第24話 クーデター
第24話 クーデター
慣れ親しんだ左腕の感覚が遠のく。右手に握られていた物を全て地面に落とし、傷口を押さえながら蹲る。
『貴様、どういう事だ。ここに居る者を殺害し、こちらに降るのでは無いか?』
『何おめでたい事言ってんだよ?俺はな、俺の家族を殺したお前らの手を取るつもりはさらさら無いし、それ以上に仲間を道具のように扱う奴は大嫌いなんだ。そこに転がっている心臓はあいつのだろ?』
今までに見たことのないような剣幕で言葉を荒々しく紡ぐ。剽軽な言動からは感じられないほどの圧力が重苦しくのしかかった。
『こ、こいつは私達を裏切る行動をとったわけで殺されるのが当たり前と言うか...』
『あいつを洗脳し上書きし、こっちの世界への切り込み隊長にしといてよく言うな。お前のせいで今後が面倒になっちまった』
智がため息を吐きながらぼやく。
『魔力って言うのは最も心臓に溜まりやすい。それを引き抜いたって事はあいつの能力自体が欲しかったって事だよな。仲間なら道を違えた仲間を説得したりするのにお前は全くその素振りを見せなかった。つまりは、そう言う事なんだろ』
刀を振り上げいつでも振り下ろせるように力を込める。刀身には怯え切った司祭の姿と怒りに歪んだ智の姿が対照的に映る。
『ひっ、ま、待て。仲間仲間と綺麗事を言うがお前こそ気にくわない仲間をあんなにも殺していたじゃないか。私だけを叱責するなど、お前にその資格はあるのか?』
体勢を起こし、足を器用に使いながら地面に尻餅を付きながら後ずさる。
表情は恐怖で歪み切り絶望という言葉が見て取れる。
『じゃあ、クイズだ。あんたは何らかの方法で何人もの体を動けなくさせた。そしてそれは俺にもみんなと等しく効いている。じゃあ何故動けるのでしょうか?』
『は?どういう事だ?じゃあ何故動ける?』
『ヒントはこれだよ』
刀身の先端をおり、掌で包み込む。青白く光が発光し、小さな針ほどの刀身が姿を表す。もぎ取った腕を無造作に床に捨て由加里の元に駆け寄る。
『痛くしないから、ジッとしてて』
『ここでは従うけど私はまだ、あなたの事を許したわけじゃ無いから』
そう聞くや否や、差し出した腕に先程の小さな刃を差し込み、先端を折る。痛みを我慢するその顔はほのかに赤く上気し、官能的であった。
『由加里は、異界の人は魔力に馴染みやすい。箱入りのお姫様でも、もう普通に動ける筈だ』
『馬鹿にしないで』
下半身に力を入れ、立ち上がろうとするがフラつき前にのめり込む。
『ね?危ないでしょ』
『うるさい』
智の方が上背があり、多少無格好ではあるが肩をかしながら立ち上がった。先程までの重苦しさは微塵も感じられ無い。
『一体、何をした?私の力が弱くなって...』
『そんなチープな答えじゃ無いよ。分かるかな?』
そうこうしているうちに先程智が切りつけたメンバーがどんどんと立ち上がり智と共に司祭の眼前に集まってきた。その中の一人に自分の武器の先端の屑を与え、何やら指示をする。智の手が届かない場所にいる者達にも指示を受けた人がそれを体内に入れる。
体に怠さはありながらも地面に埋れていた時とは比べ物にならない程身体が動かし易い。走り回れる程の体力は無かったが、続々と司祭の周りを取り囲む。
各々武器を握りしめ、臨戦体勢であった。
『どういう事だ?何故こんなにも多くの人間が動ける?私の力が及んでいないのか?』
司祭は膝立ちで右の掌を前に出す。辺りではミシミシと音を立てて、洞窟内の小さな石が潰れ砂と化す。
(私の力が効いていない訳ではない。しかし、一体?)
『先ずはお前の能力の種明かしをしようか』
『私の能力だと?出まかせを言うな。魔術の基礎しか知らないお前達に判るはずがない』
力強く主張し、自身の言葉にはどことなく必要以上の力がかかる。
『確かに、ここにいる奴らは俺も含めて魔術の基礎しか知らない。だけど、それはお前も同じだろ』
『何を言っている?』
『魔術っていうのは人が歩んできた叡智そのものだ。一人の人間の人生の中でその一部しか触れる事はできない。世界が作られた時から存在していたとは言え、何とも関わらないできたなら俺たちとら相違ないだろ』
『ふざけるなよ、小僧。私達はお前たちよりも世界の核心にいる存在だ。なのに、それを』
憤で我を忘れて怒りを露わにする。顔に皺がより、年齢の数倍は老いている様に感じられた。
『核心に居るからわからない事もあるよ。核心にって言う卵の中に居たらわからない事もある。その中が世界の全てだからその中でしか生きられなくなり殻を出ようとした者はさっきみたいに淘汰していれば尚更だ』
『つけ上がるなよ小僧ー』
掌から先程より小さな黒い炎をだし、智に投げつけた。一直線に飛んでいき、由加里を支えている体では躱しようがない。他の者も気が付き、対処しようとするが間に合わない。
『浅はかだな』
手に握られた無骨な刀が青く光だし、反対側の風景が透けて見えるほど薄く研がれた片手でも振れる小型ナイフに変貌する。ナイフというよりもメスに近いやり方で空中にアスタリスクの様な切れ込みを入れる。そこに火球が吸い込まれ、弾け飛んでいった。
『なんだそれは。お前は何をした?武器を作る魔法など聞いたことがない!』
『これがさっきの答えだよ。俺が監督者として引き継いだ能力は空間に関する能力で、並行世界として存在する可能性を一つに収束させることができる。空間をいじるのと、武器にさまざまな形を上書きしたりできる?』
その場にいた全員が例外なく驚き言葉を飲んだ。今までに見てきた魔法のどれよりも現実味がない。一番魔法として魔法らしい魔法だが、頭が追いつかない。
『刀な形状変化は由加里が用意した汎用性の高いインゴットを様々な物に加工された可能性を用途に合わせて具現化した』
『そんな事できるはずがない。第一にそれをバラすメリットはなんだ?それに、私の魔術を無効化したのはどうやったら説明が付く?』
ニヤリと口角を上げ不敵なままにほくそ笑む。まるで、一つのことに納得が行ったかの様な笑みであった。
『何がおかしい?』
『改めてあんたの馬鹿ぶりに驚かされただけさ。あんたの能力が分かった。さっきの二つはやっぱり魔法だったんだな。自然界にあるものしか魔術で操れない。って事はあの二つは空想上の物じゃない。それに加えて、あんたが火の魔法を使う時は妙な間があった。まるで何かを貯めているような感じのな。上空から天井の穴を狙って火柱を入れる時なんて滅茶苦茶力んでいたから笑いを堪えるのが大変だったよ。もっとも、あんたの攻撃法が分かっていればアイツは救えただろうがな。こんなになっちまって可哀想に』
由加里を一人で自立させ、歩み寄った地面に落ちた灰色の小さな心臓を拾い上げる。
『あんな上空が見えていたのか?ありえない』
『所があり得るんだよな。あんたが空気を使って火を起こしたり、体にまとわりつく空気の重さを変える事によって戦った。それに対して、俺も工夫したんだ。何重にも並行世界の可能性を上書きしてな』
訳の分からない言葉が戦場を駆け巡る。その言葉を理解している人は誰一人としていないであろう。




