睡していた。サイドテーブルにワインと飲みかけのグラスを置いておき、飲んでいるうちに寝落ちしたという演出もばっちりだ。
そして、翌朝。ライアンは妙に艶と張りがある肌に首を捻るのだった。
リクエスト分の投稿が終わったので完結設定にしました。
ここまで読んでくださりありがとうございました(≧▽≦)
本編より番外編の方が執筆スピード上がるの、謎。




