第31話 勇気
第31話 勇気
『この楔に魔力を流すと記憶されている物が投影される。本当はドッグタグのように亡くなった味方を遺族の元に届け、最後の瞬間を見せるものだが、こういった使い方も偶にはいいかな。あ、ミスト、消しちゃって〜!』
青白い光で映像が映し出される。一つの大きな球。半分が真っ黒に染まっていて半分は白く染まっている。それを宙に浮かんで杖を持ち傍観している男女がいた。
『これは一体なんなの?』
『原初の魔力。すべての人や物はここから生まれたんだ。因みに、男の人で白い服を着ているのがラメ、妖艶で黒い服を着ているのパテントって言って、神様だよ。』
手招きをし、巳波を近くに寄らせる。足元には司祭が転がっていていたが完全に無力化されていたので見向きもしない。空いている方の手で智は自分の服を少しちぎり、一枚の大きな布にして、巳波に優しく羽織らせる。
『今の巳波の格好は投影している映像よりも幾分か刺激的だから、羽織っていて』
改めて、自分の格好に気が付き、羽織りの中に目を向ける。胸部の辺りには鎧が大きく損傷した跡があり地肌が大きく覗いていた。耳まで真っ赤にして悶えるその姿には見応えがあった。
見応えを伝える前に智の右の頬に鈍痛が走っていたが、今は色々な意味でそれどころでは無かった。
『じゃあ、気を取り直してみるよ。二人は何もない空間に魔力によって作られた存在だった。この時の原初の魔力には意識が宿っていて話し相手を作った。暫くは原初の魔力とたわいの無い話をして会話が絶えなかったんだけど、1000年が過ぎたある時、何も話すことがなくなってしまったんだ。そこで、原初の魔力はラメには希望の魔力を託し、パテントには絶望の魔力を託した。二人はその二つの魔力で様々な魔法を作り出し、原初の魔力を依代にある特大の魔法を放った』
『最初の魔法?』
由加里が口を開く、魔法というのは使用される魔力の大きさに左右される。聞いたことのない種類の魔力を使用しているだけであっても充分興味を唆られたのだが、人を作り出すほどの魔力を使い一体どんな魔法を行使するのか想像もつかない。
『最初の世界を作る魔法だよ。二人は大地を作り空を作り海を作り様々な生命体を作り出した。原初の魔力がそうした様にね。最初はうまく世界を作った様な気になっていたんだが、取り返しの付かない欠陥が見つかってしまった。相対する魔力を使ってしまったのが原因なのかはわからないけど、人に感情って言う不純物が宿ってしまったんだ。当たり前の様に俺たちには喜びや悲しみといった感情がある。しかし、それは不完全であると全知全能の神は考えていた。余計な物全てを取り去り、最大効率であらゆる事を行わせるのが完璧な世界だと考えていたみたいなんだ』
話が大きすぎて思考が付いていかない。今見せられている映像により自分の中にある何かが別の物にへと変わっていく様な感覚はあるのだが具体的にそれが何なのかは分からない。
『原初の魔力を使った2人の神、ラメの方はありとあらゆる生物を作り出し、文字通り創造の神となり人々から崇めらた。しかし、破壊する魔法であるパテントは人に怖がられる事はあっても感謝される事はない。世界が出来上がったんだけど生きとし生きる者達から信仰心と言う寵愛を授かったのはラメだけでパテントはそうじゃ無かった。大した問題には思えないかもしれないけど、人が思う信仰心には絶大な魔力が含まれている。現に、原初の魔力量よりも遥かに高い魔力をラメ単体で持っていたんだ。さあ、ここで神たちが取るべき行動は何だと思う?』
『...もう一度、世界を作った曲大規模の魔法を行使して人々から感情を奪うか、その世界を消し去り、無感情な世界を作り出す』
司祭からの何気ない一言。常識では考えられない行動だ。世界を消すと言うのは大量虐殺をするのに相違ない。その上で新たな世界を作り、感情を無機質に変え去ることはいくら神とて許されることではないと考えてしまう。
『何ふざけた事言ってるの?貴方はこれ以上生きていても仕方ないと思う。』
巳波が腰からレイピアを抜き去り、司祭の首目掛けて突く。
鮮血が辺り一面に迸り、巳波の体を赤く染めた。
『なん...で?』
攻撃を庇うかの様に智が足を出し、攻撃を受けたのだ。
『流石、司祭をやっているだけじゃ無いな。正にその通りなんだよ。』
智の行動とその一言で洞窟の中は混沌と化けた。
植物のツルで編まれたブーツの上から足にレイピアが刺さり、ドクドクと傷口から血液型滴り落ちる。痛みに顔を歪めてはいるものの、唇を噛み決して声を上げようとしない。
『うそでしょ..何で?』
『女の子が手を汚したらいけないよって理由じゃ無理があるよな。この雰囲気』
体を突き抜けるような視線が向けられる。さっきまで力を合わせて合わせて戦ってきた者達から向けられていた目線が一瞬で冷ややかな突き刺さる目線に変化する。
『何をしているんだ?お前は?』
庇われた司祭すらも驚きを隠せない。口は地面に落ち、顔から正常な表情を読み取ることはできなかったが、今回ははっきりと驚いた表情が浮かび上がる。
『私、取り返しのつかないとんでもないことを』
レイピアから手を離し、両手を口元に両手を当て大粒の涙を流しながら後ずさる。
『いや、これ俺が足を出しただけだしそれにこのブーツ...』
カキィィィィン
話を遮る様にして中坪が智に斬りかかりそれを小型のナイフで受太刀をし火花が散る。
『隊長、どういう事か説明願えますかね?我々が異世界に来た目的はノイドに降りかかる危険を取り去る為だ。しかし、貴方はその元凶を追い詰めた所までは良かったがそれを庇った。返答次第では我々は貴方を斬る対象になります』
刀から熱が伝導しナイフに斬り込みが生じる。
『確かに、今回我々はノイドに危険を及ぼす火種を取り払いに来た。だからこそ、今は話し合う必要があるんだよ。何も知らないで刃を向けるのは取り敢えず、足に突き刺さったやつ、ぬいちゃっても良いかな?さ、寒くなってきちゃった』
最初の方はシリアスな顔に似合うセリフだったが、最後の方は唇が青くなり殆ど言葉が掠れていた。
『取り敢えず、品辺を呼びますか。元々魔力量が極端に少ない奴ですが、我々の中で回復もどきの魔法を使えるのはあいつだけですし、いないよりはマシでしょう?』
先程まで光のミストを張っていた品辺と呼ばれる黒髪に所々金髪の混じった青年が白い顔をして倒れていた。
銀髪の青年が介抱してはいるのだが、茶髪の女の子は見向きもしない。
『智先輩、無理です。品辺は死んでます。自分の才能にかまけた人は脆いですね〜』
『岡本ちゃん報告ありがとう。じゃあ、おかもっちゃんが俺のことを手厚く看護...』
『いやです。生理的に無理すぎます』
『じゃあ、秋宮を治療しているカナちゃん〜。俺の治療をお願い〜。唇がチアノーゼ起こしているから身体まで温めて〜』
『は、はぃい』
魔力が切れ地に伏している秋宮から離れ智のもとに急ぐ。医大生であるだけあって、患者を寝かせ、患部を心臓よりも高くなる様に自分の膝に乗せる。止血の魔法を唱えつつ、レイピアをゆっくりと引き抜く。透き通る程美しく磨き上げられたレイピアを丁寧に地面に置き、ブーツとも言えない簡素な靴を脱がせるが傷口が全く見当たらない。それどころかツルツルとしていて、男の足とは思えない程美しかった。
『あ、あの!傷口が見当たらないんですけど...これは、、、』
『傷は直ぐに治療しないといけないから、巳波に刺されなかった可能性のある並行世界の情報を観測して、上書きした。カナを呼んだのは傷ついた心を癒してもらおうと思って。じゃあ、次は検温かな?熱測りないから額を近づけて計って〜』
『え?いや、その...』
髪の毛を軽く上げ額を近づける。大学生とはいえ、カナの見てくれはロリっ子そのものであった。左目が隠れたミステリアな雰囲気が流れる黒髪ショートカットは大人びた見た目にする為の物かは分からないが、逆に幼く見える。
そんな事はお構いなしに額を近づけて行くのだが、かなりの距離があるのに、少女は耳まで真っ赤になっていた。
司祭に向ける刃の矛先が智に変わろうとしていていたその瞬間。
『やめて下さいー』
その言葉が響いた頃には智の顔面は地面に強く打ち付けられていた。腰の入った猛烈な勢いのビンタが当たったのだ。繰り出した本人すらその威力を知らなかったのか、戸惑いを隠せない。
『じゃあ、私は由加里さんと魔力を行使している岡本さんの健康状態がとっても、とっても気になりますのでいきますね。頭の中、お大事に』
捨て台詞を吐き、足早に去っていった。これまでにみた事ない様なスピードで。
『全く、恥ずかしがり屋さんなんだね。じゃあ、傷ついた心も癒えた所で、本題に入ろうか。』
しかし、その心中にはある思いが渦巻いていた。俺の怪我の心配をする人はもう一人も居ないと言う事と、地面に頭を強打したのにも関わらず誰一人として優しい言葉を掛けてくれない。それどこか、皆が何で巳波がレイピアを刺した時に死ななかったんだろう?巳波でさえ、あの時流した涙を返してほしいと思うほどの冷たーい視線が身体を抉る。
『じゃあ、続きを話すよ。司祭の言う通り、ラメは原初の魔力よりも大きな力を保持した。最初は自分の力で全てを作り直そうとしたんだ。でも、パテントがそれを許さなかった。この二人の性格は力とは逆行していてラメの方が荒々しく、パテントは慈愛に満ちていたんだ。パテントは人から感情を奪うことに反対し、それだけではなく人を怖がらせないように世界の反対側に理から外れた者が行き着く世界を作った。ラメは自分の魔法の技術を人に教えて、信仰で使う魔力を消費させる為に強力な魔力を使う魔法を教え、その中には人の理から外れ、大きな魔力で強大な魔法を使い人を脅かす存在が生まれた。何も悪いことはしていないのに怖がられる。だから、パテントはそれを受け入れて小さな魔力で効率よく魔法を使う術を教え、劣悪な環境の自分の世界で居場所を与えたんだ。パテントの世界では人が少なかったけど強力な魔力を持つ人が信仰心をむけてくれたから次第に魔力も蓄積されていった。世界の誰にでも居場所があるそんな素敵な完全な世界が生まれたんだけど、長くは続かなかった。この時の人間には寿命が無く半永久的に生きられたからね』
『それの何がいけなかったの?人間の一番の欠点とも言える寿命が無かったならそれこそ完璧な世界だったんじゃないの?』
由加里が首を捻る。自分の研究の成果を治療に使っても救えなかった家族の命。亡くしたにも関わらずにその悲しみに明け暮れるまも無く国を追われた少女には理解できない。
『人って言うのはね。永遠に生きる過程で人に優しくする本質って言うのを忘れてしまうんだ。だから幾ら肉体が完全なものであったとしてもそれに伴った精神が無ければ意味はない。その事によって、ラメが統治する光の世界ではパテントが統治する闇の世界を畏怖する人々であふれて互いの神に相手の世界の消失を願った。いくら神とは言え生まれたばかりの赤子の様な神はその望みを結果的に叶えてしまったんだ』
先程まで穏やかな一面を見せていた映像が黒く濁る。黒い球と白い球がそれぞれの世界。二つは隣り合う事はあれど接する事は決して無かった。しかし、映像が黒ずんでいくにつれて二つの世界の間は徐々にくっ付き接した。
『神が神を殺して自分の民に平和と安寧を与える。一見単純な様に見えるけど、実際はそんな単純じゃない。この時は今よりも強力な魔法を簡単に使うことができたから神を援護するものすらいた。光と憤怒の神ラメは後に世界の維持を行ったと伝えられる七人の弟子を引き連れて。闇と慈愛の神パテントは少ない魔力で構造を理解し、支配する事に長けた魔術をに秀でた者達を引き連れて来ていた。光の軍勢が量ならば闇は質って感じだね。戦いの場は両者の世界にまで及び互いの世界を狂わせていった。最終的に二人の神は自分達しか干渉できない別の空間を開き、そこで戦いは終結した。結果的に両方の神の敗北だった。数千年も戦っているうちに二つの世界は魔力の殆どを失い、元々世界自体の魔力量が少なかった闇の世界は存在自体が無くなりかけ、光の世界でも貧困に多くの人々が飢えていた。しかも、その頃から使い終わった魔力は世界に還元されるんだけど世界の許容量以上の魔力が使われてしまい浄化されていない魔力に意志が宿り魔物となった。奴らは元々人の一部だった習性から人を襲い、生きるための魔力を吸うんだけどじつはこう言う理由。これが俺たちのいる世界ができる前。争いもないとされていた完璧な世界の悲しい物語だよ』
急に出された現実離れした話。だが、この話は人一人としての価値観では推し量る事はできない。ただ、この世に生を受けたものたちが生きる事を選んだ結果こそが今の物語りであり、それ以下でもそれ以上でも無い。
口々に言う言葉はあれど、既に起こった事象に対する言葉は持ち合わせていない。
「思う事はそれぞれあると思うけど、物語のクライマックスを話すよ。お静かにね」
眠りへと誘う様な甘いニュアンスで更なる物語を進める。最初は綺麗な球体だった白と黒だった世界は所々消失していた。二つの世界の人々はこれまでに無いほど窶れていた。
「互いに自分が正義だと信じ込み、力を振るった。その結果お互いの世界は存続できなくなった。二人の神は魔力を使い切り自分の過ちに気が付いたが互いに止めを刺せなかったんだ。それどころか人に余計な知識を与えてしまった事を嘆いたが全ては遅かった。それをみかねた人々は自分の魔力を使って魔力での戦いをつづけた。そして、世界は完全に滅んでしまった。作物も出来なくなり風は止まり魔物は人の血肉を貪った。神からの恩恵に期待し、魔力に頼り切っていた人に白兵戦に長けていた魔物は天敵であっと言う間に狩られていった。そこで人々は願った。死にたく無い、怖い、生きていたい。そんな願いを願う。そして、神は叶えた。残存魔力を全て振り絞って、2回目の二つの極大魔法を使った。すべてを一つに纏める魔法で、足りない世界のパーツを闇と光の双方で補う。それで光と闇が統括した世界が誕生した。その時いた人々の記憶を消し、新たな世界創世記を植え付けて色々な世界を作った。暫くしてその世界の文化レベル、魔術レベル、肉体レベルを考慮した上で魔物も再配置する様にしたんだが、欠陥が見つかった」
映像が移り変わる。先程との映像とは打って変わり、白い大きな球の外側に黒く太い線が巻きつきなんとか形を保っている。白い玉の中にはいくつもの小さな光が煌めき、どんどん膨張していく。
その中には一つだけ真っ黒な球体が白い球の弧に接していた。
「やはり相対的な魔力を使ったせいで魔力は暴走。光の世界はどんどん膨張し、それだけでは存在できなくなるようになってしまい民も一人一人が弱体化していった。闇は光の世界を支える支柱の様になり、一人一人は強いものの光の世界の存続のために存在しているだけで魔力を奪われる様になった。一つのシステムに見えるかもしれないけど、世界存続のために供給される魔力は強すぎて毒となり、世界や人々の寿命を奪うことになっていったんだ。もうわかると思うけど、これが今、俺たちが存在している世界。唯一の悲劇は二人の神によって記憶を上書きされた事。神に決められた自分達の役割を知らずに起こった悲劇」
「つまり私たちが世界を変えるためにお前たち空間の監督者から魔力を奪い世界を混乱に陥れて世界が滅ぶ前に人を滅ぼそうとしていたが、それ自体我々のせいだったのか。私は本気で闇に消えていく人をどうにかしたいですだけだったのに。その原因こそが、我々で...』
司祭が大粒の涙を流す。そこにやり方は間違いであろうと、誰かのことを助けたいと言う思いを垣間見る一同であった。




