第33話 復興と偽善
第三十三話 復興と偽善
全てが終わった洞窟には静けさが訪れる。綿密な時間は流れ去ったのだがみんな口が重い。様々な思惑が交差し、思うように言葉にできない。
「天蓋の淵にいる人も降りてきて。負傷した人を外のベースキャンプまで運び出すから手伝って欲しい」
智が呼びかける。それからロープが何本も垂らされ、数百人の人が降りてくる。異世界調査隊として異界に派遣されたものが殆どなのだが、司祭の手によって幾つもの動物や魔物が合成された魔獣が時々降りてきて辺りを騒然とさせる。
少なからず雰囲気がピリき、武器に手を掛けた物も少なくは無い。
「大丈夫ですよ。今降りてきている魔獣は何も悪いことをしていません。俺の能力で見たから間違いありません」
今までは大して目立っていなかった銀色の髪の毛を持つ痩せこけた青年がゆっくりと喋りだし、ポケットの中から小さな望遠鏡を取り出して覗き込んだ。
「何でそんな事分かるんですか?貴方と出会ってから悪さをしていないだけでもしかしたら過去に大量虐殺を行なっているかも」
満身創痍の秋宮がそう呟く。
「確かに我々はあの黒いローブを着たお爺ちゃんの実験施設を叩いて多くの魔獣も解放させました。でも、そこにいたのは失敗作。魔獣になった事を怨んでいた魔獣達だったんです」
望遠鏡を渡し、メイドも覗き込む。ウサギのような身体に膨らみを持つ簡素な布のワンピースを着た子に焦点を合わせる。するとそこには平原で野を駆け回る魔物の姿が映り込む。
「キャ、可愛い」
草原に自生している草をハムハムしている姿は愛くるしさが溢れる。母性愛が擽られているのは表情を見るに確かであった。
「俺は時間を操る魔力に適合して、対象の過去を見ることができるんです。それで友好的になれそうな魔獣を連れてきたんですよ」
「へぇー、そうなんです...か」
ふと、一つの考えがよぎる。おそらく、この能力では対象を変更すれば誰であったとしてもこんな風に過去を見る事ができる。つまり、私自身も見られない事はない。それに気付いた瞬間、背筋が凍りついた。
この人は色々と危険な人かもしれない。そんな時に声をかけられた。
「どうかしたんですか?」
甲高く、可愛らしい声。大きな瞳に小さな鼻。カジュアルな帽子を被り耳をピクピクさせる。一見すると可愛らしい女の子なんだが、びっくりする。その子が魔獣だったから。
「ん?お手隙だったら、負傷された方を運ぶのを手伝って下さいね」
「は...い」
下手したら私よりも可愛らしい女の子。人間でないにしても美しい者には目を奪われた。望遠鏡を返し、放心状態で運ぶのを手伝う。さっきの考えは一瞬にして吹っ飛んでいた。
「さて、これからどうするのかな?」
望遠鏡をしまいながらポケットからジャーキーを齧り付きながら二人の人を見守る。
翼竜と戦った後残骸は自壊し、灰になった。それを智がかき集めているのだが、棒倒しに使うぐらいの山が今盛りとできていた。そこに、歩み寄る影が一人。戦闘でボロボロになった服に身を包んだ女王が。
「ねぇ?これからどうすれば良い?私は兄を説得する為にこの世界に戻ってきた。でも、兄は死んでいた。手合わせした時には分かっていたけど兄さんから凄い凄い腐乱臭がした。本当はアイツの能力は人を支配する能力なんじゃない。死体を操る能力だったんでしょ。いくら倒すことはできても救うことはできない。もう、私はどうすれば良いの?」
緊張の糸が切れたせいか膝から崩れ落ちフエンフエン泣き出す。手で溢れ出る涙を拭うのだが、地面に水溜りを作る。
「由加里はどうしたい?俺的にはさ、闇の世界と光の世界で話をさせる為に一族の掟を破ってまた異界にきた。由加里はどうしたかったの?」
「私は、国を平和な国をまた作りたい。でも、もう人は翼竜に焼かれて」
嗚咽を堪えようとするのがいけないのか余計に酷くなる。
「おかしいとは思わない?」
「何が?」
顔を上げ、智の顔を見る。
「エルタネ公国から由加里が追われて逃げる。その後直ぐに翼竜に国が焼かれる。その間にメイド達は国を追われ、生き延びた。しかし、それが迅速すぎる。まだ情報統制が取れていてスマホとかが有れば簡単にメイド達を指名手配する事ができる。だけど、エルタネ公国は街の中心に置かれている王領、貴族領、平民領に分かれていて中心からの情報は国内に中々浸透しない。そんな国で直ぐに指名手配を確立する事ができるかな?」
「どういう事?」
「明らかにシルヴィさん達を国外に手引きした者がいる。それを裏付ける証拠が王の側近にある。米宮ちゃん、悪いんだけど側近の腕を引き抜いて見てくれない?」
無言で側近の死骸に近づき、腕を引き抜く。死んだかのように眠っていたのだがそれもその筈。引き抜かれた腕からはしばらくの間血が迸っていたのだが、暫くするともいだ腕が木製の人形の手に変化した。
「腕が人形になりましたよー」
捥がれた腕が宙を待って智の元に届く。さっきまでは肉がへばり付き生者そのものだったのだが今は見る影すらない。
「どう言う事?」
「エルタネ公国には先代の王の時代、町中に郵便屋という王領から執行される法や情報を街に流す人達がいた。見た目は人そのものだが実際はこんな風によく出来た人形。この人形は術者が考えた事を瞬時に共有して行動することができる。その制度はある時無くなったがシルヴィ達が指名手配されていたのにも関わらず城の助力を得て逃走できたのはシルヴィ達を指名手配する事によって城の外に逃すと言うシナリオがあったから」
「一体誰がそんなことを?」
「この国でそれができるのは一人しかいない。先代の王に仕えた人形技術、エーデル・ベルグ。今も近くにいるんでしょ?出てきなよ」
二人のすぐ近くの地面が盛り上がり白黒の髪の毛を持つ左腕の無い隻腕の老人がのっそりと出てきた。
「お久しぶりでございます智様」
執事という言葉に似合う服装で丁寧にお辞儀をして、にっこりと笑う姿はとても印象的であった。




