エピソード208 復活
今回はゲストキャラがとにかく多いので、ここまでに登場している人物を一覧にしました。
・病院関係者
【助手】スティーヴン・エドワーズ
【魔術士】ラッセル・モーガン
【看護師】カリーナ・モニツ
【同僚】アメリア・グレイグ
・冒険者
【急患で運ばれた戦士】パトリック・ブライス
・ギルド
【回復師】ケイ・ワーナー
・友人
バーバラ・ハント
メアリー・ベッキンセイル
----------------------
−−ナスティ:ラッセル・モーガンの家
昨夜夜勤していた人物の家を1軒1軒回っていたナスティは最後の1人、ラッセル・モーガンの家に来ていた。もう夜も遅い。夜空には三日月を覆い隠そうとする黒い雲が漂っている。雪が降らないだけまだマシだが、それでも強い冬風が吹き荒れる。ドアをノックすると部屋の中から返事がして、ドアを開けて中に入る様促された。開けてみると薄暗闇の部屋の中でラッセルはちょうどドアの方を向いて座っていた。ナスティが警察手帳を見せるとラッセルはテーブルに置いてあるランタンに火を入れて、一緒に置いてあった魔法の杖を隅にどかした。
「昨夜病院で夜勤をされていた事についてお聞きしたいのですが」
「夜遅くに戦士が負傷したって話を聞いてそいつの冒険者仲間が街の中に運び込んでからすぐに瞬間移動させて病院に入れたんだよ。瞬間移動は街の外までは効果範囲がないからね。その後は脇腹に刺さった破片を1つ1つ取り除くのに結構時間が掛かった。ティファニーさんの指示で2時間おきに睡眠術をを2・3回使ったかな。傷跡を1つ1つ縫合したから全部終わった頃には夜が明けてたよ」
深夜に急患が運ばれてきた話を掘り下げて聞いてみるが、手術中はずっとティファニーと一緒だったらしい。それ以外特に変わった様子はない。
「ところで魔術士と聞きましたが、なぜ冒険者ではなく病院勤務をしてるんですか?」
素朴な質問をぶつけてみるとラッセルは見てくれよ、と言わんばかりにテーブルから左足を出してズボンの裾をめくりあげた。失った左足の膝から下に掛けて鉄製のすねと軸打ちされた足首とが頑丈な鎧の様に付いていた。
「義足ですか」
「そう、4年ほど前にモンスターにやられてね。この足の為に任務に出られなくなって、やむなく病院勤務を始めたって訳さ」
「その時に手術を担当したのがティファニーさんだったとか」
「そうだよ。今は同じ手術スタッフだけどね」
「回復させられなかった彼女を恨んでますか?」
それを聞いてラッセルは大笑いした。
「いくら彼女でもこればっかりはどうする事もできなかっただろうよ。足を繋げたくてもその足をモンスターに持っていかれたんだからね。止血だけで精一杯だったよ」
レギンダから聞いた話とは逆でティファニーの事を悪く思ってはないらしい。単純に歩き辛いのにイラツイていただけの様だ。ここから少し魔法の話でも聞いてみるか。ナスティは話題を変えた。
「病院に魔法使いって想像が出来ないんですけど、どういった事をされているのですか?」
「手術の時に患者に睡眠術を掛けて意識を失わせるか、街の中にいる患者を瞬間移動で病院に呼び寄せるかってのが多いね。他には軽い解毒、安全に患者を運ぶ為の浮遊術、それから錯乱状態を治す状態回復ってのもあるけど」
病院では主に白魔法を使っているそうだ。魔術士からしてみればどれも簡単な物ばかりだが、魔法使いが病院で活躍するとしたらそういった類に絞られてくるのだろう。冒険者を辞めて以来精霊魔法を使う機会がなくなったせいか、もう忘れてるんじゃないかと笑い話を付け加えられた。
「ちなみに精霊魔法はどの精霊を操っていたんですか?」
「火と風の精霊だよ。媒体が近くにあるし、攻撃力が高かったからね」
魔術士で風の魔法が使える。犯人に近いとは思えるが、この街に魔術士はそれなりにいる上、風の魔法が使えるからといって風系の呪文を全部習得してるとも限らない。犯行に使用された疾風射矢魔法を実際に使えるかどうか確認する方法はないものか。ナスティは頑張って考えてみたがこれといった妙案が思い付かない。一応聞く事は聞けた訳だから今日のところはこれで退散するか。ナスティは挨拶をして家を出た。
−−弘也:リュカン川河川敷
一晩中どこに行く訳でもなく、ずっと川の土手に座っていた弘也はジャケットのフラワーホールからピンバッジを外した。捜査一課を表す金枠付きの赤いバッジ。中に金色の文字でS1S mpd(Search 1 Select – Metropolitan Police Department"選ばれし捜査第一課員 – 警視庁"の略)と書かれている。選ばれし捜査第一課員、今はその言葉が重たく感じる。握った手を振ってピンバッジを捨てようとしたがなぜかそれはできなかった。
「お前、何をしている?」
弘也の後ろからいつもは気配を殺しているはずのジーナが芝生を踏む音を立てながらゆっくりと歩いて来た。
「自分でも分からない。何をしているのか、何をしたらいいのか。ボーッと生きているだけでいいのかどうか」
ジーナは短刀を弘也の前に投げた。
「何だよ?」
「生きる価値がないと思うならそれを使って死ぬんだな。死にたくないと思うのなら彼女の敵を取れ。どちらも嫌だと言うのならこの場で私がお前を殺す」
立ち上がって足元に落ちた短刀を拾い上げる。
「やれやれ、もうちょっと楽に死ねる方法とか選べないものかね。毒薬とかさ」
ジーナはクナイを弘也の顔すれすれに投げた。頬から血がにじみ出る。
「お前が今まで見てきた被害者の中に殺され方を選べた者が1人としていたのか?」
「・・・・・・」
「彼女にも明るい未来があった。お前と共にいる未来だ。その未来を絶たれた思いをお前はちゃんと受け止めているのか?お前達が言う無念とは飾りか?」
弘也は何も答える事ができずに沈黙を続ける。
「お前は一体何の為に刑事になった?!何をしたくて刑事になったんだ?!最初に心に決めた時の事を思い出せ!」
いつもクールで口数が少ないジーナが珍しく感情を表に出している。彼女にも過去に同じ様な経験があったのだろうか。
「そうだな・・・そうだったな・・・」
弘也は学生時代の事を思い出した。マンションの隣の部屋の人が殺された事。懐いていた犬も一緒に殺された事。その時自分が何も出来なかった悔しい思い。どんな事があっても犯人を逮捕する刑事になろうと心に決めて入った警察学校。様々な記憶が一気に蘇る。気が付くと曇っていた顔がいつも捜査する時の精悍な顔に戻っていた。
「思い出したか?」
「あぁ。・・・しかしジーナ、今日はよく喋るんだな」
「お前を見ていてイライラした。それだけだ」
ジーナは手を差し出した。
「何だ?握手か?」
「違う、短刀を返せ。もう必要ないだろ」
ジーナが立ち去った後、日が昇り始めて空が薄白くなっていく。その空の光で輝き始める静かな川の流れを見ながら弘也は拳を強く握って唇を噛み締めた。
「こうなったら弔い合戦だ。徹底的にあぶり出してやる」
弘也はファロス総合病院に向かった。
やっと中編が終了です。ここから後編に進むのですが、まだ考えがまとまっていないのでしばらく空白期間を設けます。
エピソードがまとまったら順次公開していく予定ですので、是非ブックマークしてください。
よかったら、広告の下側にある「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にお願いします!
(ユーザー登録しないと☆☆☆☆☆は出現しないみたいです。)
評価してもらえるとモチベーションがUPし、今後の執筆の励みになります!




