第32話 事後
第32話 事後
洞窟の中では様々思いが渦巻いていた。国の上層部の口車に乗り、異世界に来た者。国を追われて戻ってきた者。人 人類を滅ぼそうとしている者。そのどれでもない男に連れられてきた人。様々な思惑が交差する。
『それで?サークル長、ここに来た理由を教えてくれない?』
映像が流れ終わった後、啜り泣く音が響き、余韻に浸っていたのだが、いつも通りのテンションで言葉を綴る。
『米宮ちゃんはどんな時も通常運転だね。結構俺の話に衝撃を受けている人も少なくないと思うけどな』
『だからこそ、私が聞く必要があるんでしょ?』
蛇の様に鋭く睨み訴える。早く話せと。
「俺の目的は話し合う事だ。ここには光の住人と闇の住人の二種類がいる。光の住民が生活しようとも闇の住人は反感を買い、闇の住人が光の住民を永遠に闇に迷わない様にしても元々の原因は闇にある。しかも、互いは支え合わなければいけない。両方の世界がどうなるのかを話し合っていく必要がある。その為に俺は10年前から暗躍してた」
その瞬間、洞窟の奥から人の足の間をスルリと移動し、影の様に黒い人をゆうに飲み込めそうな蛇が智に襲いかかる。すぐさま刀で応戦し、大きく開いた口の顎を斬り付けたのだがまるで手応えがない。それどころか、刀の影が地面から飛び出し、頬を掠めて飛んで行った。
蛇は司祭を足から食べ、口から頭が出っ張ったなんとも言えないシュールな状態になる。
『何だ?どこからこいつは来た?』
中坪が叫ぶ。鼠すら通る隙間は無かったのにもかかわらずその蛇は出現し、司祭すらも攫った。
『話し合い。それができれば素敵な事だけど、私たちは手を汚し過ぎた』
天蓋から差し込む光の中腹部に彼女は居た。真紅に輝くショートの髪の毛に、水着すらも凌駕する程面積の小さな黒い軽装。流石に局部は隠れていたが、背中や腹部は大きく開けられ豊満な胸に至っては今にも溢れ落ちそうである。
『新手だ。援護行動に移れ』
川瀬が叫び天蓋の淵から様々な遠距離魔法やロングレッジの矢が放たれる。空中に止まる痴女が指を一回鳴らすと先程シルヴィ達が出現した時に現れた様な穴が無数に出現し、そこに吸い込まれていった。
『返すねこれ』
もう一度、指を慣らすと洞窟の内部で様々な種類の魔法や矢が炸裂する。先程消えていった魔法や矢だった。
これらの攻撃は人に当たるとまた方向を変えいつまでも敵を追い詰める。
各々回避行動を取るが中には致命傷を負った者も少なくない。
『怪我をしたものは我々が治療します。後方まで連れてきて下さい』
シルヴィ率いるメイドさん部隊が率先して治療を行い、中坪や川瀬が攻撃の軌道を変える。品辺に対する扱いは雑なものであり、岡本と米宮が胸倉を掴んでメイド部隊の方へ放り投げていた。
遂には浮いていた女も洞窟の内部。司祭の真横に降り立った。その表情には鉄仮面の様に何も写っていないで不気味な無機物さしかなかった。
「空間の能力をそんな短期間でここまで使いこなせているなんて驚いたな」
「貴方は良いの?仲間が傷付いているのに助けに行かないで」
表情をぴくりとも動かさないで腹の探り合いをする。先程まで隙間がない様に組まれていた陣形は跡形もないほど瓦解し、周りには誰もいない。
「でも、俺は真面目に訓練しないで国を追われたシルヴィたちを探してナンパして嫌われていたから、正直君みたいな可愛い子の為に刀を振るうのもありだと思う」
パチンと指を鳴らし司祭の口を元に戻す。先程まで涙を流していたのが嘘の様に歓喜に沸く。
『嘘付き。あなたの言葉には感情が無い。私の顔と一緒。ただどうでもいいだけなんでしょ?』
『半分は正解。俺はね。正直二つの世界がどうなろうともどちらでもいい。ただ、この悲劇の終幕を見届けたいんだよね」
クスリと表情に火が灯る。小さな手で智の胸に触れ。
「それも嘘でしょ。貴方の目は何かしらのやる気に満ちている野心家の目。こんな所じゃ測れない。だから、最後に私に教えて死ぬ前に何を考えているのか」
頭上には先程吸収した矢が出現する。半分は空間の中に収納されているがすぐさま打てる体勢だ。
「そうだね。じゃあ、最後に。俺は物を壊さないように洞窟内の保護を行った。物質に掛かる時間を止め洞窟内部がぐちゃぐちゃになるのを防いだ。さぁ?これは何故かな?後胸でかいね」
胸を揉み、智の体が後方に引っ張られる。植物で編まれた靴からみるのも困難な程細い繊維が縄のように紡がれており由加里とカナを筆頭に多くの人メイドが引っ張り上げる。
後ろに引きづられていく時に智は大声で叫んだ。
「秋宮、いつまで寝てるんだ?お前の根性見せてみろ。」
先程までぴくりとも動かなかった秋宮が体勢を起こし、先程のライターを地面に押しつけ、火を点火する。巳波が敷いた水に可燃性があったのか、葉っぱに走る毛脈の様に幾つにも枝わかれし、洞窟の内部を照らす。
「本当は、魔獣を倒してお前より目立つ算段だったんだけどな」
秋宮の足元に水玉状の赤い模様が浮き上がる。そこから宙を浮く攻撃に反応し、魔法や矢に向かって細い火の閃光を放つ。レーザーの様な効果を発揮し、次々と撃ち落としていった。
次第に洞窟で飛び交う攻撃は少なくなりしまいには司祭と空間の力を操る女の足元に火の粉が集まる。曼珠沙華のように一本一本が芽吹いたと思った次の瞬間。
「死ねやクソども!」
秋宮がポツリと呟きジッポに火をつけると紅い豪炎が二人を包み込む。
離れていても空気がビリビリと震え、喉が焼ける。人が中にいたらひとたまりもないであろう。
空中に放り投げられた智を引っ張り上げた者達でキャッチされたのだが、その後は地面に落とされた。
炎が落ち着きそこには人の影は残っていなかった。代わりに、黒い裂け目がそこにあった。
『私達は闇。光の世界では長い間生きられないし、私達はどんな手段を使っても全ての世界の星の停止を行う。世界の寿命を作っているのが私達だとしても、永遠に闇に迷う人は放って置けない。光の民は私達とは分かり合えない』
亀裂から先程の女の子の声が聞こえる。どことなく無機質さに溢れ、悲痛な叫びが。
「確かにお前らはこっちの世界を破壊しようとしている。だけど、俺らは互いに極大魔法の被害者だ。分かり合える。それに、お前たちがどんなにコッチの世界を破壊したとしても、俺が治す。だから、いつか人間の考えが纏ったらお茶会でもしよう」
「じゃあ、気長に待ってる。でも一つ、私からの忠告。自分の身体の事を話さないと新たな確執を生んじゃうよ」
少しだけ、慈愛に満ちた返答が返ってきて裂け目は完全に閉じていった。




