女子高生、ファミレスにて、この世の外見至上主義を語る
少女の容貌に対する誹謗中傷、家庭内暴力を指す表現があります。ご注意ください。
昼下がりのファミレスは、遅めの昼食を取る人や暑さから逃げた人で賑わっていた。と言っても、ドリンクバーだけを頼んでいる人が大半だ。その中で、学校帰りの2人の女子高生だけが頼み続けている。
「美人は得だと思うのよ」
「なにを今更」
「現実は外見至上主義なのよ。すいませ〜ん!特大いちごパフェくださ〜い!」
注文を受け取ったホールスタッフが、テーブルの上に置かれた食器の残骸に思わず顔を引攣らせた事を確認する。こちらの制服と綺麗に食べきっている皿を確認しあたり、彼女らは良いお客様だ。その制服が有名私立高校のものであるので、お金もきちんと払ってくれるはず!無理矢理自分を納得させた彼は、なんとか笑顔を作り上げ食器を運んでいった。
彼が去っていくのを見届け、2人は話を続けた。
「だってね?どいつもこいつも美人が良いって言うのよ?美人も大変だと思うけどね」
「ストーカー、変質者に追いかけ回されたりでしょ?好かれているって言う勘違いをされたりもあるか。一方的に好意を向けられ、その想いに応えなかったら逆ギレでしょう?美人はなにができても当たり前って言う、風潮もあるか」
「話しただけで狙っていると勘違いされたり、訳の分からぬ嫉妬もあったり。外見だけしか見てくれないのが多いんじゃないの?」
「否定はしないわ」
「むしろ、そこで否定されたら泣くわよ!」
さらぁっと、長い髪を指で梳きながら少女は肯定する。自分の容姿が美人と言われる区分だと自覚がある彼女は、目の前に座る親友に首を傾げながら聞いた。
「それで?あなたは何を言われたの」
「他校に行ったら『ブスは来んな』って言われたり、電車に乗ったら知らないお兄さんに『自分が思っている以上にブスだぞ』って言われたり」
「最低ね」
「それだけじゃないわよ」
肘をつき手を組んだ上に顎を乗せた親友は低いトーンで笑う。その笑い声には、怒りの余り出たものらしい。よほど気に触ることを言われたのだろう。顔を引攣らせながら、少女は親友を促した。
「それで?」
「ハリウッドでも作成された超有名な某キャラクターが、渾名になったのよ」
「…あぁ。大きな蛾と戦うキャラクターね?」
「そうよ!わたしは、虫が苦手だって言うのに!そう言う系統の渾名をつけるならゴリラにしてよ!ゴリラに!!」
「ゴリラは筋肉の塊でしょ?筋肉ないじゃない」
「光線なんて出せないわよ!」
ケッと吐き捨てる親友は胸の内を少し吐き出したお陰か、少し顔色が良くなっている。これは気にしていることを全て吐き出させるのがいい。緑茶を少しのみ、少女は少し頷いた。
「そりゃ人間には無理でしょうね。それで?何が気にかかってるの?」
「聞いてくれるの!?」
目をキラキラさせる親友は、少し口元も緩んでいる。彼女は一回話し始めたら止まらない性格だ。それでいて、話の脱線がひどい傾向がある。前なんて聖女マリアから鉄の処女、からのアフロディーテにペルセウスの誕生。最終的には、月桂樹の話をしていた程だ。
普段は周りに気をつかっているため、時々発散させないと爆発する。若しくは、この世の全てにケチをつけだす。
「どうぞ?」
「そもそもねぇ?やっぱりこの世の全ては、外見の美しさ回っていると思うのよ!その証拠に、三代美女と言われた人たちは傾城傾国じゃないの!楊貴妃は安史の乱の原因になったし。クレオパトラ7世は、プトレマイオス朝最期のフォラオとして君臨しその身をもってエジプトを守り抜いた女性だけど、アントニウスやオクタウィアヌスの争いの原因ともいわれているし。ヘレネーに至っては、数多の英雄がその命を落とす原因となったトロイア戦争の理由となった美女でしょう?傾城傾国じゃないの!
それに、美人を讃える四字熟語が多いじゃない!閉月羞花、一生千金、才色兼備、容姿端麗、明眸皓歯とか!」
何回聞いても素晴らしい滑舌だ。歴史の知識が最低限ある彼女は、いつもはこれの倍以上喋る。ヘレネーの話も、トロイア戦争の詳しい話をし出して脱線するのが彼女の普通だ。ここが、ファミレスと言う遠慮があるのだろう。
「それにねぇ〜?薄幸の美人とかあるけれど、美人っていうだけで幸せじゃないの!ブスってだけで罵られ、いじめられる私だって幸薄いわよ!」
「私は、別にその顔好きよ?」
親友が一息ついた時に少女が口を挟んだ。話を折られた事を気にしていないようだが、彼女は複雑そうな表情を浮かべた。
「本音だってわかっているから嬉しいけど、ノーメイクの美人に言われても…ねぇ?」
「…本音だってわかっているなら、素直に受け入れなさい」
はぁ〜っとため息をつき、少女は頬杖をつきながら親友を改めて見た。
十分可愛らしいのだ。髪や爪も綺麗に手入れされており、女子力は高いと言ってもいい。男どもがどうしてブスだと言うのか?それは…
「ちょっとしたぽっちゃりに見えるのに」
「私の着痩せが素晴らしいのよ!」
フフンっと彼女は微笑んだ。肌は赤子のようにモチモチしていて、とってもさわり心地が良い。腕や足も平均の1.5倍ぐらいか。ウエストは…お察しの通りだ。
と言っても、彼女はどちらかと言うと動けるおデブ。力を込めると筋肉を確認できたりする。小学生の時、太っていながらも跳び箱をロイター板有りで6段飛べたらしい。今は跳び箱をできないようだが、咄嗟の時の受け身の形は美しい辺り動けると言っても良い。
因みに本人は着痩せと言っているが、胸部が腹部より大きい。そのおかげで、少し凹んで見えるので痩せて見えるのだ。
「着痩せだからね?美人と並ぶと、果てしなくデブって実感させられるのよ!」
「少なくとも、肩幅が凄いのはプールを習っていたからよ?」
「個人メドレー完泳したからね!」
この個人メドレーとは、200mの事だ。流石の彼女でも400mは泳げない。寧ろ、200m泳げただけでも凄い。その影響からか、肩幅が平均の倍あるのは仕方ない。
「同じ制服でも、彼シャツ並みにサイズが違うとか…」
「まぁまぁ、ブラウスはOでピッタリだったんでしょ?」
「あのね?ブレザーやスカートは特注なのよ!お金が1万以上違うのよ!?」
「それでも、男子用より小さいじゃない?」
「そうねぇ〜、セーラーよりマシだわ」
ケッと吐き捨て、コーラを少し飲んだ親友。彼女の中学時代の写真を見せてもらった事はある。膝下3センチ以上のスカート、背伸びをすれば腹が見える丈のセーラー服。何というか、着痩せもクソったれもない。寧ろ、夏用セーラーが白かったせいで太って見えた。
「自分の意思で太ってないでしょ?」
「…家庭環境の悪さ。大袈裟だけど悪行って言いたい」
コーラを一気飲みし、お代わりを取りにく彼女。その後ろ姿を追いながら、少女はため息をついた。
彼女は好きで太ったわけではないのだ。自分の許容範囲は自覚できていた。それなのに、無理矢理口を開かせられ食べ物を入れられたらしい。余分な食べ物を食べれば『豚』と罵られ、溢せば『顎の下に穴が開いているのか?』と嘲笑されたそうだ。
ご飯も綺麗に食べることは、許されなかったそうだ。茶碗についた米粒を食べていると『卑しい食べ方』と罵られ『ご飯を与えていないみたいに見える』と怒られた。そうして、追加としてご飯を入れられるのだ。
母の育ちは良いらしく、彼女の所作は美しかった。それさえも、彼女は壊された。幼稚園の時は綺麗な箸の持ち方をしていたのに、小学の時には少し変わった持ち方になっていた。
宿題を全てなかったことにされ、泣いていた彼女を見たことがある。小学2年生で少女は引っ越したが、その年で罵倒されていたと言えば彼女の身の回りの酷さがわかるであろう。
つまり、彼女が太った原因は親族にあったのだ。彼女を嘲笑するの人間は、自身の管理の甘さが原因と思っているのだろう。外見しか考えない馬鹿に彼女は勿体無い。
俯いた少女に、柔らかな風が当たる。
「大丈夫?」
コーラのお代わりを机に置いた親友が、扇子で仰いでくれていた。
「ありがとう」
少女は美しい笑みを浮かべた。花も恥じらうと称された笑み。その笑みを浮かべさせた彼女は、嬉しそうに微笑んだ。
「帰ってきたら俯いているんだから心配したわよ。冷房が効いていないのが原因かな?って」
とりあえず、扇子で仰いでおきました!そう言って恥ずかしそうに笑う彼女を、少女は頭を撫でた。
あぁ、やっぱり彼女の魅力は外見ではないのよ。彼女が変な男に引っかかるぐらいなら、別にどんな容姿でもいい。
チラッと厨房を見た少女は、薄暗い感情を隠して頭を撫でるのをやめた。
「どうぞ」
運ばれてきた特大パフェに親友は目を輝かせる。
「さて、それでは」
「これからの私たちの友情を祝して」
「「いただきます!」」
ガツガツとパフェを食べる親友から見えないように、少女は微笑んだ。
どうか、私の親友のすばらしさをわかってくれる人がいますように。
「そういえば、ゼウスとヘラって兄妹だったんだよ?」
…話の流れがわからないけど、とりあえず最終手段は兄でいっか。