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異世界刑事  作者: project pain
シーズン7 現実世界
319/664

エピソード316 プロローグ<後編>

−−和司のマンション


「あ〜、久々に食ったな〜」


満腹感いっぱいの和司はソファにもたれた。テーブルの上には見事に平らげられた皿だけが残った。和司と弘也にとっては久々、ナスティにとっては初めての夕食が終わった。その時、ふと我に返った和司はある事に気付いた。


「なあ、こっちの世界でも魔法って使えるのか?」


「ちょっと試してもいい?」


ナスティはシンクの前に立った。


[水の精霊ウンディーネよ 我が手に集え]


蛇口から水が流れ、ナスティの手の周りを螺旋状に回る。しかしアカッシスにいた時よりも操れる水の量が圧倒的に少ない。


「まだ魔力が回復してないのかな?使える事は使えるから問題はないけど」


「いや、問題だよ」


和司の発言に弘也もうなづく。


「こっちの世界に魔法はないんだ。下手に使ったら大騒ぎになるぞ」


「そう、こっちでの魔法使用は厳禁だ」


「え?魔法が使えないんじゃソーセージが入ってないホットドッグだよ。これじゃただのドッグだよドッグ。私何の取り柄もなくなるじゃん」


何を言ってるか言葉の意味が分からない。


「例え魔法が使えなくても、自慢の目があるだろ」


「何の役に立つのよ〜」


それにしても何故魔力が急に落ちたのだろう。いつもなら半日も待っていれば完全回復するはずなのだが。精霊の力が弱い?シルヴィアと戦った直後で魔力を消耗し過ぎたから?それとも転移した影響で自分が弱くなった?理由は色々考えられるが、これだという確証が持てる物が1つもない。こればかりは時間を掛けて考えるしかないだろう。


「シャワー貸すから先に入ってこいよ」


和司はガスのボタンを押してナスティにタオルと着替え用に自分の服を渡した。


「うん」


それを受け取って風呂場に入る。部屋に戻って和司と弘也はカーペットの上に寝転がった。


「何か・・・戻ってきたって実感ないな」


半日前までシルヴィアと戦って、そして現実世界の朝に戻ってその勢いで本庁で書類と格闘。やっと落ち着ける時間ができたというのに自分達の世界にいるという実感がない。


「この世界の1年前に戻ったって言ってたよな。じゃあ俺達は1年老けたままエレベーターから降りた時間の続きを過ごしてるのか」


「カズ、白髪が目立ってるぞ」


「ヒロこそ目尻にシワが寄ってるんじゃないか」


「「ふっ・・・ふふふっ」」


2人は寝転がったまま腹を揺らしながら笑った。


「ちょっとぉ、これどうやって使うのよ?」


風呂の方からナスティの声が聞こえてきた。仕方がないな、と和司は立ち上がってドアを開けた。


「え?」


「え?」


開けた瞬間和司は固まってしまった。目の前で全裸になっているナスティもだ。


「見るなぁ!!」


左手で身体を隠しながらその場にあったシャンプーボトル、ひげ剃り、洗面器を構わず投げつける。シャンプーボトルは頭部に当たって中身をぶちまけながら派手に飛び、ひげ剃りは頬をかすめ、洗面器は顔面に直撃。ナスティは次に風呂の蓋を投げようとしている。


「分かった、分かったからまず落ち着け!」


「うるさい!その前に出てけっ!」


和司は慌てて外に出てドアを閉めた。一息ついてドアにもたれ掛かる。


「何だよ全く!使い方が分からないって言うから来たのに!」


「ドアの前で説明すればいいでしょ!何で入ってくるのよ!」


「脱いでたなんて思わなかったんだよ!」


平和といえば平和、争いが絶えないといえば絶えない。日常かと言われれば日常かもしれない。確かにアカッシスでの3人の日常はこうだった。


「赤い取っ手を逆時計回りに回せばお湯が出る。青い取っ手をひねったら水が出るからそれで温度調節してくれ」


「最初っからそう言えばいいのよ」


しばらく経ってようやくドアの向こうからシャワーが流れる音が聞こえてきた。


「あ〜ひどい目に合った〜」


「お疲れさん。いい目の保養になったんじゃないのか?」


「その代償がこれだぞ」


ドアの前には投げ付けられた物が散乱している。ひげ剃りがかすめた頬から血が流れ、シャンプーは床に散乱してヌルヌルと広がっていく。これ以上こぼれない様にボトルをひとまずシンクの上に置いて、フローリングワイパーで拭き取っていった。




しばらくしてナスティは髪をタオルで拭きながら出てきた。しかしどこか不思議そうな顔をしている。


「着替えた時に気が付いたんだけどさ、ポケットにこんな物が入ってたんだよね」


ナスティはそれを手に取って2人に見せた。日本のパスポートだ。


「いつの間にこんな物が・・・」


「転移した影響なんだろうか?これ持ってるって事は日本国籍を取得してるって事だよな」


「俺達があっちに行った時は何もなかったぞ」


「そういえばスマホのバッテリー全然減らなかったな」


「あ、それがあったか」


ナスティがパスポートの中を開いてみると自分の顔写真の上に確かに「日本国」と書かれている。名前も、見た目相応年齢ではあるが生年月日も書かれている。転移しただけなのにこんなアイテムが自動的に付いてくるなんて。


「ヒロ、時間がある時にナスティちゃんの戸籍謄本調べてみよう。すでに日本国籍を持ってるなら何か出てくるはずだ」


「帰化した事になってるんだろうか?」


「あるいは生まれた時点で日本国籍を取得していたか」


後で戸籍謄本を調べてみると、ナスティの三世代前の祖先がすでに日本に住んでいた事になっていた。人族の年齢で換算すると明治時代に日本に定住していた事になる。そしてその祖先の名前はナスティの実際の祖先の名前と一致していた。現実的には考えにくい話だが、書類上、彼女は間違いなく生まれた時から日本国籍を持っていた。




「それはそうと、ナスティちゃんを今夜どうするか・・・」


「まぁ泊めるにもカズの部屋か俺の部屋の二択しかないが」


「ヒロの部屋は無理だろ。ゲーミングチェアにデカイPC。広々としたパソコンデスクの上に何台もモニタ付けてんだ。寝る場所ないだろ」


「かといってこの部屋に2人だけというのも俺には何だか不安に思える」


「じゃあヒロもここに泊まりなよ」


何故ナスティが勝手に決めるのかと聞きたくなるが、確かに他に選択肢がない。


「しょうがない、布団敷こう。テーブルどかすから手伝ってくれ」


2人はテーブルを隅にやって収納から布団を引っ張り出した。ただし、毛布はあるが布団は1つしかない。もう1人はソファで寝る事になる。和司は100円玉を手に取った。


「ナスティちゃんはベッドを使わせるとして、布団とソファのどっちで寝るかコインの裏表で決めるぞ。当たってたら布団、外れたらソファだ」


「よし、いいぞ」


ピイィィィンッ指で弾かれたコインは宙を舞い、再び和司の手に戻ってきた。それを掴んで手の甲に乗せる。


「表」


和司がそっと手をどけると桜の浮き彫りが見えた。表だ。


「俺がソファかよ」


自分から仕掛けておいて言うのも何だがひどい有様だ。しかし勝負に負けたのは事実、素直に認めよう。和司はソファに寝転んだ。


「明日が土曜でよかったなぁ〜」


「とはいえ招集がかかったら返上だからな。つかの間の休息、じっくり味わおう」


3人は前の世界での疲れもあって早々に眠りについた。




−−ショッピングモール


翌日、3人はショッピングモールに買い物に出かけた。ほとんどはナスティの物だ。


「まずスマホだな。先に携帯ショップ寄らないか?普通に連絡取れる手段は必要だし、俺も機種変したいんだよ。ダンジョンで画面割れたから」


「服も必要だな。いつまでもこの格好させておく訳にもいかないし」


今ナスティは和司から借りた服を着ている。少々サイズが大きいせいか全体的にたるんで見える。和司と弘也はどっちが金を出すか財布の中身を確認し始めた。


「服といえばさ、下着も買いたいんだよね。ずっと同じ物付けてるのもあれだし」


「・・・それもそうか」


3人は何故か最初にランジェリーショップに足を運んだ。


「へぇ〜カワイイのがいっぱいある〜」


「何日分かまとめて買ってこいよ」


「分かってるよ〜」


華やかな色が並ぶ下着の陳列っぷりにナスティは目を輝かせながら中に入っていく。和司と弘也はグランデサイズのカフェラテを片手にテナントの前で待つ事にした。するとナスティはすぐに何かを持って店から出てきた。


「ねぇ、これ何?」


ナスティが手に持っているのはブラだ。


「それは・・・胸を保護する物だ」


向こうの世界ではチューブトップの様に帯で巻いていたが、それは隠すだけの物であって、この様な形崩れを防ぐ形状をしているブラを見るのは初めてだろう。周りに聞こえない様に小さな声で説明する。


「へぇ〜そんな物があるんだ。でも今持ってるの明らかに小さいよね。私の胸に合うのがどれかなんて分かんないよ」


「測ってもらったらどうだ?」


ナスティは店内に戻っていった。測った結果、アンダーが68cm,トップが91.5cm。その差は23.5cm。そこからカップのサイズを割り出して・・・。結果が分かったナスティは自分に合うサイズのブラを持って2人の所に戻ってきた。


「えっとぉ〜Fカップなんだって。これって大きいの?」


「まぁ大きい方だよな」


「商品持ったまま出てくるなよ。泥棒と間違えられるぞ」


「大丈夫だよ、警察が目の前にいるんだし」


ナスティは商品の下着を持って店の中と外を何往復もする。いちいち何かを確認しないと気が済まないらしい。


「ねえねえ、ブルーとピンクどっちがカワイイと思う?」


「どっちもカワイイ。2つとも買ったらどうだ?」


「黒なんてどうかな?」


「1つ位あってもいいんじゃないか」


「フリルが付いてるのと付いてないのどっちがいい?」


「なしの方だろ」


何かを見付けてはそれを持って2人の前にやって来るナスティを適当に返事して無理矢理中に戻す。それを通り過ぎる人達はいやらしそうにチラ見していく。


「俺達明らかに変な目で見られてるな」


「だよな」


「警察手帳出すか?」


「いやいやいや、出して何になるんだよ?」


ナスティの方は一通り下着を選び終えたらしい。テナントから顔だけ出した。


「終わったよ。この後はお金を払えばいいんだよね?」


和司は財布からクレジットカードを抜いてナスティに渡した。


「会計の時は黙ってこれ渡せばいいから、さっさと済ませてこい」


「うん、分かった」


ナスティは再び店内に入った。


「これでもう下着を持ったまま相談しに出てくる事はないだろう」


と思っていたら買う予定の下着を全部抱えたままナスティは慌てて2人の所に戻ってきた。


「ねぇ、一括とリボどっちにしたらいいの?」


2人はカフェラテを吹いた。




下着を選ぶのに何時間も掛かってしまった為、昼食を食べに1階に降りて適当なレストランに入った。


「凄ーい!メニューに写真が載ってる!」


「しかも季節のメニューが変わる度に差し替えるんだからな。全くマメだよ」


「あ、私これがいい。カワイイ〜」


と言ってナスティが選んだのはお子様ランチだった。しかも玩具付き。


「・・・マジでこれ食うのか?」


「悪い?」


「いや、いいけどさ」


和司と弘也はサーロインステーキのセットを頼んだのだが、ナスティだけお子様ランチだった事が意外なのか奇妙なのか、運んできたウェイトレスは何とも言えない表情で料理を置いていった。


「刑事になるにはどうしたらいいの?」


「なる気なの?」


「そりゃあっちで覚えた事なんだもん。どうせならこっちでもやりたいよ。2人とも一緒にいられるし」


うーん、2人は少し考え込んだ。


「ナスティちゃんの場合大卒じゃないから警察学校に入ってから卒業まで最低10ヶ月は掛かるはずだけど」


「その間学校の寮生活。スマホも没収されて外部との連絡は不可能」


「えぇ?!」


「それだけじゃないよ。卒業後は所轄の地域課、交通課、生活安全課、少年課なんかを経て刑事課に抜擢された後、手柄を立ててようやく本庁の捜査一課に引き上げてもらえる。そう簡単に一緒にはなれないんだよ」


「待って。じゃあ私が2人と一緒になるのって何年先なの?」


「早くて3〜5年」


「そんなぁ〜」


前途多難だなこりゃ。でも諦めない。2人と一緒になる為にも頑張らないと。ナスティはそう決意した。

次の事件を書く為に少し空白期間を設けます。

エピソードがまとまったら順次公開していく予定ですので、是非ブックマークしてください。


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評価してもらえるとモチベーションがUPし、今後の執筆の励みになります!

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