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俺の婚約者とそのヤンデレ幼馴染の爛れた関係

 ――啜り泣くような声がする。


 カーテンに伸ばしかけた手を咄嗟に止めたのは、まさかと思ったからだ。

 しかし、俺の希望的観測を裏切るが如く、カーテンの奥から微かな衣擦れの音と、ソファのスプリングが軋む音に、聞こえよがしなリップ音が混ざる。そして。


「……レティ」


 俺の婚約者の愛称を呼ぶ、甘ったるい男の声。


 思わず虚ろな眼で天を仰いだ俺を、誰が咎められよう。……これはあれだ。どう考えても泥沼になるやつ。

 ショックはショックだが、傷付いたわけではない。俺はただ呆れ、失望していた。


「ん……レティ、愛してる……」


 ここで聞き続けるのはさすがにどうかと思うし、そもそも俺が不快だ。思い浮かぶ選択肢は、立ち去るか、乗り込むか、その二択である。


「……お、お願い、やめて……」


 その涙に濡れた声を聞いた瞬間、面倒ごとを(いと)って立ち去る方を選ぼうとしていた俺は、心の中で深いふかーいため息を長々と吐き出し、やむなく腹を決めた。

 念のため、周囲を確認する。幸いにして人目はない。


 俺はまどろっこしいことは嫌いである。まして、俺に非がないこの状況で、婚約者の体裁やら間男の名誉やら、それらをまるっと守ってやるために空気を読んで紳士らしく振る舞う義理がどこにあろうか。人目の有無を確認したのは俺の体裁と名誉のためである。いざ行かん。

 俺はおもむろにカーテンを開け放った。


 薄暗い休憩スペースに光が入る。3人掛けほどのソファの上に並んで、向かい合っていた二人の男女が弾かれたように身体を離した。しかし、女のドレスの胸元は大きく肌蹴(はだけ)ていたし(離れる直前まで男がそこに顔を埋めていたのはしっかり見てしまった)、スカートの中に潜り込んだ手なんてそのままである。

 はい、現行犯。俺は胡乱(うろん)な目付きを止められない。


「レティシア嬢、体調を崩したと聞いていましたが?」

「ぁ……」


 自身の胸元を必死に隠す婚約者のレティシアは、まともに声も出せずに赤くなったり青くなったり忙しい。

 俺は次に間男を見た。


「そちらはアルランド子爵殿とお見受けします」


 正式にはクラト=スレニル=ディファ=アルラント。スレニル公爵の嫡男である。現在はスレニル家が所有するアルラント子爵領を治めているため形式的には子爵位であるが、ゆくゆくは公爵領全土を継ぐことになるはずだ。よって辺境伯である俺より本来の身分は高い。


 そんな次期公爵様に、憎悪も露わに睨み付けられる。邪魔しやがって、的な?しかし、そんなことは構うものか。

 俺はあくまでも淡々と尋ねた。


「お二人とも、何か私に(おっしゃ)りたいことがおありでは?」



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