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滅鬼の刃  作者: 大橋むつお
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46:『我が家の苗字』

滅鬼の刃 エッセーラノベ    


46:『我が家の苗字』  





 五十代以上の方なら『大橋』という苗字の下に付くのは『巨泉』だと思います。


 大橋巨泉。


「みじかびのキャプリキとればすぎちょびれ、やれかきすらのハッパふみふみ」


 これを見れば「ああ!」と思い出す御同輩方も多いと思います。


 イレブンPMとかクイズダービー、あるいは競馬やゴルフの評論家、作家、政治家としても有名な大橋さんです。

 巨泉さん以後は、巨泉さんが大きすぎたこともあって、人の名前ではなくブリッジとしての『~大橋』のイメージを持つ人が多いんじゃないでしょうか。若戸大橋とか千住大橋とか、地方に行くと『~~富士』とか『~~銀座』と同じような感じで『~~大橋』という立派な橋がいくつもあります。


 個人名や一族の名前で『大橋』を聞くことはほとんどないと思うのですが、どうでしょう?


 ちなみに、歴史的に名のある大橋さんを探すと、江戸時代、将軍家の将棋師範の大橋家があるくらいです。


 数的には百何十番目かの苗字なのですが、今までに親族以外の大橋さんに出会ったのは、三度しかありません。

 親父の会社の社長が(うちの親類ではないのですが)大橋でした。教えていた生徒に一人だけ、それと卒業後結婚して大橋になった女子が一人いるだけです。


 数えようによっては三十万もある苗字の中で百何十番というのは多い方だと思うのですが、それでもこの程度です。


 むかし、カミさんと松江に旅行したとき、松江藩の御家老様が大橋だったので感動したことがありました。まあ、そういう、あまり歴史や社会の表舞台には出てこない苗字であります。



「あ、そうなんだ……」



 そういうことを教えてやると、ちょっとつまらなさそうな孫娘です。


 せっかく、我が家のルーツに興味を持ったので、別の話をしてやります。


「しかし、お祖母ちゃんの家系でたどっていくと、ちょっとおもしろい」


「お祖母ちゃん……滋賀県だよね?」


「ああ、東近江市。だけど蒲生と言った方が分かりやすい」


「なんで?」


「『あかねさす紫野行き標野行き~』っての知ってるだろ」


「ああ、万葉集ね『野守は見ずや君が袖振る』に続くんだよね」


 栞は小6のころ百人一首にハマっておりました。アニメに『ちはやふる』というのがありますが、その実写版の主役千早の広瀬すずを観て感動したんですなあ。

 中学では年に一回カルタ会をやっていまして、それも災い、いや幸いだったのでしょう。何人か仲間を募ってカルタ部を作る寸前までいっていました。


「豊臣秀頼の家来で木村重成というのが居るんだけどな」


「あ、知ってる、残念さんだ!」


 残念さんというのは、歴史的に主に戦で亡くなった人を祀ったお墓や石碑や、時には石だけで残っているものを『残念さん』と言います。長い歴史の中で地域の人たちが大事にしてお地蔵さんのようになっています。その最大、最高なものが木村重成で、討ち死にした近くの公園に玉垣に囲まれて屹立しています。八尾市北部や東大阪市南部の小学校では地域見学的な行事で見にいくこともあるそうです。


 大坂夏の陣では兜に香を焚きしめて、首実検のとき家康から「あっぱれ! 日本一の武士もののふじゃ!」と激賞されました。生前から重成の優秀さを知っていた家康は高禄で引き抜こうとしていたのですが果たせませんでした。


「重成には結婚したばかりの妻が居てな、お腹に子供がいた。それで、その妻は自害せずに領地があった蒲生の木村に逃げたんだ。殿様としても優秀だったんで、その奥方様、領民たちはこれを匿ったんだが、領主の蒲生氏郷に知られてしまった。女の赤ちゃんなら見逃されたんだけど、生まれたのは男の子。重成に同情していた氏郷だったけど、男子では殺す以外にない。それで、領民たちは『長ぜられましたら必ず坊主にします、どうかお命だけはお助け下さい(--;)』と頼んだ」


「それで……?」


「うん、村に寺を建てて、そこの住職にした。まあ、村中で護ると同時に監視したんだな。謀反を起こされたら村中成敗されるからな。でも、二代三代続いても重成の子孫は大人しく、すっかり坊主の家系になってしまった……」


「ええと……」


「ん?」


「お祖母ちゃんの田舎って、たしか木村って村だったよね……」


「おお、覚えていたか!」


「うん、小さいころに二度ほど行ったし……村にお寺は、お祖母ちゃんの実家一つだけだったし……」


「ハハ、じいちゃんうる覚えだからな、そうだ、この本に詳しく書いてあるよ」


 司馬遼太郎の文庫を示してやります。


「あ、そういうの苦手」


「大丈夫、重成のとこはニ十ページほどだから」


 そう言って渡してやると、どうやら帰りの電車の中で読んだようです。


「ヘヘ、母方の方だけど、お祖父ちゃん木村重成の子孫なんだ」


 三日後、少し明るい顔でやってきました。


「さあ、どうだか。でも、じいちゃん、若いころはけっこういけてた」


 一枚の写真を見せてやります。


「え、これ、お祖父ちゃん!?」


「あ、まあな」


 その写真は、若いころお見合い用に何十枚も焼き増しした写真の一枚です。押入れを整理したら出てきたもので、捨てずに残していました。


「へぇ……いつだったか、武者のおじさんが言ってたよね『大橋は写真写りだけはいいからなあ』って」


「ハハハ、そんなことも言ってたなあ。女の子は父親に似るっていうからな。あ、重成の孫は女の子でなあ、お祖父ちゃんの重成に似て器量よしだったって話だ」


「あはは、何百年も昔の話でしょ(^^;)」


 笑いながらもまんざらではないという感じです。栞も大学の二回生、将来に希望三分に不安が七分、与太話ででも、なにか希望が増幅できればと話してやりました。


 で、なにを明るく話しているのかといいますと、今度は右目が網膜裂孔、再び目の手術をして、いささか身の回りが不便。


 それで、眼帯が取れるまではと二日に一度の割で来てくれているのであります。



 ☆彡 主な登場人物


 わたし        大橋むつお

 栞          わたしの孫娘 

 武者走       腐れ縁の友人(35回より故人)


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