第42話 正義
第42話 正義
「そんなやつらがこっちの世界の全てを潰そうとしているのか。そいつらはどうやってこっちの世界に来たんだ?」
「中坪。付き合いが長いってのは怖いな。単刀直入に、言うと闇の民に空間を繋ぐ力を与えたのは俺たちだ」
「どう言う事なのか詳しい説明が欲しいな。絶対触れ合うことが無い世界を干渉させて沢山の人を殺した。その理由と責任について話して欲しいな」
膝の上に乗った可愛い子が首に手をねっとりと回し脚を自分の数倍はある胴体に絡ませて鼻が触れ合うぐらいに顔を近付ける。普通なら振り払うのだが、満更でも無いのかそれを受け入れる。
「ちょっと、カナちゃん、大胆過ぎ!」
その様子に巳波が驚く。
「おいおいおい、危険な男はモテるって聞くけど流石に危険すぎるよな」
秋宮が悔しさを顔に浮かべ羨ましがる。
田代は頬をピンク色に染め、様々な妄想を脳内で繰り広げているのか耳まで真っ赤になりピクピク動いていた。
「そんな単純な状況じゃ無いよ。俺、殺されようとしてるし」
「首の頸動脈は指の爪でも切れるんだよ。早く話さないと私に殺されるかもね」
今までとは質が違う小悪魔的な笑みを浮かべてサラリと衝撃的な言葉を吐く。しかも、指先には爪が白くなるほど強い力が込められていた。
「何をしているの?離れなさい」
由加里が大声を上げて立ち上がる。今直ぐにカナを引き離さなければ手遅れになりそうな感じがあったからだ。
「動かないで。これは保険で人質だよ。もしも、今から一歩でも動いたら智さんを殺しちゃうから」
「質問に答えて?保険で人質ってどう言うこと?」
「米宮ちゃんだっけ?少し考えてみて。ここで偉そうに語っている奴は法で捌けないだけで極悪非道人の可能性が高い。このまま何かをしでかさないとは限らないし、しかも、今後の話の展開によっては智君を独占した人が優位になる構図だってあり得ない訳じゃない。なんせ、彼の体には人知を超えた魔力も存在しているわけだしね。私はここにいるみんなが等しく大事。でも、人は力を持つとそれに溺れてしまう。だから、私は誰かこの中の少人数が有利になってしまうぐらいなら、智君を殺してでも公平を保つ。貴方達の小さな脳味噌でも少し考えれば分かるよね」
いつにないぐらい血気迫ったカナの表情に気後れし、反論出来るものは誰1人としていなかった。それどころか、カナの行動こそが一番対応としては正しい。
少なくともここには、由加里達のエルタネ公国勢力、ノイドから正式に派遣された巳波率いる勢力、そして智率いるボランティアサークル勢がいる。この中で一番実力が未知数なのはボランティアサークルの者達。戦闘慣れしている様を見るに、異界からの生活物資とは違う手法で人体に魔力を宿し、異界からの侵略以前に魔力での戦闘を経験していたのではないかとすら思える。
侵略の後に魔力の訓練を受けた人間がいくら束になっても彼らには勝てないですあろうと言う確信すらもあった。
全員が腰を下ろし、沈黙に包まれる。
「じゃあ、智君、自分の言葉と行動にはに気をつけて話して。さっき言ったことに抵触するような事があったら、問答無用で殺すから」
智が喋りやすいように頸動脈に指を這わせながら背中側に回り込む。さっきよりもガッチリとしがみつき、無理に引き剥がそうとするのであればそのまま殺してしまう危害すらも感じる。
「ふぅー。美女に囁かれるのは正直好きなんだけどそうも言ってられないな。続きを話そうか」
みんなに配ったコップと同じものを煽り、喉を鳴らす。よっぽどこの状況に緊張しているのか、さっきまで喋り継ぎ口が乾燥してしまったのかは分からないが、その場の緊張感は間違いなく高まった。
「エルタネ公国に帰るまでの間に俺たちは色々な事を知った。離宮の話に闇の住人が普段何をしているのか、そして、こちらの住人をどうしてやりたいかって言う願望もね。一言でいうと奴らには話し合う気なんて無い。凶暴化した魔物は何の意思も持たない自然に流れてきた闇の魔力に当てられただけだったんだが、奴ら自身はこちら側の民が生きる価値は無いと言っていた。日々、自身の物欲を満たすためだけに生活し、数百年やそこらで動かなくなってしまう生物に生きる価値は無いとね。そして、ナジムはもしも、闇の世界と光の世界の行き来が可能になったらこちら側の民を根絶やしにし、星を停止させると言った。人は食物連鎖のように魔力を世界に循環させるのに必要不可欠な存在だ。もしも、根絶やしにしたら世界は消滅し、最終的には闇の世界すらも認識できなくなり文字通り消滅する」
「あいつらは一体何なの?それじゃあまるで自分達が自分の首を絞めて自殺するような物じゃ無い。何が目的なの?」
「目的は由加里が言った通り世界の破壊だよ。だけど、2つの世界が2つで1つの機能をになってるって知らない」
「狂ってるだろ、そんなの。そんな奴らと戦って勝てるわけない。それに説得だってできないに決まってる」
秋宮が静かにポツリと呟く。口にするものは居ないが、それを否定するものは居なかったが、心の奥底では誰もが肯定していた。
「そう。その通りだ。だから7つの同盟国である7同盟はある事を決めた。闇の勢力にナジムを内通させてワザとこちらの世界に攻め込ませると言う事をね」
そこにいた全員が耳を疑った。




