彼女は高校生
メイ・インリンと名乗るその女子は僕について色々と聞いてきた。
住んでいる家、学校、趣味、よく行くところ……。
諜報員と名乗るだけあり、流石に記憶力は良く、ほとんど覚えていた。
「今まで潜入捜査はしてきたから、演じるのは得意な方よ。貴方の彼女を完璧に演じてみせるわ」
彼女は自信があるように言ったが、
「はぁ……」
と僕は答えるしかなかった。
「じゃあ、貴方はご両親と兄弟と住んでいるんだ」
「はい」
僕はビビっていた。いくら彼女が諜報員だからといって、人を刺すような人間と一緒にいるなんて。
しかし僕も死にたくないし……。
うーん、と考えていると、彼女は僕の方をジッと見ていた。
「何? 何か不満そうね」
僕はドキッとしたが、
「いや、別にっ」
「私に嘘は通じないわ」
「……」
「何? 言わないなら……」
彼女は赤みがかっていない刃物を服から取り出した。
(何枚持ってるんだ!?)
僕は思って怖じ気づいたが、
「……。こういう所だよ」
「あぁ。怖いのね。私が」
「……あぁ」
インリンは少し考えて、
「そうね。分かったわ。じゃあこれだけは約束して」
「何?」
「私の前では嘘をつかないで」
「……どんな内容でも?」
「どんな内容でも」
「……分かった」
「そ。ありがとう」
そう言ってインリンは僕の前から去って行った。
(これで助かった……)
と思っていたがその考えは浅はかだった。
次の日。
僕は前の日のことを忘れるように学校に自転車で登校した。
そしてその途中の線路下の道で、風によって髪をなびかせながら一人の少女が立っていた。
同じ高校の制服だった。
(誰だろう?)
と観ていると、インリンだった。
「はっ!? インリ……」
そしたら彼女はスッと僕に近づき、僕は手で口を押さえられた。
「制服の時はその名で呼んじゃダメよ」
「&@†★」
「学校の時は佐山リンと呼びなさい」
「なんで同じ制服なんだ!? まさか転校?」
「まさか。こんな早くに出来る訳ないじゃない」
「転校じゃないなら何?」
「生活圏がよく似ているなら分かるでしょ?」
「?」
「鈍いわね。同じ高校なのよ」
「!?? けど君のことなんて高校で知らないぞ!!」
「単位ほとんど取ってるから、登校量を減らしてるのよ。それに貴方は女子の興味ないでしょ?」
ぐうの音も出なかった。前の日は制服姿じゃなかったので分からなかったが、言われてみればそうだ。それにしてもその制服姿……
「どう? 似合ってる?」
とてもよく似合っていた。僕が東京の芸能プロダクションのマネージャーなら声をかけるレベルだ。モデルといえるほどプロポーションがよく、目はぱっちりで、鼻がスッと伸びている。スカートは膝上18cmくらいだろうか? ミニスカートだが、足は長いので股下には余裕がある。
そして単に似合ってると言うのは少ししゃくに障るので、
「とてもよく似合ってる」
と言うほかなかった。
「そ。ありがとう」
彼女はぶっきらぼうに言った。僕にとって益のない会話をした後、彼女は自転車が無かったので僕は自転車から降りて二人して歩いた。しかし、一番気になったのは、
(なんで同じ高校なんだ)
ということだった。
高校は偶々だろうが、どうしてこの街に来たのか?
確かに比較的都会だから便利かもしれないが、何故なのだろう?
それにどうして登校する気になったのか? それになぜスパイが日本の高校に登校しているのか?
謎だらけである。
「何か浮かない顔ね。どうしたの?」
「あっ、いや……なんでこの街にいるのかなと思って」
「それは……偶々よ。人が多い街だから。中国人も多いし。木を隠すには森の中ってところかしら」
何か他にも隠してそうな言い方だったが、一応の納得はした。
まだ僕は話したいことはあったが、彼女に聞きにくかったので、そのまま無言で学校に向かった。
そして学校に着き、
「そういえばどこのクラスなんだ?」
「2-3よ」
(文系の特進クラスか)
知らないはずだと僕は思った。僕は理系で、文系と理系では別の棟だった。
ましてや休みがちの女子なんて余計知るはずなかった。
そして下駄箱に行って、廊下を通り文理分かれる階段に差し掛かった。
「じゃあ私はこっちだから」
「あぁ……」
(これでしばらく離れられる)
僕は胸をなで下ろしたが、
「安心するのはまだ早いわよ」
と彼女は笑いながら言い残し、階段を登って行った。
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