第28話 集結
第28話 集結
「あー、だから独断先行したのよ俺ー。壁ができてやりにくい」
「結果を見てから嘆くな。どう見てもお前が奴を刺激すりからだろ」
「うるさい!」
「早く蹴りつけて下さい。時間凍結は無限にできるわけじゃないんです」
最初の3人はいつも通りなのだが、そこに銀髪の女の子が加わる。
「ミストももう限界に近い」
黒髪に金髪の混ざったヒョロイ男も嘆く。
「私は何をどうすればいいんですか?」
茶色い髪の毛の女の子もアタフタする。
次々と増えていく的に現場が混乱する。見たことがない魔獣の対策がわからないのだ。いくら高い攻撃力があったとしても魔獣との実戦経験が無ければ宝の持ち腐れである。
「うるせよ。全員黙れ」
その一言で自分辺りは静まり返る。ピンと貼った空気に緊張が新たに走ったのだ。
「あれは闇の魔力で一体一体色濃く洗脳された魔獣だ。繊細に操られている人とは違って単純なことしかできない。しかし、それゆえに強力で単体での撃破希望が薄い。複数名で取り囲んで倒すのがセオリーだが、そうすると取りこぼした奴らがミストの方に行ってしまう。数秒なら生きていられるし、疲弊しきった奴なら数秒で殺せる」
「じゃあ、八方塞がりじゃかねーか。どうするんだよ。」
さっきの言葉の腹いせのように赤髪の中坪が智に言葉をぶつけ、平然を装う。それだけ切迫した状況なのだ。力はあるのにそれを十分生かせない。手をこまねき足踏みをしているようにも思えた。
「慌てるな。俺たちはただ料理をすれば良い」
『『『『『『は?』』』』』』
六人は言葉を失う。顔は引き吊り、何を言っているのか理解が追いつかない。先程もこういう状況になったのだが、今日初めて体験する六人には耐性が全くない。
「司祭〜、さっきのクイズの答え合わせだ。って訳で川瀬、これの散布宜しく」
「そういう事か」
小さな瓶を受け取り、鞘の中に中身を入れる。居合のような構えを取り横一文字に勢いよく抜刀。
三日月状の斬撃が勢いよく飛び出し、魔獣の群れに向かっていく。
短調で大雑把な攻撃。範囲が広く仕留めることは愚か、表面の魔獣ぐらいにしか届かない。
「馬鹿め血迷ったか」
奥から司祭の声が聞こえてくる。数を揃えただけで満足しているのか分からないがその声は少なくとも先刻よりは自信が漲っていた。
「馬鹿はお前だ。俺の斬撃は分散する」
暫く行った所で幾千もの小さな針のような形状に斬撃が変化する。
それこそ倒すこともできなく強靭な体の表面を傷つける程度の威力に成り下がった。しかし隙間を通り、奥にいる魔獣まで突き刺さった。
「戦闘員は総出でミストの方に被害を出さないように魔獣を殲滅する。最初は時間を稼ぎ魔力を温存しながら戦え。時間凍結をしているからある程度の武器摩耗は治るが過信はするな。洞窟内保護も有効だがいつ切れるか分からない。地の利がいつまでもこっちにあると思わず謙虚に行け。ミストはお前が死んでも継続させろー」
「え?」
『『『『『了解』』』』』
「何を話している。魔獣ども奴らを殺せ」
魔獣達がそれぞれ武器を持ち、前進してくる。中には兎のような脚を持つ魔獣が槍を持ち、玉砕覚悟で突っ込んでくるのだが、獣のような感性で戦いを感じ取ったのか中坪が最初にそれを全て叩き落とす。
「刀も温存しないとな」
口ではそう言うがその気は全くない。単身敵の懐へ潜り込みバッタバッタと相手の武器を破壊していく。
「最小限の力で戦え」
川瀬は攻撃の全てを交わし、薄氷のような刀で用途に応じた攻撃を繰り出すが、致命打にはならない。表皮が強靭であり、逆にこちらの刃が通らない。
「あの二人でも倒せないなら私はもっと無理」
ちびっちゃい女の子が二本の小太刀を巧みに操り敵と敵の間をいなしながら移動する。自分から攻撃する素振りははなく、戦いを避けるのに徹する。
そんな中でも一際異様なのは智だった。先程から闘うどころか何もしていない。由加里が用意したインゴットも何処かに仕舞い込み、文字通り突っ立っているのだ。
「智さん!」
後ろから呼ばれ、振り向く。先程まで満身創痍であった由加里がミストを抜けこちら側に来ていたのだ。
「姫、こちらは危険です。安全なところまでお下がりください」
「何故ですか?私はそんなに頼りないの?私はまだ戦えます。それに、先程まではあんなに砕けた喋り方だったのに何でそんなに硬い喋りなんですか?」
「一言で言うなら万が一の事があったら大変です。それに、これから来る友人は姫がいるだけで士気が上がるんですよ。ってか、由加里にむかってこんなに舐めた口を聞いていたら殺されるでしょうね」
左の脚首。そこに手を触れ智が自分の体の中から何かを取り出す。体から取り出したビー玉サイズの青色の玉は全く血で塗られていると言う訳でもなく出て来た。
『よっと』
洞窟内部で宙高く放り投げる。その瞬間朝日のように眩い光が辺りを照らす。光を遮るように手で影を作り目を凝らす。
するといくつもの黒い斑点が出てきて中から女の人が出てくる。年齢はバラバラで少女としか言えないような風貌な子から成熟した青年と言えるまで様々である。
巳波のように銀の鎧を着込み腰にはレイピヤを携えていたが頭にはメイドがつけるカチューシャが乗せられていた。
由加里には急に出現した人達全員に見覚えがあった。
万有引力に逆らい、金色の粒子を体から振り撒きながらふわふわと着地する。容姿が整った何人もの幻想的な女性たちに見るものは目を奪われた。その中でも一番近位置に降り立った銀色のロングヘアの女性に近づいていく。
『姫様』
城を逃げ出す前から知っている懐かしい声。時に優しく、時に厳しく叱ってくれたあの声が心地よく耳に響く。
『シルヴィ〜』
『ちょっと姫様?そんなに強く顔をつけられると。それに、私は使用人ですので過度な関わりはお控え願いたいんですが...』
背が高く豊満な胸に顔をうずくめて涙を隠す。城を逃げ出してから一回もそれらしい涙を見ていなかったが、予期しない嬉しい誤算で堰き止めていた涙が押し寄せる。




