第43話 驚き
第43話 驚き
「何でそんな事をしたの?新しい世界が作られた時、何で空間を司る監督者が魔力のない世界に生まれ変わったか分かった。略奪をする恐れがあるからじゃない。お前らが居ると世界が壊れるからだ。そもそもの原因はお前らじゃん。なのに何で私を助けたんだよ。世界を導くのが監督者なんだろ?なのに何で!」
服を掴み何度も情緒不安定に涙を流しながら慟哭する。兄を殺した元凶が、国を焼いた元凶が今目の前で喋っているのだ。平常心で居ろというほうが無理な話である。
「俺たちはね。全部の世界を救いたかったんだよ」
「世界を危機に晒してるって分からないの?全世界を救いたいならそんな奴ら、放って置いてよ」
そんな奴らが来なければノイドには侵略してくることもなかった。その上、ガルデも死なないで済んだはずだ。
「確かに、闇の民に空間を滑る力を渡さなければこんな悲劇は起こらなかった。だけど今回の悲劇が無かったら、全部の世界は完全に滅んでしまう」
「どう言う事?まるでそうなったのを見てきたかの様に言うけど」
「闇の魔力は世界が発展して光る程、闇の魔力が流れ込む。じゃないと光のエネルギーが多くなり、世界から夜がなくなってしまったり、闇に関する物は存在しにくくなるからね。だけど、闇の魔力を浴びすぎると魔力の耐性が低い者から狂っていく。どんどん自分の欲が優先され、世界を滅ぼしていく。ここまで言えば巳波は分かるよね?」
巳波の脳裏にははっきりと一つの光景が連想された。高層ビルが千切れ、砂漠と化した街に埋れ自分達がそれを安全な生活圏から見下す。生まれた時からそれが当たり前でついこの間まで疑問を感じていなかった。
「まさか、私達が住んでいた世界が。日本がその滅んでいく世界なの?」
「異世界からの物資で部分的に生き返ったけど後10年もしない内にノイドの人間はさらに狂って滅びる。それをかわきりに他の世界も滅び闇の世界も滅びる。互いに会談し、世界をどうするのか話し合わなければいけないんだよ。それに、こちらだけ生き残ることができたとしても闇の世界の住人に生きる楽しさを教えたい。だから干渉することを決めたんだ。一生、こちらの住民に負の感情を抱いたまま生きて行くなんてそんな虚しい事をさせたくない。そのためには俺たちが空間を行き来する魔力を渡して欲望のまま暴れるアイツらを倒すして落ち着かせてから話し合いの場を設けなきゃ」
「国内の紛争区域に物資を届けるボランティアとかを行っている時に何でそんな危険なボランティアをしているのか聞いたことがあったな。その時お前は何て俺たちに言ったか覚えているか?」
鋭い目つきの中坪が威圧を与え、答えを差し迫る。
「困っている人がいる限りそれを助けたい。って綺麗事を言ったね。そんなの無理だって嘲笑う?」
「俺たちはあまり頭が良くないからお前が何を考えているのか全ては分からない。だけど、そんなお前だからこそ付いて行こうと思っている奴も少なくない。だから、俺たちはどんな結果になったとしてもお前に付いて行く。大事なのは結果よりも過程だしな」
それに呼応する様にボランティアサークルの面々が頷いた。
「ありがとう。じゃあ、次は由加里に答えないといけないね。何故兄が殺されたのか」
由加里の方に目を向けるのだが、言葉が思い浮かばなかった。何度もそして、何年も騙し続けたせいか気が引けて仕方ない。本心を言えばできれば言いたくは無い。だが、理性では分かってる。騙して来たからこそ話さなきゃいけないと。
「由加里、これを聞いて気に入らなかったらマジで俺の首元をかっきりな」
カナが呟く。
火を見つめながら話を切り出した。
「ナジムとエルタネ公国に戻り、分かったことを7同盟に報告した。だけど当初は全く解決策がなかった。城で生活している内に闇の民の性質が理解されていった。しかもナジムは様々な属性物質を取込み、使役する事ができた。そこで一つの作戦が生まれた。闇の世界に行くためには空間の監督者の魔力が必要だが、光の世界の民では種族的に弱すぎて常時行き来する扉を固定する事はできない」
「じゃあ、一体どうやったの?魔力の受け渡しなんて術者が死ねじゃない」
巳波が責めるように話す。
「そう。だからそれを覚悟して主要な空間系監督者の全魔力をを俺たちよりも上位種であるナジムに渡すことにした」
体内の魔力を一気に消費すると何日も眠り続けたり、仮死状態になったり様々な症状を引き起こす。全てを失ったら、死んでしまう。
「それに、その状態でナジムを戻したらナジムから魔力を奪ってこっちの世界がそれこそ滅んじゃうんしゃないの?」
「巳波は不良品で正規品よりも上のパフォーマンスをする事ができる?扱いにくい魔力を渡してナジムだけが100パーセント空間の魔力を扱える様に細工をした。ガルデの提案でね」
「それが兄さんの死の真相に繋がっているなら、さっさと話して」
散々回り道をした挙句に勿体ぶるから静かな怒りも最高潮に達していた。
「7同盟の決定はこうだ。奴らが抱える怒りを逆手に取り、こちらがの世界に来させる。その上で、奴らを力で屈服させて、真実を伝える。ガルデは光の世界では依代がないと長時間存在できない奴らの為にその身を受け渡した。王位を妹に奪われた哀れな兄を演じて、ナジムの依代になったんだ。ナジムが必然的に空間の魔力を一番よく使える。何人闇の住民が来たとしてもナジムが主導権を握れて依代になりやすい憎しみを抱きやすい光の民であるガルデを推薦すればある程度は動きを抑制できる。後は、ガルデがなんらかの方法で俺に異変を知らせれば向こうの勢力と戦うことができる。由加里とメイド以外はこのことを知っていてこれに加担した。ガルデとはもうしばらく会っていなかったけど、これがうまくいったら伝言をしてくれと頼まれてる。聞く?」
壮大な計画に加え、緻密に考えられ由加里を騙す作戦はとてつもない年月を有するものであった。
「それを叶えるために10年ぶりに来た。私たちを助けたり、その場しのぎで色々言っていたのは闇の民の怒りを全て受け止めて話し合いの場につかせるため....」
巳波が誰にも聞こえないような大きさでボソリと呟いた。




