第35話 空間監督者
第35話 空間監督者
「智さんがこの騒動の裏で糸を引いていたのか、それとも訓練をサボって女性達と合コンをしている文字通りのクソ野郎なのかお聞かせください」
調査隊を筆頭としたメンバーは洞窟から完全撤退し、平原のベースキャンプに戻って来ていた。
全員黒い半袖のシャツに下は黒いジャージのラフな格好をしている。
ベースキャンプとは言え三角形の1人用にしては大きい白いテントが幾つも生えていた。
辺りには夜の帷が落ち、夜になっていたが夕飯を食べようとする者はいない。全員疲弊しきっているのかテントで寝ていた。
焚き火の根本を弄る智に巳波が声をかける。その顔は酷く俯き、何かを熱心に思い耽っていた。
洞窟から負傷者を運び出し、ベースキャンプで腰を下ろし、テントで治療を施す。
その中心では焚き火を囲んだ智、巳波、由加里、秋宮、中坪、川瀬、岡本、米宮、それに傷を癒した重装兵隊長であるラガーマンの様な体格を持つ黒髪の男の能田、それとは対照的な弓兵隊体調の華奢な桜髪の女の田代の十人が腰を下ろす。
品辺は相変わらず魔力を使いすぎたことによる魔力酔いでダウンしテントの中でダウンしている。それを後翅が開放しているのだが、良くなる気配は無い。
「代表のみんなが集まっているのにお前は良いのか?」
横になり、リュックを枕にしながら虚な目で声をかける。元々白い顔であったがそれとは比べ物にならないほど生気が失われていた。
「真実って言うのはそこにあるようで何も無い。それを知ることに意味があるんじゃな無くてその後何をするかが大切なんだ。俺は何があったとしても智についていく。だから、それまでの過程は特に意味が無いんだよね」
銀色の髪の望遠鏡を持っていた男がテントの入り口の布を少し開き焚き火を見守る。
「さぁ、問題です。世界創世記には続きがあります。どんな内容でしょうか?由加里は分かるかな?」
「二人の神と監督者の話。まだ二人の神がどうなったのかと、なぜ世界に固定され続ける監督者がいるかの話でしょ」
目が赤く腫れ上がってはいたが表情はスッキリとしていた。
「その通り、正解したご褒美として三つこれをあげよう」
炙っていた棒に刺したマシュマロを由加里に3つ手渡した。他の人にも二つマシュマロを渡す。場の雰囲気は張り詰めてはいるものの、見た目は完全にシュールであった。
「創世記ではあの後に続きがある。極大魔法をもう一度使って今の世界を作った。その後は世界の意思で調整された弟子を生まれ変わらせて主要な世界に一つの属性を配置してそれに沿った世界ができた。でも、空間を司る監督者はどうなったと思う?」
「幽閉した。空間を司るなら他の世界に侵入して簡単に物資の略奪ができる」
「相変わらず巳波司令官はキレるね。まさにその通り」
「監督者は世界の安定の為の抑止力で自分の世界の人を導く以外にできたばかりの世界で強すぎる魔物が出た場合、世界を跨ぎ討伐しなければいけない」
ゆっくりと智が話し出す。
「でも、空間を司る能力は便利過ぎる。時間を司る能力では技術の発展を進める事ができるんだけど空間系能力は簡単に人を殺したり世界の反対側まで移動する事ができる。そんな能力があったら技術が発展しない。だから、初代ノイドの監督者たちは魔物が全く出ない世界で代わりに監督者から力を全て奪って記憶まで消した。他の監督者は最低限の魔力とそれを使う魔力を民に与えたけど、それが他との一番の違いだね」
「発展を捨て、生かすことに集中した訳か....」
目を少し細め、感慨深い表情で話す。
「秋宮の言う通り、新しい世界ができる時に一つの世界から優秀な人間が新たな世界に記憶を調整された上で違う世界に飛ばされる。だけど魔力がない俺たちはそれに選ばれないからずっと一つの世界に隔離されて、まぁまぁ大きな家系を築きいた」
「その後、魔力に目覚めたものは監督者に教育され監督者が代替わりしていった。だけど、一つの問題が起こった。」
「問題?」
「ある時監督者はみんな他の世界で魔物と戦ってみんか死んでノイドから完全に消えた時期がある」
「何が悪いの?」
巳波が、魔力がない普通の世界になり、何も起こってないだろうと首を捻る。
「その後魔力に目覚めた人は魔力と一緒に自分達の役割は空間の魔力を使って色々な世界を守る事って認識が自然と植え付けられた。だけど、他の世界で生まれた強い魔物を倒せなった。それだけでなく世界を繋ぐチカラが何百年も無くなり世界は自分達の所しかないと他の存在を忘れていった」
「他の存在を忘れてしまうとどうなるの?」
「監督者は同じ属性の世界の運営を空間の監督者の魔力を借りて行わなければいけない。なのに、世界を渡ることを忘れてしまったら....」
「他の世界が運営できない....」
「そう言うこと。ノイドの民は魔力がないから数として世界を増殖させる魔法からは認識されない。空間の魔力を持った世界は1つだけど、他の世界は葡萄の房のようになってる」
「監督者が来なくなった世界はどうなったの?」
「著しく生活レベルが下がった。強い魔物に押し負けてしまう感じ」
「それでどうなったの?」
巳波が食い気味に質問をする。
「ノイドの人が命の危機に瀕した時に魔力に目覚め、初代監督者の魔法が作用して他の世界があると言う知識と他の監督者に力を貸さなきゃいけないことを思い出して、異世界に渡って監督者を探したよ」
「探すって、そんな簡単に?」
「いや、滅茶苦茶難しい。無限に広がるような世界で何の手掛かりも無いんだから。運良くエルタネに....。光の監督者と会えたのは行幸だったよ。そのあと数100年掛けて他の属性の監督者を見つけた」
「それで、監督者は元の役割を取り戻していった訳か....」
秋宮が感慨深く呟いた。




