第40話 肉体
第40話 肉体
「その身体大丈夫なの?」
育ちの良いお嬢さまとして育った巳波は吐き気を催したのか、手に口を当てて悲痛な叫びを捻り出す。
日本で生活していたら一生の中でも一回見ることがあるかないかの痕を目の当たりにして言葉はそれしか出てこない。
「体内で相反する魔力を混ぜたにしてはこれでも軽症なんだよ」
本人は笑顔で言うのだが、それを直視できる人はいない。一人を覗きみんな目を背けるのだがそう言うのに慣れているのか、好きなのかは不明だがそれに興味を示している人物がいた。
「意外と筋肉質だね。大胸筋触ってもいい?」
「好きなだけどうぞ。洞窟の中では初そうな感じだったのに、カナさんって意外と慣れてるんですね」
触ると言うよりはガッチリと揉み込む。掌で感触を誰よりも真剣な眼差しで感触を確かめる。
「慣れてないってのは少し違うかな?大勢の前では癒し系でいたいじゃん。だから、ああいう芝居をしたの。もう、服着ちゃっていいよ」
いそいそと着込む。気候は初夏の夜に近いのだが、とっくに御前様を迎え焚き火では凌げないほどに冷えて来ている。
「じゃあ、続きを話したいんだけどみんなそれどころじゃなさそうだな」
丸太の椅子に再び腰を掛け視線を戻すのだが、カナ以外の面々は俯き、今にも丹精込めて作った夕飯を吐き出しそうなのを必死に堪えていた。
「流石にこのままじゃ可哀想だよな」
鍋に木製の柄杓を突っ込み、底の方からゆっくりと持ち上げどろりとした半液体状の物をお馴染みの木製のコップに人数分入れ、足元に生えていた草をちぎって振り掛けた。
「ほら、気付け薬だ。飲んどけ」
「何だコレ?飲めるのか?」
中坪にコップを渡し、傾けるのだが全く溢れてしまいそうな気配が全くない。どちらかと言えばホットミルクというよりは温かいヨーグルトに近い。
「明日の朝ごはんにするつもりだったから、まだできてないんだけどね。気分転換って言うか口直しには丁度いい。まぁ、グビッと男らしく飲んでみろよ」
恐る恐る口に含む。カナが他の人にも同じ物を配りそれに続いて次々口に運んでいった。
「配ってくれてありがとう。...あれ?」
人数分のコップに中身を入れたのだが一つだけカナの手に握られていた。
辺りを見回し一人だけ受け取っていないのに気が付いた。
「私が渡して来ま...」
言い終わる前に半ば強引にコップを取りズボンのポケットから丁寧に織り込まれた薬包紙を取り出し、赤い小さな粉末を入れた。
(それは何?)
と、中身に口をつけた全員が思い今一度自分のコップ中を確認する。食べられる物であると信じてはいるものの、薬包紙に包まれていた辺りから連想するともしかしたら飲んではいけない類の物だったのかもしれない。その可能性が頭の中をよぎったのだ。
「田代さん、顔色悪いけど大丈夫?」
体力があまり無く花道や茶道を嗜み、あまり学校にも通えていなかったと聞いたのだから当たり前だと言えば当たり前の反応なんだろう。気遣えなかったこちらに非がある。
「すみません。こういう事に慣れてないと言いますか。正直...」
よく気持ち悪いと言われて来たのだが、改めてこういう反応を取られてしまうと内心傷付く。
「正直、肉体のバランスが理想的過ぎて眼福でそのニヤケちゃいます」
一同に新鮮すぎる衝撃が走る。大和撫子とまでわ言われている田代さん。ベースキャンプでは花を生け、食後のお茶の用意まで女子力高めで行なっていた。なので、まさかこんな残念な感じなの人だとは誰も予想していなかった。
「気持ち悪くて吐いているのかと思ったけど、中途半端な体を見て喜ぶ性癖があったなんて知らなかったよ。はいコレ、興奮が収まる様に飲んで。」
受け取り、コップの中に視線を落とすと小さな赤い花がいくつか浮いていた。
「綺麗」
「お麩で花を作って魔力で小さく保存しといた。花道を嗜んでるって聞いたから気分転換させるには丁度いいかと思ったんだけど、必要無かったね」
苦笑しながら花をスプーンですくい、口に含む。ほのかに酸味のある液体に甘味のある砂糖漬けの様なお麩の花が相まざりなんとも言えない味がして、幸せな気分になる。
「全員が少し、気分転換できたみたいだから続きを話すよ」
座り直しカナが定位置に収って、鍋をかき混ぜながら話を進めた。
「二つの世界に行き来する扉を作ったのが罪。理由は凶暴化した魔物の原因を探ったり不完全な世界をどうするかを決める為にね。その目的を達成する為の会談の場を作るために俺は扉を作った。だけど、予想していたよりも向こうの世界の魔力が強く、向こうの世界がこちらに滲み出てきた」
世界が滲み出るという事がどう言う事なのかはいまいちピンとこないしかし、智の言葉を遮るものはいない。
ただただ、集中して智からの言葉を心待ちにする。智がどう言う想いでいるのかが分かるのだから言葉の意味がよく分からずともそれを遮る者など居なかった。
真実を知るために必要なのは先ずは聞く事だと理解しているのだ。




