第23話 絶命
第23話 絶命
振りかぶった拳が下され巳波は完全に頭から潰されたよう見え誰もが思い目が釘付けになる。ただでさえ力強い巨体が全身の力を込めた一撃は到底防げない。誰しもがそう思う。だから、こそ無防備になり、驕るのだ。
『う、おォォォオ』
不意に拳が途中で止まり突然苦しみだす。
体中から血が流れ、膝を突いて頭を伏した。
『一体何が起こったの?』
由加里を始めとした調査隊メンバーが何が起こったのかを理解できていない。
『そんな、馬鹿な。ミノタウロスが倒れるなど。何故動かない?あいつの心臓は持っているのに』
何が起こったか判断できていない由加里が司祭の手に目線を移す。そこには翼竜との戦いで折れた刀な柄と血塗れの小さな袋が脈を打っていた。
『水で音の魔力を増幅させたのか』
治療を受けていた秋宮が体勢を起こす。むせっかえり血を吐き出すが口の中を切った程の血液量で大事には至っていない。
『そう。水は音や振動をよく通す。魔力を帯びたこの水水はもっと敏感に伝えるから振動を効率的に流す命令式を書いた。後はナギの共振でミノタウロスの体を破壊したって訳。これから体の大きさは関係ないでしょ』
戦闘不能のミノタウロスに近づき、レイピアを掲げる。
『私達が教わった魔法には書いて実行させる命令式と言霊で言う命令文の二種類がある。後者の方が強力なんだけど、相手に気づかれないようにするには前者の方を使う。もしも、私がこの命令をしたら貴方はどうなるのかしらね?暴れ回れ』
地面の水に纏うのと同時に新たな命令を加える。
レイピアに収束した水はランスのような形を模し、水圧寸断機のように暴れまわる。
『何だ?あの複合型の魔法は!?倒せ!?倒せ!?』
必死に手元の心臓に語りかける。しかし、ミノタウロスはぴくりとも動かない。
『無駄ですよ。体の繊維をズタズタにしているので何を言ったって動かせませんし、痛みも感じていないはずです』
そう言い放ち笑みを浮かべ、レイピアを下ろす。
『ならば、丁度いい。潰せ』
そう言い放つと、巳波達は何かに潰された。
目に見えない何かに。
先程まで足を着けていた地面と頬が接する。魔獣を起点にどんどんと人が潰され由加里までもが膝をついた。
しかし、一番目を疑ったのはそれではない。体の組織をズタズタに壊したはずの目の前の魔獣が立ち上がろうとしているのだ。体中の腱は千切れ、筋肉や骨も無事では済まない。立つことは愚か、動くことさえも生物学上の理論では叶う筈がない。
だが、仕舞いには立ち上がってしまった。
『う...そ』
動くことさえも叶わない巳波は短く言葉を吐いただけで最後の抵抗を諦めた。レイピアを握る手からは力が抜け落ち魔力は四散。魔獣がゆっくりと近づいて死の淵が静かに見え始めた。
『逃げてー!?』
膝をつく由加里が大きな声をあげるのだが、巳波の体はピクリともしない。
『無駄ですよ。あなたとは違って魔獣を中心に展開している。中心の方では、息をするのだって苦しい。お仲間なら安らかな死を願うべきなのではありませんか?』
そう言って巳波に近づいてくる。
『ちく....しょう!?』
巳波が汚い台詞を吐き、重たい体を引きずりながら腕を思いきり降りかかる。だるい体を必死に持ち上げ、体を捻りミノタウロスを使役する者に攻撃を繰り出す。
『無駄ー』
司祭がベロを出し、悪戯は右手を突き出す。下腹に何らかの衝撃が走り、後方に飛ばされる。転げ回り無様に由加里達の元へと巳波が帰っていく。
振り返ると、魔獣が腰に付けたナイフを引き抜いていた。ナイフの刃はグズグズに砕けていたが、抵抗できない人間1人を殺すならば少しばかりの刃で事足りる。シャリーンと砕けたナイフが足元に散らばる。魔獣が移動し出し散らばって這いつくばる魔法隊の者達に刃を突き用途する。
次の瞬間には
鮮血が迸り、当たりを赤く染めた。聞こえてきた悲鳴は獣のように野太い
『グァァァァァァア』
魔獣の胸元から突き出た刃から血液が滴り地面に流れ出る。薄暗い中で青く光る地面に赤い血液が鮮明に印象付けられた。
誰もが予期して居なかった事態。誰一人として声を上げられない。海老反りになった魔獣の背中に視線を向ける。
『ダメだよ。攻撃する時は最大の注意を払わないとね。』
背中から刀を差し込む人の声には聞き覚えがあった。 智だ。飄々とした口調で薄っぺらな言葉。体に巻きついた服は煤け、小汚かったが目の光は一際輝いて居た。
『巳波ちゃんは大丈夫かな?』
地面に伏した巳波のもとにスタスタと駆け寄り蹲み込んで声を掛ける。魔獣は出血し、膝を折りその場に前のめりになる。息を途切れ途切れに吸い込み、文字通りの虫の息だった。
『ごめんね。利用された君をどうする事もできない。せめて安らかに眠ってね』
魔獣の元へ隼のごとく戻ると背中に飛び乗り刃を握る。刺さった刃が幾つにも枝分かれし、身体を内部から突き破る。一瞬の出来事で魔獣すらも声を出す事ができない。血飛沫が当たりを染め上げさした本人の身体も赤く染まる。ゴミを見るかのような目を辺りに向け、得物の刃を折る。
『次は、巳波の番だね。戦場では動けなくなった人から死んでいくって知ってる?』
一瞬で巳波の元まで移動し、そう呟くと柄を強く握りしめ、細く鋭い刃が姿を表す。
『や...めて。』
『大丈夫。一瞬で済むから痛くしないよ。』
そう言って、刀を逆手に持ち刃を突き立てた。傷口から血液が滲み、刃の先端を折る。周りにいた由加里達にも同じように刃を突き付けていく。
『さてと、次は』
身を翻し、刃を修復させる。握られた刀の形は微妙に異なるが、調査隊のどの人にも先端部を刺しそれを身体の中に残るように折る。
『やだ、何で?』『仲間じゃ.,ないの?』『はら..いせか?』
動けなくなるのに差があるのか重い身体を起こし数メートル逃げる人もいたが、逃す事なく体に刃を打ち付けた。
『ははは。予定とはだいぶ違いますが、貴方の仲間はみんな死んだ。どうですか?そこの青年。さっきは吹っ飛ばしてしまいましたが、何か誤解があったようだ。私達と共に星の停止を目指しませんか?』
左手を出し、誘いを出す。ゆっくりと歩いて向かってきて、仲間になる事を確信した。
『哀れだな。見方敵の区別もつかないなんて。俺がミノタウロスを殺した理由は?』
『貴方は私の仲間になりたいのでしょう?だから、実力を見、手土産として中間を殺した。違いますか?』
余裕に満ち溢れた司祭が流暢に喋り出す。智の姿は一瞬で消え、振り向くと眼前に仲間を刺して回った青年が虚に立って居た。
青年の手には司祭の手が握られていた。しかし、違和感を感じる。掴まれている感覚が全くない。それどころか、自分の腕に目を向けると、鋭い刃物で切り取られたかのような断面があり洪水の如く血が吹き出る。
青年の右手には血が滴った先程とは比べものにならないほど太く無骨な太刀が握られ、反対側の手には自分の腕についていた肘から下の部分が手首を掴まれ、そこにあった。




