第25話 魅惑
第25話 魅惑
『どういう事だ?魔法では自然界にあるものしか顕現できない....。しかも、お前たちは属性に乗っ取った狭い範囲しかしえきできないのに何故?』
取り乱し、頭を強引に掻き毟る。自分の頭の中で理解できない事が起こっているのだ。
「魔法の定義からは何も外れていない。ただ、俺の魔術は規模がでかいだけだ」
「武器を作る魔法ではないの? 私に嘘ついて....」
近づいてきた由加里がプルプルと震え出し、今にも泣きそうになる。一方的とは言え、信用し切っていた智に裏切られた事が分かるたびに泣き崩れそうになる。
「うん、違う。あれは嘘」
グダグダと干渉に浸る由加里の唇を指で抑える。
「俺の本当の能力は観測した並行世界の事象を何重にも上書きする。こんな風にね」
ズボンのポケットの中に指を入れ、ビー玉ほどの黒い球を取り出す。ぽっと上に投げるとプロジェクターのように様々な情景が投影される。投影された風景には様々な見たこともないような情景からここと同じ洞窟の風景がある。
(色々な人?)(あれはこの洞窟?)(でも、何がおかしくない?)
よくよく見ると、洞窟内部では巳波が無残な姿になり殺されていたり、今はここにいない人の姿までがある。中には見知った顔があるが見たこともない人も共に翼竜と戦ったりしている。
『そう、これは並行世界の記憶。例えばその世界で二択の選択を迫られた者がいたとする。一つの選択肢を選び、もう一つを選ばない。選んだ方がその世界にとっての選択となるんだが、選ばれなかった選択肢が選ばれたもしもの世界というのが同じ世界の延長線上に存在し、永遠に交わらない。だが、選ばれた選択肢から枝分かれし、それらはもしもの世界を多く作る。本当にあるわけではない虚な世界で、普通なら干渉することもできない。だけど俺はね、それらの世界を観測し、一つにまとめる事ができるんだよ」
由加里から渡されたインゴットを出現した風景の中で握られている様々な武器に変えながら説明をしていく。
「因みに、お前の魔術は空気自体を操る魔術だ。空気を固めて足場にし空中に浮いたり、空気の摩擦で火を起こし、攻撃したんだろ。黒い炎は闇の支配するって魔力を織り混ぜて火力を上げたって所だな」
「じゃあ、お前たちは一体どうやってそこから抜け出した。私の魔力はまだ効力を発揮している」
キョトンとしていた智の顔に笑いが浮かぶ。
「簡単な事だ。体内に俺の魔力の一部を受け渡す。そこから並行世界の中から重力の中でも少しだけ動けるその人の能力を上書きする。本線でそれが顕現すると伏線として存在する可能性には新たな可能性が生まれる。新しく生まれた可能性の中から今よりも動けているその人を上書きする。継続的にそうするし続ける事で、あんたの力を中和した」
体内に刀の一部を埋め込まれた面々はそこに手を触れると確かに感じる。力強くも優しく自分に流れ込んでくる力の流れを。しかし、それが智の力だとは思えなかった。ろくに訓練に参加していなかった奴がここまで強いだなんて誰が予想しただろうか?
「馬鹿な。そんな事が」
「現にできている。これが世界を守るために選ばれた一族か、そうでない者の最大の違いだ。もうお前に勝ち目はない」
そう言い放ち、インゴットを手頃な片手剣にして司祭に歩み寄る。
「待ってくれ。私は私は、そうただみんなで平等に死ねる世界を作りたいだけなんだ。永遠に彷徨うことのない世界。さっきも、苦しませないために心臓を一撃で止めるために致し方なく、異教徒を捌いたに過ぎないんだ。信じてくれ」
傷口を抑え込み、尻餅を着きながらズルズルと引きずり逃げ惑う。
「嘘が見苦しいんだよ!」
地面に刀を突き刺し、ポケットの中から先程拾った心臓とガラスの小さな注射が取り出される。地面に落ちた腕に注射器を刺す。触れていないのにも関わらず中に黒い何かが溜まっていく。
「これは魔力回路専用の注射器。さっきの風を操る武器を作った時にできた副産物だが、今じゃ俺に流れていない魔力を他の人から貰い、その属性の魔法道具を作る時に使っている」
注射器を抜き取りそれを心臓に全て注入した。足元に転がっていた百足を取り上げて心臓に近づける。
黒い電撃が百足に走り地面に百足を置く。
「ギャァァァ」
蜘蛛と同じような巨体に一瞬で成長した。
「ひ、ヒィィィィー。』
「元々俺と同じ様な用途で運用するために心臓を取り出したんだろ。高弁垂れた恥を知れ。このままこいつに食いつぶされればあいつも浮かばれるのかな」
「ま、まて。私は」
「見苦しいぞ。死を受け入れなよ」
淡々と喋り、背筋が凍りつく様な目を向ける。
「死は受け入れる。ただ、最後に教えてくれ。なぜお前はミノタウロスを串刺しにできた。いかに鋭い武器であってもあいつの体を貫く事などできないはずだ」
あからさまな時間稼ぎ。目に見える程あからさまであった。
「お前は固い肉を食べる時どうやって食べる?」
はぁ?その場にいる人間全員に流れる時間は色々な
意味でぶっ飛んだという。




