01:ジェット推進十万馬力
滅鬼の刃 エッセーノベル
01・ジェット推進十万馬力
あやかりものと申しましょうか、験担ぎと申しましょうか、パクリっぽいタイトルで申し訳ありません。わたしなりの思い入れはあるのですが、最初に書くと、なにか言い訳っぽくなってしまいます。お読みになっているうちに「ああ、そうなのか」と感じていただければ幸いです。感じられなかったらごめんなさい。
とりあえず、エッセーかラノベか判然としない、そういう虚実皮膜的な駄文を、どこまでいけるか分かりませんが、とりあえず鞘から抜いてみることにしました。
部活の同窓会を南森町のイタ飯屋でやった時の事です。
還暦前後のおっさん・おばはんばかりですので、自然と子どもや孫の話題になりました。
「こんどのガンダムは動くらしいで(^▽^)/」
ワインに酔ったT君がスマホを出します。
「ああ、東京のどっかにあるやつやなあ」
「どっかやない、横浜や(^▽^)/」
「せやったか……あれはポリさんの人形みたいに立っとるだけで動いたりせえへんぞ」
警察を定年で辞めたY君が遮ります。
生徒だった頃から、人の間違いは正さずにはおられない性格で、その正義感が災いして、警部補止まりでの定年。いまだに定年後の再就職先が決まっていないY君。
「ガンダムて、うちの息子がガンプラ集めてるわ」
「うちは、亭主が集めてる」
「エバンゲリオンと双璧やねえ!」
ん十年前のJKたちも身を乗り出してきます。
「これ見てぇ! 孫といっしょに日本橋(大阪なのでニッポンバシと発音します)行ったらさあ、お店丸ごとガンプラいうのんがあったんよ。ほら、これこれ! 店の看板がガンダムの上半身! なんや、ずぼらやのフグ提灯とか、かに道楽のノリや思わへん?」
「そんなんちゃうねん、東京のは全身像や。これやこれ!」
Y君は画像をつぼめて全身像であることを強調します。
「それは古いやっちゃ、これこれ、こっちのんを見いや!」
空き瓶やら空き皿を押しのけて、テーブルの真ん中にスマホを据えます。
「え?」「あ?」「どんなん?」「こんなん」「どれどれ……」
「「「「「おおおおお(゜д゜)!」」」」」
スマホを囲んで盛り上がります。
なんと、横浜の山下ふ頭の実物大ガンダムは動くではありませんか!
ロケットの発射台のような鉄骨ヤグラの中にガンダム。やがて燃料が注入され、各部署のチェックをするアナウンスが流れ、パイロットが搭乗します。そして、やがてのやがて、起動のカウントダウンがなされ、ガンダムは発進の姿勢を取ります。さすがに飛んでいくことはありませんが、実物大なので大迫力のギミックです!
見てくれは還暦前後ですが、こういう珍しいものへのリアクションだけはウン十年前のままです。
そういうジジババ予備軍の好奇心に還暦をとっくに過ぎたわたしは着いていけません。この昭和三十年あたりを境にした歳の開きは、意外に大きいものがあります。
「俺はアトムとか鉄人28号やさかい、ガンダムはよう分からへんなあ」
「ああ、アトムやったら、あたしらも観てましたよ(^▽^)/」
バランス感覚のいいKさんが、現役のころと変わらぬエクボを浮かべて話を継いでくれます。
「そうや、アトムの主題歌て、ここ一番いうときに浮かんでけえへんかぁ?」
T君が受け取って、自然に話を膨らませます。
そうや、アトムの主題歌やったら、俺も歌えるでぇ!
わたしの高揚を察してくれて「先輩、歌ってくださいよ!」とマイクを差し向けてくるT君。
「よし、ほんなら、みんなで合唱や!」
カラオケメニューを呼び出すのももどかしく、合唱の音頭を取るMさん。
いち に さん ハイ!
で…………歌が違いました(''◇'')
空を超えて~ ラララ 星のか~なた♫ ゆくぞ~アトム ジェットのかぎ~りぃ♪
後輩たちは陽気に時空を超えていきます。
わたしは、こうです。
ぼーくは無敵だ 鉄腕アトム 七つの力をもーっているー♪
わたしのアトムは実写版でした(-_-;)
子役の少年がマンガのそれとは全然違う昆虫を思わせるウェットスーツみたいなのを着て、アトムヘッドを被って活躍するというものです。当然、アニメのそれとは主題歌が違います。
「あ、いやいや、アニメのんも知ってるからね(^_^;)」
自分でフォローをして、みんなに合わせて、事なきを得ました。
人生、ここ一番という時に口ずさんでしまう歌が、一つや二つはあるもんですよね。
それが、後輩たちの場合は『ゆくぞアトム ジェットのかぎ~り(^^♪』で、わたしの場合は『ジェット推進十万馬力~(^^♪』になるわけであります。
昭和もガンダム世代や平成生まれの若い人には「どっちも同じ(^▽^)ジジババ」のノスタルジーなのでしょうが、この差は団塊の世代の境界面になるような気がします。
アニメアトムの世代は、心情では左翼っぽくとも、デモに行ったり集会に参加したりはしない人が多いように思います。
実写アトム組は、団塊の世代の尻尾の先で、雰囲気にのまれてデモの最後尾に付いたり、校長や学長への大衆団交の末席におりました。いわば現場の端っこに居ましたので、その後の団塊本流の、よく言えば行く末、悪く言えば変節を目の当たりにしてきました。
大正生まれの親たちが「わしら、子どものころは江戸時代生まれの人が生きててなあ」とか言うのと似ているように思います。
同窓会の帰り道、みんなの話をニコニコ聞いていたX先輩が地下鉄の階段を下りながら言いました。
「実写アトムはシーズン1とシーズン2があってな、君の言うてたのはシーズン2の方や」
「え、そうなんですか!?」
「シーズン1は、カチカチの外骨格みたいなん着とった……こんど写真見せたるわ」
「そんでも、アトムの主題歌は『ジェット推進十万馬力~』でしょ?」
「う~~ん……俺はアトムよりも『赤胴鈴之介』かなあ、山東明子のナレーションで、吉永小百合が子役で声やってた」
うう、それは知らんかった(^_^;)。
改札に入るころは、まだ決着の付かない大統領選挙の話題に替わり、当然の如く先輩はバイデン押しでありました。
長幼の序を旨とするわたしは、あいまいな返事をしてイコカを改札機に認識させたのでありました。




