エピソード574 時を超えた運命<3>
−−ナスティ・西室班:ルネリス魔法学校
2人は被害者、アリソン・フィオレの交友関係を調べに彼女が籍を置いている学校を訪れた。ルネリス魔法学校のキャンパスは広大で美しい庭園や古風な建物が並んでいた。ナスティと西室は魔法学校で禁書となった"闇の影"の手がかりを探していた。
2人は図書館の奥にある管理室を訪れ、"闇の影"があるかどうかを尋ねた。
「"闇の影"は5年前に焼却処分しました。しかし、禁書に関する記録はありますので、それを確認することは可能です」
管理者は古びた記録簿を取り出し、2人に見せた。記録簿には"闇の影"に関する情報が詳細に記されていた。
「あの詩集には闇と光のバランス、人間の心の奥底に潜む闇を描いた詩が多く書かれていました。この詩集を読むと一部の読者が自身の内なる闇に囚われ、不安定な心理状態に陥る事があった様ですね。特に若い学生達に悪影響を及ぼし、学校内での問題行動が増加したんです。それで学校側は詩集の禁止を決定しました。魔導書でもないのに、ですよ」
「それがエリン・ベリウス殺害事件の発端になったのでしょうか?」
「殺された事と"闇の影"が本当に関係があるのかどうかまでは私には・・・」
現物も残っていないし、この話は終わりだな。2人は頭を切り替えてエリン・ベリウスと親しい間柄の人物を探した。
−−弘也・久保田・ハルカ班:5年前の事件の第一発見者、ダリウス・モーガンの家
弘也と久保田は、引き続き5年前の事件についての捜査を行っていた。そこで、5年前の事件の第一発見者であるダリウス・モーガンの家を訪れた。ダリウスは事件当時、現場で最初に被害者を見つけた人物だった。
古びた木製のドアをノックすると、足音が聞こえ、しばらくしてからドアが開かれた。そこには中年の男性、ダリウス・モーガンが立っていた。
「王国警察の春日と申します」
「同じく久保田です。5年前に殺害されたエリン・ベリウスさんの件でお話を伺いに来ました」
「あの事件か・・・どうぞ、入ってください」
彼はドアを開けて3人を招き入れた。
「あの日、私は普段通り犬の散歩をしていたのですが、突然犬が吠えだしたんです」
ダリウスが犬の方に目をやると、ハルカがじゃれて遊んでいた。犬の方も喜んでいるのか、尻尾を振りながらハルカに飛びついている。
「犬が行く方に付いて行ってみると彼女が倒れていました。アリソンさんの遺体を見付けた時、あまりの恐ろしさに凍りつきました。服を着ていませんでしたからね。あの光景は今でも忘れられません」
「遺体について何か覚えていますか?」
「はい。遺体のお腹に何か文字が刻まれていました。確かこうだったと思います」
ダリウスは詩の内容を話し始めた。
「闇に舞う影、声なき叫び。永遠の眠りに、真実を隠す。暗い森の奥で」
弘也と久保田はダリウスの家を後にした。"闇の影"に関する情報が少しずつ集まっていくが、どうしてこの詩を選んだのかが分からない。内容に関する何かが事件に関係しているはずなのだが。
−−ナスティ・西室班:ルネリス魔法学校
学生を管理している受付でアリソンの友人や関係者と会う為の許可を求めた。
「王国警察の西室とバートニックです。アリソン・フィオレさんの交友関係についてお話を伺いたくて来ました」
受付係は少し驚いた様子だったが、すぐに対応してくれた。
「アリソンさんの事ですね。であればクラスメートのアレックス・ウォーカーさんが詳しいと思います。彼女ならいつも図書館にいるはずです」
「ありがとうございます」
2人は図書館に向かい、アレックス・ウォーカーを探し始めた。広々とした図書館の中で、魔法の本が整然と並んでいる中、アレックスは一心不乱に本を読んでいたが、2人が近付いたのに気が付くと顔を上げた。
「アレックス・ウォーカーさんですね?少しお時間をいただけますか?」
「はい、何でしょうか?」
2人は警察手帳を見せた。
「王国警察のバートニックと西室です。アリソン・フィオレさんについてお伺いしたいのですが。あなたが彼女の友人だったと聞いています」
アレックスは少し驚いた様子だったが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「アリソンの事ですね。先程殺されたというお話を先生から聞きました」
「最近何か変わった様子があったとか気になった事はありませんでしたか?」
「そういえば少し不安そうな様子を見せる事がありました」
「不安というと?」
「彼女は何度か奇妙な手紙を受け取っていたそうです。差出人不明の手紙で、中には"真実を知れば後悔する"とか"引き返せ"といった内容が書かれていました」
「差出人不明で・・・"闇の影"絡みでしょうか?」
「分かりません。彼女の姉、マリー・フィオレが"闇の影"の禁書活動をしていましたが、なぜ妹のアリソンが狙われたのかまでは」
西室は拳をあごに当てた。"闇の影"が関係しているのは間違いないだろう。しかし禁書活動をしていた人物ならまだしも、殺害されたのは妹の方だ。"闇の影"はただの本ではなく、魔導書の一種なのだろうか。
ギルドで"闇の影"に関する話が出たらしいので、本の内容も気になる。この学校にあるかどうか探してみるか。2人はアレックスに礼を告げてこの場所で"闇の影"を探そうとすると、弘也から連絡が入った。
『5年前に殺害されたエリン・ベリウスが魔法学校に通っていたらしい。そっちの調査もできないか?』
「ちょうどよかった。今"闇の影"について調べようとしていたところだよ。そっちの方も当たってみるね」
『頼む』
「ジュンさん」
「あぁ、聞こえてた。にしてもどっちも魔法学校出身とはな。マル害の共通点はそこか?」
確かにその可能性は高い。魔法学校の生徒の何が引き金になっているのだろうか。
−−宿舎
結局分かった事といえばアリソン・フィオレの家に何通も送られてきた"真実を知れば後悔する""引き返せ"といった言葉が書かれた手紙と"闇の影"という禁書の詩集が関係している事位。ギルマスが話した5年前の話の事件については"闇の影"自体、現物が残ってないので実質収穫ゼロ。東と西の門に行っては見たが、5年も前の話で、遺体を運んでいた人物がいるか、と聞かれても思い出せるはずがない。当然魔法学校でも当時の様子を覚えている者もいない。
「やっぱこれだけ時間が経ってちゃ情報がないか」
「実際に現場見てないしなぁ。今からその場所に行っても何もないだろ。せめてその時間に行って現場検証できればいいんだけど」
「過去、行く方法、ある」
「タイムスリップできるのか?」
和司の言葉にハルカはコクリとうなづいた。過去に行ければ当時の状況を詳しく調べられる。皆が沸き立つ中、ハルカから1つの問題点が出された。
「女性2名、限定」
「何で女性2名限定なんだよ?カフェの女性割じゃないんだぞ」
「限界、私の」
「だったら私となっちゃんで行ってくるわよ」
「気を付けて、持たない、12時間」
「いっその事、過去を変えて犯人を逮捕しに行かない?少なくともアリソンさんを死なせずに済むわよね」
「残念ながら過去を変えたからといって、現在が変わる訳じゃないんです」
「どういう事?」
「私達が過去を改変する事も計算に入った上での現在なんですよ。運命不変の法則といって、過去を変えても似た様な出来事が現在でも起きる。例えば私の両親を殺害しても、私という存在は消えずに別の両親から生まれる。いくら過去を変えても運命まで変えられないんですよ」
「分かった様な、分からない様な・・・」
「なっちゃん、ユーキ、集まって」
ハルカは地面に魔法陣を展開させた。そこからさらに2人の周りに魔法陣が増えていく。
[ムライト・オリグス・タンセブ 時の輪を超越し、過去の記憶を紡ぎだす力を我に与えん 時の螺旋に身を委ね、記憶の扉を呼び覚ませ]
「じゃ、行ってくるね」
「超時間移動」
ハルカが両手を叩くと2人は姿を消した。
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