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異世界調査隊 〜青年達の多種多様な冒険日記〜  作者: ディケー
第一章 冒険の備忘録
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第7話 虚偽

第七話 虚偽 



 周囲からは(やった!俺たちが倒した)(ざまあみろ)(死んで当然だろ)(チームワークの勝利だ!)



 先程まで逃げまわっていたのが嘘の様に自分達の行動を棚に上げ、はしゃぎ回る者たちが狂ったように歓声を上げ波紋する。



『やっぱりか』



 そんな中で智だけが、短く言葉を吐き、下を俯く。その頬には熱い涙が伝わり落ちる。



『これはあなたがやったの?あの瀕死の状態でどうやって?』



 槍の投擲をしくじる事を計算に入れ、ここまでの事を計算し実行した行動力に感心するというよりも実戦に慣れきった肝のデカさに巳波の背筋が凍り付く様な恐怖を感じる。



『最初からこうなる事は分かってた。あいつの正体不明の爆破攻撃の種はあいつの鱗粉が、かかった人に体内で生成した電気で感電させ、鱗の粉を粉塵爆発させ、吹き飛ばしていたんだ。生成できる電気は小さかったから、人が自然に帯電する静電気を利用してね。だから、相手に一番攻撃をして動き回る重装兵が真っ先に吹っ飛んだんだと思う』



『でも、それだと自分で電気を帯電して真っ先に爆発しちゃうんじゃないですか?』



 由香里のその考えは一瞬にして吹き飛ぶ。



『戦って分かったけど、鱗の下の皮膚はゴムの様な弾力質になっていた。それが絶縁体の役目を果たし、それでも帯電してしまった分は角から発散させていたんだろうね。煙幕自体はそれを分かりにくくするもの。俺もあいつを斬りつけるまでは分からなかったけど、前衛と後衛を倒すやり方にあまりにも差があったから分かったんだよね』



『そんなにしっかりと対策してたなら何で最後はあっけなく爆発したの?』

 

まるで、自分のことのように巳波が熱心に質問する。



『血だよ。血液には鉄分が含まれていて電気を流す。槍が刺さった状態で動けば、無数に開けた穴と中の中心の穴を通って出た大量の血液が出る。それが地面に流れ出て、身体と地面を結ぶ。体内が感電。俺が鼻先を攻撃した時に体に無数の溝を入れ、血液が滲み出す。そこに暴風で拾った鱗の粉を付着させて、体の中から爆発を起こしたって訳。なもしないで電気を流すのを辞めれば、こんな事にならなかったのにな』



 数百人が編隊を組み、挑み壊滅した魔物をほぼ単独で倒してしまったのだから胸を張って誇っていい。しかし、倒した当人の表情は疲弊しこれまでにないぐらい沈み切っていた。



『おい、お前はどっちなんだ。』



 鉄の杖を持ち、黒い簡素な魔導ローブに身を包み身体を震わせた茶髪の長身の男が後方から近づいてきて横槍を入れる。



『俺は....。俺たちは日本を侵略した魔物はこのダンジョンに巣食いこのままだとまた日本が侵略されると聞いて今回の作戦に参加し、魔法隊を率いた。その親玉である翼竜を倒せたのは今回戦闘に参加した全員の喜びである筈だ。なのに、何であんたはそんなに辛そうなんだよ。そいつの指揮が有能だって証明にもなったんだから、もっと喜べよ。それともあれか、俺たちの故郷を侵略しようとした奴らの仲間を手にかけ、情が湧いたのか?可哀想だと思っちまったのか?え?答えろ』



 焦り、焦燥、彼の表情からは様々な感情が読み取れる。魔法隊の隊長としての器だけはあって、前に出てきたのも思いやりからの行動であろう。



『君はさ、本当にこのダンジョンの生物達が日本を侵略しようとしている様に見えたの?』



『何が言いたいんだよ。そうやって聞いたじゃねーかよ。あんただって、ここにいる全員だって勇敢に戦って戦闘を離脱したやつだってよ。』



 今回こちら側に来た人に支給された装備品には脱出用の魔石が組み込まれており、一定のダメージを負ったり心拍が一定数を超えると安全なエルタネ国内の治療所に体だけが転移され、直ぐに治療が施される仕組みになっている。これにより、ダンジョン攻略初期は出なかったものの、今回の翼竜討伐で痛手を負った者と、攻略中盤で戦線を離脱した者はそこで然るべき処置を施されている筈だ。



『それを言ったのは誰だ?』



『何?』



 満身創痍の鉛のように重くなった身体を支えてくれていた二人の女性の手を振り解き、歩み寄ってきた魔法使いの胸倉を掴む。



『日本から転移してきた俺たちは最初から草原に集まっていた。その後、リーム王からこの世界のあらましや俺らの世界を侵略しようとしている魔物の残党がこの洞窟内のダンジョンにいると聞かされ、俺たちはその頭を潰した。だけど、それが真実なのかって聞いてるんだよ。自分の目で見ていない事を鵜呑みにしているのかお前は?仮にも隊を預かる者としての自覚はあるのかよ。』



『どういう事だよ。まるでリーム王が俺たちの事を騙しているみたいな言い方はよ。』



 さっきまでの威勢はもうなく、ただただ怯える。



しかし、困惑しているのは話を聞いて胸倉を掴まれているこの男だけでは無い。



『いいか、よく聞け。公国はな、俺たちの事を騙しているんだよ。』



 そう聞いて、一切合切の音が周りから消えていった。






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