56:『水道完備ガス見込』
滅鬼の刃 エッセーラノベ
56:『水道完備ガス見込』
今日は自分で書きます。
『水道完備ガス見込』というのをご存じでしょうか。
昭和35年から38年、当時日本教育テレビ(テレビ朝日)でやっていたホームドラマです。
昼間の帯ドラマだったので、学校が昼までの日と土曜日ぐらいしか見ていないのですが、軽快なテーマ曲が印象的でした。
印象的な割には『水道完備ガス見込』というフレーズしか覚えていないのですが、この調子のいい『水道完備ガス見込』というフレーズ、意味はよく分かっていませんでした。
公設市場近くの不動産屋にいくつも貼ってある貼り紙にこのフレーズがあったので、買い物かごをぶら下げた母に聞きました。「水道はあるけどガスは無いという意味」と教えてくれました。
——あ、うちといっしょだ——
親近感でした。
大阪市の東北部に住んでいて、幼稚園の近くには巨大なガスタンクもあったのですが、家にガスが通うようになったのは、この前後のころです。通り二つ向こうの友達の家にはガスが来ていましたから、ガス完備の途上だったのでしょう。不動産屋も『水道完備ガス見込』をわざわざ書いているのですから、物件によっては『水道完備ガス完備』もあったのでしょう。
家の前の道を掘り返してガス管が社宅に引き込まれました。作業員のおじさんが柄の長い玄翁でヘッツイをぶち壊してガス管を引いてくれたのを覚えています。それまでの社宅にはプロパンガスさえ無くて、薪でご飯を炊いていました。
ガス工事が終わったら——道路が舗装されるんでは!——という期待がありました。
ガス完備もそうですが、舗装道路というのは一種のステータスシンボルでした。
家の近くで舗装した道路は、学校の前の道か電車通りぐらいしかありません。雨が降るとグチャグチャになり、大雨の日などは川のように溢れてしまいます。川の傍には柵の無い用水路があって、そういう日は、上級生が手を引いたりおんぶしたりしてくれました。
家の前が舗装されたのは中学に入ったころです。大規模な下水工事をやって水洗化が完了した後でした。学校に行くにも公設市場に行くのも土を踏まずに行けるようになり、不動産屋の貼り紙から『水道完備ガス見込』の文字が消えました。
テレビドラマの『水道完備ガス見込』は午後も授業があるようになって、見られるのは土曜日ぐらいになってしまいました。
ほとんど中味は覚えていないのですが、一つだけ憶えている回があります。
ドラマの中の町会で問題がもちあがります。公園の水道料金が、わずかですが急に高くなります。公園の水道や電気は地区の町会で払うことになっていて、問題になります。
役員さんたちが見張りをしていると、夜な夜な手押し車にバケツを載せて水を汲みに来る老夫婦が居ます。
日常的に公園の水を使うのは問題なので、何日目かに役員さんたちが老夫婦に聞きますと、何かの事情で水道の無い土地に住まざるを得なくなって、悪いとは思いながら水を汲んでいた。そんな話です。
不動産屋に騙されたか、別の事情で空き地に家を建てて住み着いたのか。理由は覚えていませんが、そういう話で。明るいホームドラマでしたので、無事に解決されたのだと思います。
ああ、そういうこともあるんだろうなあと思って見ていました。昭和三十年代というのは、まだそういう時代でした。
YouTubeで古いテレビ番組を見て、ふと『水道完備ガス見込』に行き当たり、あれこれ思い出したお話でした。
☆彡 主な登場人物
わたし 大橋むつお
栞 わたしの孫娘
武者走 腐れ縁の友人(35回より故人)




