第37話 世界の観測
第37話 世界の観測
「これは世界観測儀。ここには今存在する様々な世界の情報が集まってくる。その世界に訪れる危機や新しい世界の出現もこれでならある程度予期したりすることができるよ」
「よくこんなものを作ったな。逆にこれを作って一体何をしたかったんだ?」
中坪の一言にハッとした者が何人かいた。確かに凄い物であるのは確かだったが、まるで正しい使用用途が思いつかない。
「鋭いね。これはね。人が、忘れてしまった異物を洗い出す為の物なんだ。」
「忘れてしまった異物ってどう言う事?」
由加里が息を荒くして訴えかける。
「エルタネ公国の軍事的な助力があり、キャラバンを細かく編成し、気が遠くなる様な時間の中で光の世界の全ての世界をこの観測儀に収めることに成功した。ポイント毎に魔力の支柱を打ち込んで違和感の裏付けをしたんだ」
「違和感??」
巳波が興味津々で聞いてくる。
「色々な世界を回る中で世界創世記の内容が違うことの他に新しい世界に訪れた時に奇妙な現象に立ち会った。顔は全く同じなのに中身の人間が別人になっていたし、住んでいた世界も違うって現象だよ。その人が元いた世界に戻ってその人の事を聞いても誰も覚えていない。家族ですらも最初から居なかったようになっていた」
「それが世界の意思かって呼ばれてるやつか。だけどそれとコレがどう結びつく?」
秋宮がポツリと呟いた。
「この観測儀で見るとそう言う人が出現するのは今まで無かった座標に新しい世界が現れた時で、ある力の流れが検出された。我々はその力の出現を予測し、封缶の魔術で封缶し監督者総出で解析をした。それは一種の魔力だったんだけど、時間を戻して空間を再現すると世界創世記以前のことが分かった。さっき俺が語った本当の世界創世記。つまりは、神の存在が万能の魔術師に書き換えられいた事実や、空間の監督者の本当の役割や魔物の正体、世界が不完全である事、闇の存在がね。それでこのことは空間の監督者、エルタネ公国では手に余る。今後の世界の行く末をどうするかって事を話し合う為に各属性の能力が濃い監督者を7つの世界の代表を制定し、世界を行き来する転移門を場所を決めて作った。その7つの属性の世界の代表に、自分と同系列の能力を持つ世界を纏めてもらい導いてもらう為にね」
「その後、どうなったの?そんなに前から色々な事が分かっていたのに、兄さんは死んだの?星の停止とか言って下らないことの為に?兄さんとも面識はあったんでしょ。なら、こうなる前に助けてよ。」
大粒の涙が頬を伝い、体が震える。拳を握りしめ、行き場のない怒りがひしひしと伝わってきた。
「エルタネ公国には親密に繋がっている同盟国がいくつもあって、魔力を遮断する事に長けている国家も存在します。元々、他の国と協力していれば兄は死ななくて済んだんじゃないの?ねぇ、答えてよ。なんで兄を見殺しにしたの?」
立ち上がり感情を露わにする。母を幼少期に亡くし、先代の王である父親をなくしている身としては唯一の肉親であった兄をどんなに助けたかったのか容易に想像がつく。
「由加里の兄のガルデを殺したのは俺みたいなものだね。試しに、俺の事を殺してみる?」
何処からともなく取り出した小型ナイフを由加里前に放り投げる。空中でナイフが舞い、ゆかりの手に渡る。
手早く持ち替えて智の喉笛目掛けてナイフを滑らせる。それに気が付いた能田が羽交い締めにし、他のものも立ち上がり由加里の殺害行動を止めた...かの様に見えたのだが、そこから更に手首のスナップを利かせてナイフを投げる。焚き火に鮮明に照らされながら真っ直ぐ進んでいった。
飛弓隊の田代は自身を呪った。戦闘中に使っていた大弓はないとしても魔力でナイフの軌道を変えられれば致命傷は防げる。
だが、遠くの安全な場所に長い事いたせいかこの出来事に全く対応できない。
由加里の背後にいた巳波がナイフに気が付いた。魔力を水に変換し、ナイフの軌道を追わせるだが圧倒的にナイフのスピードが速い。
だが、一つ。その場にいた全員が理解できないことがある。ナイフは智の正面から一直線に飛んできている。避けるなり手に握られているマシュマロが刺さっていた棒で回避行動を取るのは容易い。
しかし、避けようとしないどころか頭を上げ喉元に突き刺さりやすくしたのだ。まるで自分の罪を受け入れるかの様に。
その様子に一番驚いたのは由加里だった事は言うまでも無い。
「どうしたの?俺を殺さなくていいの?」
ナイフが智の喉元寸前で不自然に止まる。柄の部分には目視できるほど濃度高い緑色の風が巻き付いて空中でナイフを静止させていた。
ナイフを空中に固定したのは由加里だが、それを止めたのも由加里であった。
智を殺してやりたいのか?それとも、殺したく無いのか同じ焚き火を囲んでいるからこそ由加里の葛藤が真摯に伝わってくる。
智を殺したい気持ちもあるだろうがそれ以上に智からの恩を感じていることも明白なのだ。




