第一章 4話 洞窟捜索 上
謎の黒球から脱出した先はなんと異世界!?初対面のふたりは異世界からの脱出を試みて色々と行動するが!?
「まずは、ここがどこかを知らなきゃいけないな・・・。」
深くため息をついたユウタは、周りをぐるりと見回した。
そして
「サヤはここがどこだか知らないのか?」
と、実験に詳しそうなサヤに聞いてみたが、
「いいえ、自分が何かに利用されていたのは知っていましたけど、こんな場所は知りませんでしたよ?」
と答えた。
「うーん・・・。」
ゴシゴシと頭をかくユウタはもう一度周りを見回し、5,60m先に縦横1m程の穴を見つけた。
そこの洞窟のような穴だけはこの風景に馴染んでいなかったので、注意深く観察することですぐに気がついた。
「なぁサヤ、あそこの洞窟入ってみないか?」
「えっ!」
サヤが嫌そうな顔をした。
「多分そこにヒントがあると思うんだよ。」
意気揚々と語るユウタを見ていると、サヤも行かないと言うわけにもいかなかった。
「いいですよ・・・。そのかわり、あんまり離れないでくださいね!」
「ああ。もちろん。」
二人はゆっくりと立ち上がると、洞窟の方へ向かって歩き出した。
「中・・・、暗そうですね・・・。」
「そうだな。」
「何かでてきませんか?」
「うーん、ここは異世界だから何とも言えないな。もしかしたら怪物みたいなのが影からいきなり襲いかかってくるかも!?」
「そ、それは勘弁してほしいです・・・。」
面白半分にユウタが言うと本気で怖がっているトーンでサヤが話しかけてきた。
ユウタは
「悪い。冗談だよ。」
と言い、続けて
「でも、何がいるか分からないのは本当だから、オレの側から離れるなよ。」
と言った。
「分かりました・・・。」
自信なさげにサヤが答える。
そうこうしている内に二人とも洞窟の入り口まで来た。
「行くぞ。」
ユウタはそう言って洞窟の中へ足を踏み入れた。
「は、はい!」
それに続いてサナも洞窟に入っていった。
「暗っ!」
洞窟の中は驚くほど暗かった。
「ユ、ユウタ、何にも見えません・・・。」
「ああ、オレもだ。灯りもないし、このまま進んでいくしかなさそうだ・・・。」
「・・・。」
暗闇からでも不満そうなサヤの気持ちは感じ取れた。
(我慢してくれよ・・・。)
(異世界からの)脱出を最優先に考えていたユウタは、そのまま歩き続けた。
ざ、ざ、ざ、・・・ぎゅむ、ぎゅむ、ぎゅむ
ふと、床が少し柔らかくなったような気がした。
(柔らかい?テルースではなかったぞ、こんな感覚。灯!灯で確かめよう。)
すると、ある呪文が彼の頭に浮かんだ。
「フォトン・ボール・シャイン!」
ユウタは前回と違い、はっきりと大きな声でそれを叫んだ。
パアァァ!
ユウタが叫んだ瞬間、光が辺りを照らした。
「くっ、眩しい・・・。」
いきなり輝きだした宙に浮かぶ光の塊にユウタは目が眩み、思わず目を隠した。
サヤは、子供みたいに突っ立ったまま思いっきり目を瞑っていた。
(オレは何か特別な力を持っているのか・・・?)
そんなことを考えながら、しばらくそのままの体勢で固まっていると、次第に目が慣れてきた。
彼がゆっくりと目を開くと、
「床一面が・・・金!?」
そこは幅が70センチほどの人工的な通路で、床、壁、天井、の全方位が金でつくられていた。
「ユウタ、これはなんなんですか?」
サヤが不思議そうな顔で聞いてくる。
少し驚いたユウタは、
「これは金っていう値打ちがバカ高い金属だ。純金になると、こんな感じで少し柔らかくなるんだ。」
と説明した。
「金・・・ですね?いくら位になるんですか?」
興味があるようにサヤが聞いた。
「そうだな・・・。純度にもよるけど、これ1gで3000から5000WPだ。」
「1gで3000!そんなにするんですか!?夢見たいじゃないですか!早く回収しましょうよ!」
(そういやサヤは家から逃げ出したんだっけか・・・。)
とユウタは思いながら、
「そうしたいところだが、今は時間がない。さっさと先に行くぞ。」
と、返した。
「・・・。」
ほっぺたを膨らませたサヤは、駄々をこねるような目でこちらを見てきた。仕方がないので、
「わかったよ。終わったら少しだけな。」
と言った。
「やった!」
小さくガッツポーズをした彼女は、さっきとは打って変わって楽しそうに金の道をすたすたと歩いて行ってしまった。
次第に小さくなる彼女の背中を見ながらユウタは、はじめて会った時のようにまたフッと消えてしまうのではないかと心配になった。
(出会いは偶然だった。もしあのとき、オレがゴミ入れに飛び込んでなかったらサナと会うことはなかっただろうな・・・。)
そんなことを考えている間に、彼女は10m程向こうに行ったあと、灯りがそれ以上届かないことに気がついて、またユウタのところに戻ってきた。そして、
「灯りってこれより強く出来ないんですか?」
と、上目遣いで聞いてきた。
(クッ、耐えるんだ、ユウタ!)
ユウタは
「うーん、サナがあんまり遠くへ行くと面倒だから明るさは変えられないな。」
笑いながらと答えた。
(セ、セーフ・・・危なかった・・・。)
「えーっ・・・。ちょっとくらいいじゃ―――」
ドゴオォォン!
外からくぐこもった爆発音がした。
その音が彼らを現実に引き戻した。
「・・・・・・。今の、なん、なんで―――」
ギギギギ
「どうやら、洞窟の鉄骨が曲がったようだ。」
「ひぃっ!」
「最初の音は、何かの爆発が原因だろう。少し様子を見てくる。」
ユウタが外に出て行こうとした。
「や、やめてくださいよ、変な冗談は。私を一人でここに置いてくつもりですか?」
恐怖するサヤが言った。
「それもそうだな。外で何が起こっているかは検討もつかないし、建物が落ち着くまで、もう少しここで待つか。」
サヤがいつもの顔に戻った。
ほんの少しだけほっとしているようにも見えた。
そんなサナを見たユウタは、思ったままに
「サヤって本当に何考えてるかわかりやすいな。」
と笑いながら言った。