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異世界調査隊 〜青年達の多種多様な冒険日記〜  作者: ディケー
第一章 冒険の備忘録
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第34話 嘘と対立

第34話 嘘と対立


 由加里に物心が付いた頃、城の中でよく迷うことがあった。気付かない内にいつも同じ部屋に辿り着く。



 一見物置のような雰囲気を漂わせる小さな木製の部屋。大理石でできた他の部屋の扉と比べてしまえば簡素なものであったが、一回だけその扉を開いたことがある。



 中にはベットやタンス、生活するのに最低限の物があるのと、中央部では誰かが何かを作っていた。毎回声をかけようとするのだが、その前に城の誰かに見つかってしまう。



 メイドに見つかる事は無かったが、兄の近衛兵に見つかると大目玉を喰らっていた。異界の研究に没頭してからはすっかりその扉のことなど忘れていたのだが、一回だけ目があった事がある。その時の笑顔と全く一緒のものがそこにあった。



『やっぱりエーデルさんが一枚噛んでいたか。久しぶりに再開できて嬉しくはあるんだけど、お姫様には真実を伝えても良かったんじゃないですか?』



『ひゃっひゃっひゃっひゃ。智様、思ったことを直ぐに口にしてしまう姫様に語ったら全てが水の泡と化します。まぁ、もう少し機が満ちてから登場する手筈だったのに、一体どこでお気づきになりましたか?』



 顎の真っ白な髭を手で軽く整えながら話を進める。痩せこけた頬は骸骨を連想させていたのだが、喋り方はひょうきんでどちらかと言うと売れない大道芸人を彷彿とさせた。



『貴方達の人形の操作は完璧だった。遠く離れた所から魔力を飛ばして操っていたにしては動きも人間そのものでした。まるでエルタネ公国が闇の民に屈したのかと錯覚できる程にね。強いて言うのであれば俺にベースキャンプ話すぎた事ですかね。』



『相変わらず世辞がうまい。人形が生身の人間を超える事はありません。そこには人形技師としての遊びが人で言う個性として反映されているだけですからな。しかし、年端もいかない若造たちを騙す自信はありましたがね。その点を詳しくお聞かせ願いたい』



 最初は柔らかい物腰だったのだが、最後の方は荒々しく人形技師としてのプライドが際立っている。



『ベースキャンプで、我々は先代から王に仕えている近衛兵の方々にあらゆる魔術を教わりました。しかし、その過程で近衛兵のみなさんは姫に危険な立ち回りをさせないように落ちこぼれの烙印を押した。姫よりも俺の方ができなかったにも関わらずね。そして、誰よりも姫の事を見てきた近衛兵が少し髪型が変わっただけで姫だと分からなくなるはずも無い。もしも、完全に闇の支配下に置かれてしまっているなら、戻って来た姫を殺すでしょ?」



『フッ。全ては姫様を思う忠誠心から出た錆ですな』



 全てに合点がいったかのように息を吐き笑う。長い仕事が終わった安堵が押し寄せてくる。



『ねぇ、まって何で二人はそんなに親しそうなの。兄さんの家臣さん達のことも知っているし、智さんは一体何者?』



『簡単ですよシュリエ姫。智さん、リーム王、先代のガルデ王、そしてナジムと呼ばれた先ほどまてリーム王を操っていた青年は10年前に面識があり私たちの城を頻繁に出入りしていたんですよ』


 言葉の意味を理解できずに耳を疑う。言葉自体はたわいないのだが理解が追いつかない。



『おやおや。勝手にばらさないでくださいよー。この中では由加里に手を貸した偶然、都合よくいた空間の監督者なんですから』



 洞窟の内部では疑惑の目が智に向けられる。



『一先ず目標は達成しましたしね。お体のことも含めてお話しした方が宜しいのでは?』



『んー。でも、こんな一触即発になるような状況でそれ言います?翼竜に怪我を負わされ、危なく敵の駒にされそうになった人から見れば俺を殺したくなってしまうでしょうに。地下にいるかもしれない可能性を考えて地面にダメージがいかないように保護までしたのにそれの仕打ちがコレか。それよりも先に復興をしちゃいたいんだけどな』



 言葉の通り数名のものが武器を手に取り剥き出しの殺気を智に向ける。歯を噛み締め、目を血走らす者も少なくない。



『智答えろ。お前はイレギュラーとしてこちらの世界に来た。それはまだしも訓練に全く協力せず、裏ではお前が奴らを手引きしていたんじゃないのか?』 



 秋宮が最初に叫び天蓋から降りてきた数十名のものが口々に叫ぶ。緊急脱出用の魔法で離脱したとは言え、一歩間違えれば死んでいた。あんな思わせぶりなセリフを聞いた後では当たり前の反応であろう。一緒に戦ったものですら不信感が拭えない。そう思われても仕方ないほどの奇行が目立っていたのだ。



 正体を隠していたなら訓練に参加しなかったのは説明がつく。しかし、度々数日消えたりしたりしていた事には説明がつかない。



『待ちなさい!!』



 一人の激怒した女性の張り裂けんばかりの声が響き渡る。由加里でも、巳波でもない。智が出現させた女性。エルタネ公国にメイドとして仕えていたシルヴィだった。



『一度でも食事を共にし、戦った人を疑うとは何事ですか?彼がベースキャンプを抜け出ていた理由であれば私がお答えできます』



 今までに見た事ないぐらい顔は怒りで歪み、肩は呼吸と共に震える。先程までの優しい顔からは全く想像できない。誰もが耳を傾け、あたりが静まり返る。



『智さんは、私たちに声をかけながらおいしい食事を奢ってくれたんです』



 その言葉を聞いた途端先程とは別の意味で静まり返る。普段から訓練にも参加しないで時々顔に似合わない様な思わせぶりなセリフを吐く事が多々あつわた事から非モテの男のからは一つの結論が導き出された。



『貴様!合コンか!!』



 容姿は決して悪くない秋宮が俯きながらボソッと呟いた。ライターの蓋をカチカチ言わせ、智に近づき噴射口を向ける。



『俺らが真面目に訓練受けてる時お前は持ち前の料理スキルでメイドさんとイチャコラ乳こねくり合ってたんだろ!』



 秋宮が全てを代弁した。言ってしまったら自分がモテない人だと言っている様なセリフをプライドを捨て言った。ある意味では称賛されるべき言動なのだが、その勇者的行動は否定される事になる。



『あながち間違いじゃない。それに、俺にはな訓練よりも優先する事がそれだったんだよ』



 少しだけシリアスな雰囲気に戻そうと善処するのだが、秋宮の一言で空気はたるみきっていた。



『あ、えっと違うんです。智さんは栄養失調になりかけていた私達をわざわざ探し出して、戦闘訓練と美味しいサバイバル食事のノウハウを教えて下さったんです』



『嘘はやめろ!そもそも、魔力に慣れている貴方達の戦闘訓練はそんなかからないでしょうし、料理なんてレシピを書いて渡せば一瞬でしょ。本当は、お酒とかで楽しんでいたんでしょ。そもそも、メイドの貴方達が戦う必要なんてないでしょ』



『それは異世界から来た調査隊の皆さんのためなんです。栄養の偏っている食事をなんとかしようと、私達が知っている果物とかを採取して皆さんのために調理して料理を出していたんですよ?』



 そう言って頬を赤らめ、口火を指で触る。さっきまでのクールさは無く、デレッととろけた表情をしていた。



『智、お前はいい奴だ。俺たちの体調がお前の料理で良くなった気もする。そんなやつが俺たちの敵の訳ないな。魔法隊隊長として保証する』



『うん。それは嬉しいんだけどシルヴィのとろけた表情で敵意を晴らすなよ? さっきまでのシリアス展開はどこに行った?』



『でも、やっぱり私達も女ですからね。久しぶりの男の人に会えて愉悦は感じましたよ。』



『お前は敵だー!』



 洞窟の中で幾重にも声が響き渡る。




 自分自身の感情にうまく整理が付かない秋宮であった。

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