■エピソード586 呪われた絵画<1>
−−大通り
久保田はハルカを連れて街を散策していた。時間がある時はハルカに普通の街を見せるのも悪くない、と思ったからだ。
「ハルカも頑張ってくれてるからな。何でも好きな物買っていぞ」
「何でも?」
「そう、何でもだ」
「わーい」
こういうところは子供だな。店の前で物色しているのを微笑ましく眺めた。しばらくしてハルカは戻ってきた。
「私、この店、欲しい」
「み・・・店を買収するだと?」
「クボタ、何でもいい、言った」
「そりゃ言ったけどな・・・」
まいったな、と久保田は頭を掻いた。
−−一方その頃、フォンストリート
笠原が店に入ると、西室はフォンストリートの厨房に入ってメグと話をしながら料理をしていた。
「珍しいわね。ジュンが厨房で料理するなんて」
「メグの技を盗み取りたいだけだ」
「こっちこそ色々勉強になるよ。見た事のない調理法がいっぱいあるからね」
「・・・ちょっと離れてろ」
西室が火に掛けていたフライパンを一度炉から離してブランデーを振り掛けると、ボワッと一瞬だけ激しい炎が上がった。
「今の何?!?!」
「フランベといって、アルコールだけを燃やしてブランデーの香り付けをするんだ。リキュールの様な果物をベースにした酒でやってもいい香り付けになるし、食材に合った酒を使うと味も良くなる」
「パフォーマンスとしてもいいね!客の前で披露したいよ!」
「ところでメグ。これはどうやってさばいたらいいんだ?どこからも包丁を入れられそうにない」
西室は全身甲羅でできている魚を掴んで持ち上げた。どう見ても魚の形をした亀にしか見えない。
「それはね、一度塩を振って薬草と合わせて蒸すんだよ。その後前歯の真ん中に包丁を入れて、そのまま背びれに沿って包丁を入れていくんだ。背中は甲羅の隙間が一直線になってるから切りやすいよ。その後スプーンで甲羅から身をえぐるんだ」
「成程。亀みたいな魚は見た事がないからな。古代の甲冑魚の化石は見た事があるが」
蒸し上がったのを確認した西室はメグの言う通りに背中に包丁を入れた。
「料理というのは五感で楽しむ物なんだ。目で楽しむ視覚。匂いを感じる嗅覚。それを噛んでいる時に感じる触覚と聴覚。そして味覚。日常生活の中で芸術に匹敵する物を作れるんだよ、私達は」
「そして料理とは一期一会。シェフにとって作り置きした物であっても、客にとっては晩飯の一皿。出す料理1つ1つに気持ちをこめる。君とは馬が合いそうだな」
「だね〜、お互いに料理のレベルアップをできるなんて夢みたいだよ〜」
この2人面倒だ。さっさと退散しよう。
−−さらにその頃、リュカン川
和司達は射撃訓練を行っていた。
ドゴオオオンッ ドゴオオオンッ ドゴオオオンッ
和司は次々と的に当てていく。
「ねぇ、私にも撃たせてよ。カズ、貸して」
ナスティも一応警察官。年1回の射撃訓練もちゃんと参加している。
「私目はいいから照準は合わせられるんだけどさ、当たらないんだよね」
ドゴオオオンッ ドゴオオオンッ
確かに全くかすりもしない。
「何でぇ〜?」
「簡単な事だ」
和司は拳銃のハンマーをナスティに見せた。
「大体のリボルバーはダブルアクションといって、トリガーを引く時に一度ハンマーを起こす、シリンダーを回転させる、ハンマーを当てる。この一連の動作が同時に起きるから照準がブレるんだ。腕のコントロールを経験で覚えていくしかないが、手っ取り早いのは最初にハンマーを起こしてシリンダーを回転させてからトリガーを引く。シングルアクションとして撃てば挙動が少なくなる分ブレが減る」
「へぇ〜」
「習わなかったの?」
「照準は合うはずだからトリガー引けば何とかなるって思ってたのよ」
「一体何を訓練してたんだ?」
と、まぁ事件がない時は各々が自由な時間を満喫している。この平穏な日常が1日でも長く続いてくれれば、というのが本当のところだ。
しかしそうはいかないのが現実で、和司達はギルマスの招集に応じる事になった。
「エルナの目と呼ばれる絵画が何者かによって強奪される事件が発生しました」
「エルナの目?」
「ヨーゼフ・ソマーが晩年に描いた三部作の1つです」
「それだけ聞くと普通の泥棒だな」
「この絵画は誰の目にも触れない様に美術館に保管されていたんです。なんでも所有者は必ず死ぬという伝説がありまして」
「それはまた嫌な伝説だな」
「だから人の目に触れない様に保管されてたんですが」
「それを誰かが盗んだ。その伝説を知ってる人間の仕業だろうか」
「恐らくは」
所有者が死亡するというのは何なのだろうか。魔法的な何かが秘められているのかも知れないな。目的はその絵画の奪還にあるのだが、下手すれば自分達も死にかねない。和司達はひとまず保管されてた場所に行ってみる事にした。
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