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異世界調査隊 〜青年達の多種多様な冒険日記〜  作者: ディケー
第一章 冒険の備忘録
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第六話 LOSER

第6話 LOSER



 煙が立ち込め一寸先ですら見えない。風も止み、すぐそこに存在が感じられる程近くに互いが佇む。


『お前の中に流れる血も赤いんだな』



 視界に目が慣れ段々と像を捉えられるようになる。煙の中でいの一番に目に飛び込んできたのは宝石と見間違うほどの眩い光を放つ竜の紅い眼球であり、互いの息遣いでさえも感じられる距離であった。



『グルルル』



 喉を鳴らし、口元から滝のように血が流れ出す。最後の力を振り絞り角を発光させる。煙の中で見る僅かな光は幻想的で、まるで天国への道の標のようにも見えてしまう。



『お前は蜘蛛の巣の様に自分の体から戦闘中に流し、微弱な電気で相手を感電させる。この煙の中にはお前の体内で生成された火薬の様な発火物質が含まれていて、元々沢山動いていた重装兵の体内に溜まった静電気と合わせてピンポイントでの爆発物質を掛けて爆発を起こしていたんだろ?生憎俺はランキング外で、他の人みたいに立派な金属製のブーツは貰えなかった。木で編んだ靴は電気を通さないんだよ』



『グルルルグルルル〜』



 諭す声も虚しく響き渡り、喉を更に鳴らし、体から発する電気を煙の中でも分かるぐらい強める。しかし、それが身を結ぶことは無かった。



『直接俺に強い電気をぶつければ俺の爆発はできるけど、そしたらこの煙全体が爆発しちゃうんだろ?もう諦めな。これ以上俺は何もしない。他の奴らは知らないが俺は誰かが死ぬのを見たくないだけなんだ。命が惜しいなら何もしないでジッとしてろ』



 そう言って、踵を返し煙の幕を後にする。


『出てきたの?』



 巳波の言葉を聞くや否や由加里が走り出す。それに遅れを取らぬ様に巳波もぎこちなく走り出した。自分の失態のせいで命の危機に瀕し、死なせてしまったと錯覚さえもした人が帰ってきた愉悦は何者にも変え難い。 



 左腕を庇い脚を引きずるその姿は目にしたことない方疲弊しきっていた。1200人でこちらの世界に来たが、今回のダンジョン攻略には半数しか参加していない。



 肉体が蓄積された魔力によって強化されているとは言え、根は平和ボケした現代っ子。



 攻撃を正面から食らっただけで地べたを転げ回り、足から少し血が出ただけでベースキャップで擦り傷が完治するまで寝込むと言う状況なのだ。そんな奴らにとって、満身創痍で戦い抜いた者の姿は痛烈に映った。



 駆け寄っていく者たちとは対照的に一歩、また一歩とゆっくり足を前に進め、緊張の糸が切れた人形のように歩いてきた二人に身体を預け、項垂れる。



『ごめんなさい、...私、私、一発で仕留め切れなくて』



『私こそ煙を風邪魔法で払えば...』


 巳波と由香里の顔が涙で歪み、今にも目からは大粒の涙がこぼれてしまいそうなほどだ。



 嗚咽を上げ体を支えながらも泣き噦る。勇しく行動していた姿からは想像もつかないほど顔を歪めて、声を張る。



『元々、あの作戦で仕留める気はなかった。...そんなことよりもお守りでくれた髪の毛のチェーンこんなところで使っちゃってごめんな』



 今にも消え入りそうな掠れた声で由香里に言葉を綴る。



『良いんです。髪の毛ぐらいいくらでも伸びます。だから、謝らないで』



『じゃあ、早く俺を支えて後退してくれ、そろそろやばい』



 二人の体にしがみ付き、無理矢理にでも後退しようとする。あの煙の中で何があったのか、ランキング外のものがほとんど一人で何故ここまで戦えたのか知りたいことは沢山あったが、全てを飲み込み黒髪の短髪の青年に肩を貸した。



 しかし、



『一つ、聞いても良い?自分の中の魔力に命令を与えて使役できることは知ってるし、多くの人が攻撃系の魔力に命令を与えて反復練習をした上で戦う。でも、貴方達の戦い方は思いつきで命令を与えたり、挙げ句の果てには自分の本来扱えない魔力でさえも操っていた。一体どこでその技術を覚えたの?』



『それは、、今は、、』



『また、お得意のだんまり?一緒に戦った仲間だと思っていたのに、何なの?』



 唇を噛み、怒りで体を震わせ激怒しているのが伝わる。それが通ったのかは分からないが、人一倍秘密主義者が口を重く開く。



『直ぐにそれは分かるよ。もうじきね。でも今は俺と直接命のやり取りをした後ろの友を見守ろう。』



 一人につられて三人が後ろを振り向く。



 何の前触れもなく、その巨体を包み隠していた煙が音もなく青く爆発し、天井の穴へと吸い込まれるように火柱となった。


 その炎の中心では勢いよく何かが燃えているのが容易に分かる。先程まで、智としのぎを削っていたはずの翼竜が何の抵抗もする事なく、ただじっと焼かれているのだ。


 何故、そうなったかをきちんと理解しているのは智だけであろう。作戦に参加した、巳波や由加里でさえ、何が起こったのかを把握できておらずに口をポカンと開き、呆けているのだから、他の者は僅かばかりも何がおこったのかを理解できていない様子だった事は言わなくても分かるだろう。


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