エピソード313 終幕
−−旧魔法都市地下層
合流した6人はダンジョンを抜けて吹き抜けの坂を登っていく。防衛する目的を失ったからか、モンスターは1匹たりとも現れなかった。
「で、結局シルヴィアは倒せたの?」
「倒したというよりは拘束したってイメージかな」
「つまり逮捕した、と」
「でもアカシックレコードを自由に触らせるって目的は阻止できたのですから、それで十分じゃないでしょうか」
再びギルドの隠し階段を登っていくと、落ちていた扉が見えてきた。
「ナスティ。確かこれ、こっちから魔法で開けるんだよな?」
「・・・ごめん、私もう魔力が残ってないや。回復するまで待ってくれる?」
「待つってどの位だよ?」
「半日位・・・かな」
ナスティは思わず苦笑いする。
「それまでここで待つのかよ」
「こんな暗くて狭い場所で半日も何してればいいんだよ?」
扉の前で口論していると石の扉はガリガリと擦れる音を立てながら上へと登っていく。
「あれ?勝手に開いたぞ」
「クリスさんですか?」
「私だって魔力が残ってないのよ」
「まぁ何だか知らないが通れるうちに通っておこう」
6人は扉が開いているうちに階段を登っていった。
「全く・・・詰めが甘いのぉ」
階段の下の方でフッと鼻で笑いながらロンは瞬間移動してナギレア高地へと戻っていった。
−−ギルド
ギルドに戻った時には日が登っていた。こちらの方も戦闘が終わっていたらしく、多くの回復師やファロス総合病院から駆け付けた医師達が皆の傷の手当をしている。その脇で縄で縛られたディスノミアスの構成員を衛兵達が連行していた。
「全く、ホールも階段もボロボロ。ドアなんか跡形もないですよ。カーペットだってかなり焼け焦げてますし」
戦いが終わった戦場の凄惨な有様を見てギルドマスターは溜め息をついた。
「確かにボロボロだな。修繕費が高く付くんじゃないのか?」
「う〜ん、いっその事ギルドを爆破して1から再建しますか。もう隠し通路なんか必要ないですし、下手に修復するより手っ取り早い」
「いやいやいや、爆破するって何だよ。あんたここの管理者だって言ってただろうが」
「前から建て替えたいと思ってたんですよ。私的には建物が古くて居心地悪かったですし、いい機会でしょ」
「そんな個人的な理由で爆破していい物じゃないだろ」
「嫌ですねぇ〜冗談ですよ、じょーだんっ」
ギルドマスターは笑いながら答えた。
「クリス!」
クリスを見付けたカーマイドとアルジェールが声を掛けるとお互いに駆け寄って抱きついた。
「よかった・・・無事でいてくれて・・・」
「あんた達もね・・・」
3人が抱き合って喜ぶ様子をナスティは離れた所からじっと見ていた。涙がウルッと滲み出る。
「いいよね、ああいうの」
「仲間同士の絆って奴だな」
ナスティはそっと和司と弘也にもたれ掛かった。
−−法政院、メルクリア・ロメガー管理官の執務室
ギルドでクリスと別れた5人は一度法政院に入り、執務室に集まった。ボロボロになったジャケットを脱いだロメガー管理官は4人にお茶を振る舞った。
「私達が二度と会わなくて済む様な重大事件が起きない事を切に願います」
「そうだな。会えなくなるのはそれはそれで寂しいが」
「管理官、これからヒマ?どっか遊びに行かない?」
和司はすかさずナンパの一手を入れる。
「私が暇そうに見えますか?これから一連の捜査報告書をまとめて書かないといけないんですよ。手伝ってくれるなら話は別ですが」
「あ〜あ、断られちゃったね」
この5日間の間にどれだけの血が流れ、どれだけの命が失われたか計り知れない。誰もが今までに経験した事のない大事件だった。ロメガー管理官の言う通り、揃って合同捜査に乗り出す様な事件が二度と起きないといいのだが。
−−墓地
墓地ではあちこちで葬儀が行われていた。四人共その様子を離れた所から見ながら手を合わせた。
身内のいないソリスの葬儀はどうなっただろうか。気になって辺りを探しているとシオンが立っていた。そこがソリスの墓らしい。シオンはいつも持っている物とは違う魔法の杖を手にしていた。
「それはソリスの杖か?」
「はい、こうすれば私達はいつでも一緒です」
シオンはその杖を愛でる様に撫でた。
「これからどうするんだ?」
「冒険者仲間を探して共に任務を行おうと考えています。いつまでもこのままって訳にはいきませんから」
「そっか」
「またいつかお会いできるかもしれませんね」
「そうだな、じゃあまた」
シオンは頭を下げて横を通り過ぎていった。
葬儀が終わった5日目には何とか解決できた。報告がてら4人は花束を置いて手を合わせた。
「ソリス、無念は晴らしたぞ。安らかに眠ってくれ」
4人はその後エレノアの墓に向かった。レギンダはプリムローズの花を供えた。
「エレノアが命をかけてくれたお陰で私達は彼女が繋いでくれた道を通る事ができました。彼女の想いと一緒に」
「そして俺達は勝った」
「そういえば紋章の前で転移装置を出す時にエレノアの霊が出たって言ってたな」
「はい、彼女のお陰で転移装置を出せました」
「もしかしたらエレノアはレギンダの守護天使になったのかもな」
天使・・・そうか、エレノアは天使になったのか。そしてこれからもずっと私の傍に居続けてくれるのだろう。レギンダはエレノアの墓前に向かって改めて感謝の気持ちを送った。
−−大通り
全てが終わってフォンストリートの宿へと歩く。和司は大きく背伸びをした。
「さあて、終わった事だしやっぱここは揚げ物食わないとな」
「え?何で朝から脂っこい物食べるのよ?」
「犯人を挙げたって意味を込めて揚げ物なんだよ」
「つまらないダジャレですね。いつも食べてないじゃないですか」
「警察の験担ぎみたいなもんだ、常識だぞ常識。今日程食いたい日はないぞ」
「マスターも極上の1本を取っててくれてるしな」
そんな多愛ない話ができたのも久し振りな気がする。ようやく4人に心から笑える時間が戻った。弘也は和司の肩を叩く。ナスティは弘也の胸を小突く。レギンダは和司の腕を引っ張る。それぞれが4人一緒で良かったという気持ちを伝えていた。
「私はご飯よりも今すぐ帰って寝たい気分だよ」
「まぁ何だかんだ言って徹夜明けだったからなぁ。ナスティちゃんには堪えるだろ」
弘也の言葉にナスティは微笑んだ。
「ふふっ。やっと"ちゃん"付けが戻った」
和司と弘也は顔を見合わせた。今まで意識していた訳ではないが、確かに二人共最近はちゃん付けしてなかった。心に余裕がなかったからだろうか。
「ところで何故私はちゃん付けで呼んでもらえないんですか?」
この話題にレギンダが乗っかってくる。
「じゃあ今度からそう呼ぼうか、レギンダちゃん」
和司の言葉にレギンダはムスッとした。
「・・・何だかバカにされてる気がします。やっぱりいつも通りの呼び方でいいです」
「えっ?!じゃあ私普段からバカ扱いされてたの?!」
「決してそういう訳じゃないぞ!」
「うむ、これはあくまでレギンダ個人の感想だ」
通りを歩いてフォンストリートに着くか着かないかの所まで来た時、4人はいつもと違う様子に気付いた。何やら住民達が輪になって何かを見ている。また事件でも起きたのだろうか。
「どうした?何かあったのか?」
住民の1人に声を掛けると驚くやら恐れるやら分からない表情で輪の中心を指差した。何だろうかと背伸びをしてその先を見た瞬間、和司と弘也の表情が変わった。
「なっ‼︎」
「どういう事だ?!」
和司達がそこで見たのはのは扉2枚分の大きさがあろうかという光だった。
「まさかこれは・・・」
「俺達が通ってきた光の・・・ゲート」
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