エピソード487 荷馬車<11>
−−闇市場
和司はコリンの後を追って残りの2人を見付け出す為に尾行を続けた。着替えたローブに身を包み、周囲の人々の中に溶け込みながら。
コリンは闇市場の中を歩きながら人々とのやり取りをしていた。和司はコリンが他のメンバーと接触するタイミングを待った。闇市場はあいかわらず混沌とした雰囲気で、多くの人々が行き交う中を見逃さず、気付かれずに慎重に足を進める。
闇市場の中を進んでいくうちにコリンは人通りの少ない場所に入った。和司は慌てずに追い掛け、コリンが立ち止まった場所を物陰に隠れて様子を見た。
「あいつが残りのどっちかか?」
カルペディエムのメンバーだろうか。そこに1人の男が立っていた。2人は何かを話し合っている様に見える。恐らく先程の取引の事だろう。和司は周囲を警戒しながらローブの隙間からスマホを出して動画撮影を始めた。
「エプチロピンで取引したい奴がいるだって?」
「そうだ。依頼主もかなりキレてたからな。機嫌を取り戻すチャンスだと思うが、どうだ?」
「魔族の情報ってのが奇妙だな。一体何したいんだ?」
「そこは秘密にしたいところだろうよ。とにかく2年前にアカッシスにいた奴と接触できないか?」
「当たってみよう。元々俺もフォンデミリア王国から来たんだしな」
ふと、和司は肝心な事に気が付いた。2年前のディスノミアス事変の事に詳し過ぎる人物が出てきたら、一発で自分が当事者の1人だと気付かれてしまう。それはそれでマズい。まぁその時はその時。まずは2人の顔を押さえられたんだから上出来か。後でコリンの話し相手がサムとブレンドのどっちなのかゲイリー達に確認させよう。和司はコリンを見張るのをやめてスマホの録画を終了させた。
「ん?」
誰かに見られている気がする。異様な空気を感じ取った和司は急いでその場から離れてレギンダの所に戻った。
「レギンダ、すぐにここから出るぞ」
「え?どうしてですか?」
「周りをよく見ろ。今まで大人しかった奴等から殺気を感じる。囲まれる前に外に脱出するんだ」
レギンダは和司の陰に隠れながら周囲を見回した。確かに人々の中に混ざって何人かが武器を手に取ろうとしている。恐らく狙いは和司のエプチロピンだろう。こちらの武装が貧弱そうに見えるからか、強引にでも奪い取る気だ。昨日武器屋に気前よく渡したのが裏目に出たか?奪われて偽物だとバレても困るし、無傷で済むとも思えない。おまけに守らないといけない奴が2人もいる状況では完全にこちらが不利になる。
「エレノアに追手が来ないか見張りをさせろ」
「分かりました。エレノア、お願いします」
エレノアはレギンダにだけ姿を見える様にして後ろから誰か付いてきてないか殿を務めた。
−−通り
人通りが多い場所まで逃げてきた和司達は追手が来ないのを確認して食堂に入った。
「こっちが追われる側になるとは」
「予想外でしたね。戦闘になる前に脱出できたのは幸いでした」
「だがこれでもう二度と闇市に入れなくなった」
和司はスマホをテーブルに置いて動画を再生した。
「このコリンと話をしてる奴は誰だ?」
「えっと・・・サム・エスミーです」
「間違いないか?」
「間違いありません」
「これからどうします?」
「3人の内2人までは顔が分かった。この2人に関しては聞き込みをすれば頻繁に立ち寄りそうな場所を特定できるだろう。残るブレンド・スタウスカスだが・・・お前等顔の特徴は分かるか?」
和司はメモ帳を出して似顔絵を描こうとした。
「すみません。俺達記憶力があんまりない方で・・・」
ゲイリーの言葉に大きく溜め息をつきながらメモ帳をパタンと閉じた。
「となると、個別に当たっていくしかないか。コリンについては向こうから連絡してくるだろうし」
「コリンから連絡を受けるのに話し貝が必要ですね」
「おいお前等、どっちでもいいから1個貸せ」
「けど俺達が呼び出される時に困ります」
「二人一緒に行動してんだ。なくしたとか壊れたとか言い様はあるだろ。ほら、早くよこせ」
和司はゲイリーから話し貝を受け取って腕にはめた。
「一度エドワーズさんの邸宅に戻ろう。捜査するのにこいつ等が邪魔だ。見張ってて貰う必要もあるしな」
「ステッキでボコボコにしないでしょうか?」
「こいつ等の出番が来るまでは無傷でいて貰わないと困る。そこはきちんと説明しておく」
和司達は一度エドワーズ邸に戻った。
−−エドワーズ邸
ゲイリーとウルリッヒを地下室に閉じ込めた後、和司とレギンダは元の服に着替えた。和司に与えられた部屋に集まると、執事がお茶を持ってきてくれた。それを飲みながら次の準備に入った。
「何から始めますか?」
「まずサム・エスミーの聞き込みからだな。それと未だ判明していないブレンド・スタウスカスの情報を集める事だ。といっても酒場のトイヴァネンは夕方からしか開かないから少し待つ必要があるな。レギンダ、今の内に休んでろ」
「和司さんはどうするんですか?」
「俺だって少し寝るよ」
和司はベッドにゴロンと横になった。そのまま寝息を立てて眠ってしまったらしい。緊張の糸が切れたからだろうか。
「レギンダ、チャンスだよ。今の内に襲っちゃいなよ」
エレノアは意地悪そうな顔をして笑っている。
「相手は和司さんですよ。それに無防備の人間に剣を向けるなんて卑怯にも程があります」
「はぁ〜。そーゆー意味じゃないってば」
レギンダの見当違いの言葉に流石のエレノアも呆れてしまった。もう睡眠術を掛けてさっさと眠らせよう。エレノアはレギンダに魔法を掛けた。すぐに頭がクラっとしたレギンダはそのまま和司の横で眠ってしまった。
「全く、この2人はいつになったら進展があるんだろうね」
2人仲良く眠っているのを見てエレノアは困るやら何やら複雑な気持ちになったまま姿を消した。
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