エピソード569 狂戦士の薬<2>
−−夜
転移装置を使ってエリシア王女がやって来た。また変に事件に首を突っ込むのかというと、そうではない様だ。
「王国警察調査員からシラフートで人を狂戦士化させる薬があるとの報告がありました。私達はこれをウロボロス・エンハンサーと呼んでいます」
「ウロボロス・エンハンサー。狂戦士を生み出す薬物か・・・」
「確かに今日の1戦では不自然な戦士を見掛けたが・・・」
「私、蹴る前、もう、死んでた」
「超人になって怪力を振り回した結果、死亡する薬物なんて・・・」
「問題は別にあります。王国警察はその様な症状の人物を発見できても、ウロボロス・エンハンサーその物の発見に至ってないんです。ですが狂戦士は現にシラフートで確認されている。そこであなた達に警備を依頼したんです」
珍しくまともな話だ。
「そういう事なら最初から言ってくれればよかったのに」
「だって・・・あなた達なら勝手に捜査して解決してくれると・・・思いましたので・・・」
その読みも正しい。それとモジモジしながら話すのは卑怯だ。
「ちょっと待ってください。それは罪状として何に該当するんですか?私達はまだウロボロス・エンハンサーの全容が分かっている訳じゃない。第一、薬物の取締りって一言で言っても私達の世界とじゃ勝手が違うんじゃないですか?」
「この件に関して王国警察の条例を新たに作成しようと考えており、現在王宮内での法令化を急がせています。それに先立ち、薬物を鑑定・分析できる方がいましたよね。彼に協力を仰ぎたいのです」
「自分、でありますか?」
「はい。まずウロボロス・エンハンサーが何なのかを定義する事。次にそれが死に至らしめる薬だという確たる証拠が必要なのです」
「確かに、何をもってウロボロス・エンハンサーとするのかを決めるところからですね」
「そういう事です」
今のうちに最低限の道具は持ってきておくか。斎藤は弘也を連れて一度宿舎へ戻った。
−−翌日、弘也・斎藤・久保田・ハルカ班:闘技場裏、待機場所
狂戦士化の手掛かりを探るべく、弘也達は戦士達が待機している裏を見て回った。そのうちの1人、次の試合に出る戦士に出会った。彼は身体中に何か塗り薬の様な物を塗っている。向こうもハルカを見付けるとその手を止めた。
「お、昨日の亜人の少女じゃないか。今回も出場するのかい?」
「出る、出たい」
「どうするんですかトモさん?」
「ウロボロス・エンハンサーの事もある。昨日のクラウスって奴の例があるからな。ハルカには出て貰うしかない」
「頑張る」
「俺はフリードリヒ・ダーヴィットだ。嬢ちゃんは?」
「ハルカ・エリアメラ・ラストゥス・リメ・メトニア。600歳生きてる、嬢ちゃん、違う」
「それは失礼」
フリードリヒは苦笑いした。
「ところで何を塗ってるんですか?」
「これ?これは汗を抑える塗り薬でね。武器を持つ手が滑らない様にしてるんだ。何戦もすれば汗だくだからね」
「制汗剤みたいな物か」
「塗りたい、私も」
「他の出場者の物を借りるってありなのか?」
「構わないよ、どこにでも売ってる物だしな。好きなだけ使ってくれ」
「わーい」
小瓶を受け取ったハルカは喜んで羽根をパタパタさせた。
「「紳士だ」」
「試合の組み合わせになった時は全力でいくからな」
「やろう、全力、やろう」
「フリードリヒ、試合始まるぞ」
「おぉ、今行く」
荷物を置いたままフリードリヒは鉄の棍棒を持って入口に向かった。
「今日も狂戦士は現れるだろうか?」
「まだ分かりませんね。カズ達が観覧席から見てるし、我々は裏側を見ている。仮にいたとするならどちらかが目撃するはずです」
−−和司・レギンダ・ナスティ班、西室・笠原班:観客席
試合はもう何組か終わった。次はハルカが出る番だ。狂戦士が現れるのか、それとも普通の戦士が出てきてハルカの圧勝で終わるのか。
「昨日飛び入り参加し、見事王者に輝いたハルカ。対するは挑戦者、フリードリヒ・ダーヴィット。この1試合、注目せざるを得ません!」
ハルカ待望の組み合わせが実現した。約束通り全力で戦う。戦うのだが、ゲートから現れたフリードリヒの様子が何かおかしい。待機場所で見た時の紳士さが感じられない。亡霊にでも取りつかれた様に見える。フリードリヒの目は血走り、まるで野獣のような荒々しい息を吐きながら鉄の棍棒を振り回している。
「試合開始!」
「うがぁぁぁぁっ」
「一気に決める」
[ワァエ・ビオウ・エージン 我、精霊に命ず 大地の精霊ノームよ 大地の神ガイアよ 今こそその力、解き放て 全てを破壊し尽くさんが為に ルミア・ハセン・ラピア・ジルカ]
「あの詠唱は岩石系上級魔法?!」
エレノアは思わず身を乗り出した。
「岩石竜魔法」
ハルカは右手に集めた魔力を地面に叩き付けた。闘技場が地響きを立てながら割れていき、割れた岩石が集まって竜の姿へと変化した。
「「うわあああっ!」」
「「きゃあああっ!」」
派手な地震と地割れで観客達から驚きと悲鳴が起こる。竜は上空から一気に降下してフリードリヒを飲み込んだ。その中は鋭利な岩の集まり。さながら岩石版鋼鉄の処女だ。
「あぐぁぁぁっ!」
終わったと思いきやフリードリヒは鉄の棍棒を振り回して内側から竜を破壊した。
「ダメ?これも?」
最強魔法を打ち込んでも効果がないのか。昨日のクラウス戦もそうだったな。こうなったら別の魔法をぶつけるしかない。空に舞ったハルカは次に使う魔法を何にするか考えた。
「ねぇ、ハルカちゃんはどうして色んな精霊魔法を使えるの?四属性全部網羅してるわよ」
「それは元々竜族であるハルカちゃんが精霊達を支配してるからなんです。最初に唱える"ワァエ・ビオウ・エージン 我、精霊に命ず"の部分、これが竜族の魔法だと思います。私達は精霊と契約しないと魔法が使えないから、相性なんかを気にしないといけないんですけど、ハルカちゃんの場合、それが必要ないんですよ。その代わり竜族の魔法を必ず唱えないと精霊魔法が使えない。省略魔法ができないのが欠点でしょう」
使う魔法を決めたハルカは両手を天に掲げながら詠唱した。
[光の巫女達よ 星々と成りて空を舞え ルクレナ・メイル・スミスタ かの者に光の矢を撃ち放たん]
「光の魔法まで?!」
「全光弾一斉射撃」
ハルカは無数に現れた光の球をコントロールしてフリードリヒの周囲に高速で移動し、止まっては光線を放ち、また別の場所へ移動して光を放つを繰り返す。それぞれのパターンを持つ攻撃が止めどなくフリードリヒに光を浴びせる。これだけの同時攻撃なら体力を削る事はできるはず。しかし致命傷には程遠い。
「やるか、また」
ハルカは最後の魔法を詠唱した。
[バルカ・クジーダ・ワーマ 業火に焼かれし金の剣よ 我が脚に集いて紅の炎と化せ 我が前に立ちはだかる愚かなる者を滅っさんが為に]
「出たー!ハルカの必殺技!紅竜飛翔蹴技だーっ!昨日のクラウス戦で見せたこの技、フリードリヒに通用するのかー?!」
「「うおぉぉぉっ!!」」
観客達の盛り上がりが最高潮に達する。赤いエーテルが右脚を中心に集まりながら渦巻き、ハルカの飛び蹴りにさらなる威力を乗せた。
「紅竜焔足蹴技」
ハルカは空中から頭部目掛けて一気に直進するが、激突する手前で攻撃を止めた。
「こいつ、死んでる」
ハルカが距離を取って離れるとフリードリヒの身体は風にあおられた布切れの様に地面に倒れた。
あれだけの怪力を発揮しておきながら決勝戦まで進んだ後、死亡した。ここまでは昨日のクラウスと流れが同じだ。まさかこれがウロボロス・エンハンサーの効果なのか?
弘也と合流した和司達は闘技場裏の待機所でフリードリヒと出会った場所へと急いだ。そこに彼の遺留品があるはず。行ってみるとまだそこにまだバッグが置き去りになっていた。バッグの中を漁ってみたが、直接の死因になりそうな物は入っていない。先程の制汗剤が入った小瓶と水の瓶が入っている程度。
「試合前に塗ってたこれがウロボロス・エンハンサーだったんじゃない?」
「どこにでも売ってるって話してなかったか?」
「それに何でハルカは狂戦士化しなかったの?」
「竜族だからか?」
「もう1つの水瓶の方だが、こっちも出所を探してみるしかないな」
エリシア王女が気にしていたのはこれの事か。和司達はクラウスの所持品を回収してこれらを扱っている店を探しに行った。
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