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異世界調査隊 〜青年達の多種多様な冒険日記〜  作者: ディケー
第一章 冒険の備忘録
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第三話 指揮する者

第三話 指揮する者



 辺りには火花が飛び散り空気に溶け込む。息を深く吸おうとすると口の中に灰が絡みつく。



『すごぃ』



 掲げた杖を地面に刺し、息を漏らす。多少の放心状態で焦点が虚では有るが取り乱している様子はない。しかし、飛竜の周りに散って戦っていた者達は三人の方を見ながら手を止め、口々に重いの言葉を呟く。



(いったい何が起こったんだ?)(何故無事なんだ)

(攻撃が外れたのか?) (あの指揮官の女、炭になって消えろよ!?)(目障りだって分かってないの?)



『ゲボッ、ゲッ。何でランキング外のあんたがこんな事できるのよ。飛竜のブレスは盾隊が編隊を組んでも完全には防げないのに。一体何をしたの?』



 一人の人間では到底だせない圧倒的な力を目の当たりにし、声を震わせる。羨望の眼差しとは程遠く、瞳には大きく歪んだ鬼の如き異形の者が像を映す。



『嫌われているんだな』



 鬼がそう短く呟いて初めて周りにも耳を傾けた。生き残っているわずかな者の小声が鮮明に聞こえてきた。



(男もろとも死ねば良かったのに)(何で生きてるの権力者の雌豚風情が)(死んでいった奴らに詫びて死ね)(人を消耗品みたいに使っていた屑が)



『あ、あああ』



 人の顔が溶け出し、大きな口だけになり周りを囲まれた様に錯覚する程の罵倒が頭に流れ込んでくる。忘れ去っていた幼少期の苦い思い出が呼び覚まされた様な感覚に陥り視界がどんどん暗くなる。髪の毛を掻き毟り、首を垂れる。親にいつでも完璧に居ろと異世界からの物資で復興した東京で裕福に育ったお嬢様が甘い蜜を三年間吸い続け第挙げ句に戦場に駆り出されたのだがら役に立つわけがないのだ。


 そんな事、ここにいる誰もが分かっていたはずなのに親の地位を優先して指揮官として祭り上げた。しかし、重要な場面になると責任をなすり付けようとする。



『何で私を助けたの?あのまま殺してくれればこんな思いしなくて済んだのに。』



 火球を切り裂いた片手剣を鞘に収め、歩み寄る。



 暗くなった視界で本当の表情を見る事は叶わないが、鬼のような表情に違いない。



 膝を付き右手を首に添え、力を込める。



『顔を上げろ。何を嘆く事がある?死んでいった仲間はもう戻らない。だけど、今生きているやつを導く事は今からでもできる。俺はこの二ヶ月、料理を作っていただけだけど、誰よりも早く起きて誰よりも遅くまで剣を振っていたあんたより指揮に長けているやつなんてここにはいない。だから、頭を上げて立ち上がって。』



 低音の声が体の内側に心地よく響いて無意識の内に目から大粒の涙が視界を洗い流しているのにようやく気が付いた。見上げた目に映り込んだのは鬼ではなく菩薩の様に諭す一人の優しい青年。



『だけど、私を信じて死んでいった人に申し訳が』



『死んで償おうとするな。世の中には病気や事故で生きていたくても生きられなかった人がごまんと居る。遺された俺たちにできるのはその人たちの意思を汲み取って生きる事しかない。さぁ、俺はあんたにいくらでも力を貸す。だから指揮者として俺らのことを導いてくれ。』



『そうですよ。私は気高い巳波さんに憧れたんです。だから、私の力も使って下さい。』



 栗毛の少女も冷たく冷え切った手に自分の手を添える



 変態扱いされた男は首から頬に手を移動させ、涙を拭い、空いている手を握り指揮官をたたせた。



 もう、泣き虫の面影はなく、先程とは比べ物にならないほどの凛とした目に火が宿った。


『ねぇ、勝算あるの?こっちは魔術師の卵一人とレイピア使いが一人、変態料理人が一人で勝ち目は絶望的なんだけど。』



 顔を見合わせる様に見いるが、状況が改善されるわけではない。



『はーい。私いい事思いつきましたー。さっき私の胸を揉みしだいたこのど変態の腹ワタを裂いてあいつが捕食している間にさっきの威力の殴りでフルボッコにしましょー』



『わー。いい考え。また胸もみしだけるーって俺それ死んじゃってない?ってか俺の未だに俺の名前呼んでくれないの?よっぽど根に持ってる?』



 コミカルな返事で提案された作戦としては思えない程腹黒い作戦が提案され先程とは比べ物にならない程気持ち悪い手付きで指をワキワキさせるその様は異様としか言えない。



『二人は知り合い?だったら紹介してほしい。いつも私の視界の端っこの方にしかいなかったから名前も知らなくて、、、』



『そんな、巳波さん、あんなに暑い夜を過ごした仲なのに私の事忘れたんですか?あんなに激しく唇を貪った仲なのに』



『はぁ?わ、私はまだ清き体よ。』



『はい。じゃあ、紹介するよー。巨乳で百合ゆりしい妄想中毒者が牧本 由加里。顔可愛いけどかなり残念なやつ。で、俺は宮部 智。埼玉の山の中にある大学に通う料理好きな好青年。』



 淡々と説明をするが、明らかにその説明に不満を覚えれる者がいた。由加里がリスの様に頬っぺたを大きく膨らませている。



『智とは違ってまだ実際にそこまでの事をしてないから大丈夫だよ』



『確かに、変態智とは違って、そういう事を考えているだけなら問題ない。でしょ。』  


 それに同調するように指揮官の巳波も口を開く。



『そろそろブレスの硬直が解ける。来るぞ』



 二人の言葉を遮る様に獲物を鞘から引き出し、構える。それに呼応するかの様に



『グォォォオー』



 ビリビリと空気が張り裂ける様な雄叫びをあげる。身を捩り自身の多くの血を浴びていてもそのその存在は一際目を惹く。



『でも、どうするの?幾らさっき火球を切り裂いたからと言ってもあいつは身体を固い鱗で守ってる。その上、電気をも操るのよ。こんなレイピアじゃあ役に立たないし、風系の魔法も効果も薄い。原因不明の小規模爆風での攻撃もあるのよ?』


十分な対策をした巳波でも力が及ばなかった。なのに、それを超える作戦があるのかと指揮官としては不安になる。



『ああ、大丈夫。これじゃあ、あいつの装甲は破れないし、切って勝つ気はないよ。事前の情報では電気を使うなんて言われてなかったけど、逆に好都合。何で重装兵が煙の中で爆風に吹っ飛ばされたかも分かったしね。三人いれば勝てる』



 その一言を聞いた途端、顔色が変わる。今まで犠牲者が出ない程度にこの部屋までの攻略を進めてきた。しかし、未知の魔物の攻撃その対策を講じるためには時には何週間もかかる事があった。


 ましてやここはダンジョンの最深部。人員1000名以上を総動員して挑んだ今回の戦いは三週間もの準備を費やした。なのに、今まで飯炊きしかしてこなかった奴が先程見た攻撃の対策を直ぐにたてられるなど正気の沙汰ではない。



『どうやるんですか?私、信じてました。智さんはただのど変態じゃないってずっと信じて居ましたから』



 胸の前で指を組み感嘆するも、普通ならば掌を返されたと思うだろうが、こいつの場合は



『見直したか。相変わらず俺はど変態だろうけど、洞察力は凄いぞ。因みに、巳波の胸のサイズはを着るのにサラシを撒いているが、Gはあ、、、』



『ねぇ、早く方法を話しなさい。最後の言葉が私の胸の感想になるわよ』



 レイピアを鞘から火花が迸る程の速度で抜き取り、鋒を喉元にに軽く刺す。そこから一筋の鮮血が滴り落ちた。

 そして、今までにないぐらいのスピードで作戦を語った。

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