27.男装/女装せずに、相手の兄妹と話します(後)
アレンはルーチェが話しやすいようにと、軽い調子で話す。
「だよな。夜会の度に違う女の子を侍らせてさ、みんなライアン様~って俺のこと相手にしてくれないの。この間も、手紙でご令嬢を観劇に誘ったら、ご一緒するのは銀の貴公子のような方がいいですわって。ひどくない? あのクズはいるだけで俺たちの出会いを奪ってるんだよ」
「本当に、どうしてご令嬢たちはあの性格だと分かっているのに近づいていくのか分かりませんわ。顔と口しか取り柄がありませんのに」
面食い過ぎて、うっかり婚約を受けてしまったアレンには刺さるものがあって、あははと笑って紅茶をすする。今だって、顔がいいルーチェに胸が高鳴ってしかたがない。つい顔の良さを擁護する言葉が口をついた。
「まぁ、俺の妹も顔がいいってはしゃいでたからなぁ……」
正確には俺も妹もであるが、さすがに口には出せない。
そしてそれを聞いたルーチェは、ドキッとしてカップを持つ手を止めた。
(ミア嬢を誑かしているのは、私だわ……)
思わず謝罪の言葉が口をついて出る。
「それは……申し訳ありません」
深刻そうな顔で自分の非のように謝るルーチェに、慌てるのはアレンの方だ。
「いや、ルーチェ嬢が謝る必要なんてないよ! 悪いのは兄の方なんだし、もしミアに何かあっても俺が何とかするから!」
(何なら、今何とかしようとしているから。あのクズのために謝らないで! というか、あの女たらしの妹なのにいい人すぎない!?)
何気ない一言だったのに真面目に返されて焦ってしまった。ルーチェはそんな妹思いのアレンに、罪悪感を一層強くする。
(本当に妹が大好きなんだわ……。きっと、私がミア嬢にしていることを知ったら、激怒されるでしょうね)
同じ兄なのに、ライアンとは比べ物にならない。ミア嬢はこのような兄と一緒に育ったから、あれほど純粋で可憐なんだと納得する。ルーチェは空虚さを感じながら、気品のあるしぐさで紅茶をすすった。その姿にアレンは既視感を覚える。
(あ、やっぱ双子なんだな。飲むしぐさがそっくり……。けどこうも中身が違うとは)
そして思っていることが口からこぼれ出た。
「本当に、二人は似ていないね。あのクズにルーチェ殿を見習ってほしいよ……。なんであんなに女好きなの?」
ルーチェは「似ていない」という言葉の新鮮な響きを感じつつ、女の子について話す兄を思い浮かべて話す。
「兄は、女の子が好きというより、女の子が自分に夢中になって落ちてくるのが好きなんですよ。だから、恋人も婚約者も作らないんです」
「何それ意味が分からない。本当のクズだな」
反射的に言葉が出た。
(ということは、あいつミアに思いを寄せられているのを楽しんでいただけか……。いや、でも本気っぽいところもあったような……? だめだ、俺の経験値が低すぎて分からない)
前に夜会で男たちの悪口を聞いた時にも思ったが、他者が話すライアンとミアとして接したライアンに差がある気がする。だがそれが、ダリスの言うように向こうが恋をしているからか、こちらを夢中にさせるための演技なのかが見極められないのだ。
ルーチェはその小気味いい、自分の気持ちを代弁してくれたような言葉にクスリと笑う。「そうなんですよ。しかも、面倒になりそうだったら私に押し付けて、私が代わりに……」
ルーチェはアレンの話しやすい雰囲気に口が滑った。ライアンに扮して女の子の相手をしていることを言いそうになり、ごまかすためにクッキーを口に運んだ。その姿はアレンに可愛らしく映るが、聞き逃せない。
「代わりにって何? あいつ、ルーチェ嬢を巻き込んでるの? そんなの、相手の妹が来たらもっと拗れるに決まってるだろ!」
アレンからすれば、自分の不始末をミアに片づけさせるなどありえない。もともとライアンの評価は底辺だが、底を突き破った。憤るアレンに、ルーチェは驚いて目を丸くしている。
(ライアンに対してそんなに怒ってくれるなんて、いい人だわ。なんだが、ブルーム家の人には救われてばかりね)
これなら、もう少し社交の場に出るのも悪くないと、ふわりと微笑んだ。
「アレン様は、お優しいですね。とても素敵なお兄様ですわ」
いつのまにかルーチェはすっかり顔を上げており、春の穏やかな陽ざしのような笑みになっていた。アレンの心臓が跳ねて早鐘を打つ。素敵な兄だと褒められたこともあって、照れくささと嬉しさが混じった満面の笑顔になった。
「ルーチェ嬢、俺できる限り頑張るから、何か困ったことがあったら言って」
きょとんとしているルーチェは、アレンが何を頑張るのかなど分からないだろうが、それでよかった。苦労しているルーチェのためにも、女たらしを成敗し、少しでもその性格を矯正することを固く誓う。
(ルーチェ嬢をこのままになんかしておけない!)
その後、しばらく他愛のないおしゃべりをして別れたアレンは、春の陽気に温まった体温を感じながら帰路についた。そして、ルーチェも初めてもっとおしゃべりをしたいと思ったと、胸に灯った温かさを感じながら馬車に揺られるのだった。




