第21話 料理
第21話 料理
「我々の救いを理解してもらえないのならば仕方ありません...蹴散らせ」
指を軽く鳴らし、低い声で命令を呟く。体勢を低くし、蹴散らすべく走り出した。二本足の蹄を鳴らし、五本指が付いた腕を大きく振って走り出す。
「盾になる。距離をとって!!」
「魔法隊、後退だ。早急に下がれ」
由加里が手足に風の魔力を宿らせながら敵に向かう。先程の攻撃で単純な火力では敵わない事が分かり、瞬時に遠距離での魔法攻撃に移行した。
秋宮も由加里が時間を稼いでる間に魔法隊に命令を出す。
魔法隊も体内の残りわずかな魔力をかき集め、後退時に魔法を展開する。逃げるための最低量の魔力を残し、攻撃を繰り出すのだ。
一撃
由加里に向かって立ち向かってきていた異形の体躯に姿勢を低くして正拳突きでの一撃を入れる。遠距離攻撃をしようとも距離を詰められたのだ。向かってきているものにそれ以上の力で攻撃を叩き込む。体中を強化しているため、パンチ力は通常の数十倍で貫通するのも容易い。...それが普通の体だった場合...
「何で?」
全くパンチの手応えがない。突進してくる勢いは完全に止まり、呆然と立ち尽くしている。しかし、体に攻撃が効いた様子が全くないのだ。普通腹部であれば拳は減り込み、胃の内容物を吐き出したりする。だが、全くそんな様子はなくただ立ち尽くしているのだ。
「ハァァァ!」
(考えている暇はない。後退の時間を稼がないと)
体を纏う魔力を微妙に調整しながら、体を抉る様に出したり、蹴りを入れたり緩急をつける。髪の毛も徐々に上がり、杖を持って戦うという印象はなく、部分的にはだけた格好は歴戦の武闘家を感じさせた。
「投げろ!!」
司祭が短く呟き、魔獣に攻撃する際に繰り出した脚を掴ませ、上空に放り投げる軽い体はふわりと浮き、下に目線を落とす。
(あれって)
すぐさま走り出した魔獣を追おうとするが追いついてもなす術がない。さっきのラッシュで体内の攻撃に使える魔力は尽きかけていた。
空中でできることは一つしかない。
『『キュイーン...バン』』
頭から落ちながら人差し指を突き出し親指で狙いを定める。指先に魔力が溜まり、空気同士が擦り合う音が響いた。
「そんな攻撃当たるわけないでしょう。貴方は簡単に殺せる。だから他のものを殺して最後に殺す情けをかけたんだから、少し大人しくしてください」
右腕の拳を突き出し、着地する地点を的確に狙い先程と同じ紫色の炎を出現させる。地面を溶かしながら豪炎で燃え上がる。
そのまま着地したら火だるまになってしまうのは目に見えた。
なので、思考を停止させ叫ぶ。
「巻き上がれ!!」
洞窟内部のさまざまな場所で緑の発光体が目を惹きつける。小さいながらもそのかけらは風を生み出し吹き荒れた。
「刀身の刃か。それに変換させた風に自分の魔力を乗せて魔力を刃に触れさせたのか....。小癪な」
智が翼竜と戦った際に散った破片に自身の風の魔力を風を通じて伝わらせた。普通であれば風など集中力を削ぐぐらいの些細な事だが、司祭の後方で散ったためそこが一番吹き荒れ身の危なさを感じる。
放出された魔力が多かったのか、ヤイバの破片が多いのかは分からないが洞窟内で吹き荒れる風はしばらく収まりそうにない。
「先に回収してしまうか」
司祭は手を体の前でクロスさせ、暴風の渦の中に飛び込んでいった。
由加里はその間に身を翻し猫の様に着地。間を開けずに風の球を放出するが魔獣に当たる気配はない。それどころか、何人もの杖を持った魔道士に当たり遥か後方まで吹き飛ばされる。偶然当たる範疇を超えていて、故意に当てているとしか思えなかった。
司祭は吹き荒れる暴風の中に消え、洞窟の中では土煙が巻き起こる。互いの姿すらも認識できない。
「一体何をされるのですか、姫。これでは陣形を立て直すことは愚か、魔獣の位置さえ分かりません!!」
秋宮が叫ぶ。相手を目視し、魔力に命令式を与え魔法とする。根底にあるのは相手を観察すること。なのに、この状況下では隣にいるはずの仲間でさえも分からない。
必死の訴えも虚しく風の音で掻き消され、遂には自分さえもが飛ばされた。身体が地面を離れ、浮遊感に包まれる。次に感じるのは不時着の衝撃。
体に力を込め、目を固く瞑り覚悟を決める。
しかし、体を包んだのは別の感触。驚く程の弾力が体を優しく包み恐る恐る目を開ける。すると、体は弾力のある水の巨大な球に包み込まれていた。
「これは一体?」
死を覚悟したのにも関わらず、その考えが馬鹿らしく思えるほど、鼓動が強く波打っているのを感じる。そして、もう一つのことにも気付かされた。
「こんなに低空を飛ばされただけなのに、何でそんなに固まっているの?」
微かに聞き覚えのある声であったが、記憶のなかではいつも怒鳴っていて、こんな透き通った小鳥のような声は聞いた事が無い。
「巳波。身体はもういいのか?」
「秋宮、話を逸らさないで。あいつみたいな大物は皮肉を言うんだけどね」
指を慣らし、魔法を解く。水は地面に吸い込まれる事なく、慣らした指とは反対の手に握られる竹水筒の中に吸い込まれていった。総量的にも手で握れる水筒の中に入るなんて事はあり得ないが不思議なことに一滴も余す事なく吸い込まれていった。
体の支えが無くなり、尻餅を盛大につく。改めて周りを見回すと後方支援に優れた部類の15名の魔導士が揃っていた。
「まさか、俺らが飛ばされたのは後方で陣形を作り直す為?でも、こんな作戦いつ話し合ったんだ?」
「話し合ってなんか無い。全部アドリブ。私が気を失って回復されている時にこの子が智から不測の事態が起こったら袋の中に入っているアイテムを惜しみなく使って切り抜けろって言われたから私は自分に合ったアイテムを選んでだってだけ」
「アイテム?」
「この袋の中です。見て下さい」
巳波を回復させた回復型の魔導士が大きな袋の先を受け渡す。中に手を入れると想像よりも遥かに中が大きくあべこべの様になっていた。中に入っているのは元の世界で使われていた道具で戦闘に役立つとは考えられない。
「こんな物が役に立つのか?」
「聞いた話だと、魔法って呼ばれる力にはレベルが存在する。火や水を出して攻撃するのはレベル1。それを使役してさまざまな副作用を持たせるのがレベル2。私が考えるに、由加里が風の魔力をパワースーツみたいに纏っていたり、ローブのやつが支配する力って言う闇で人を操っていたのはレベル2の魔法で、司祭を名乗るあいつもなんらかのレベル2の魔法を使っているんだと思う」
「つまり、レベルの低い魔法では決定打を与える事はできない訳か。どうすれば魔法の能力は上がるんだ?」
「分かりません。でも、ここにある道具には色々な世界の人の魔力が宿っていて、自分に合ったアイテムを選べば一時的に魔法をのレベルを底上げできるみたいです。私が巳波さんを回復させる際もこの包帯を使って回復させましたし、飛躍的に幅が増えます」
自分の腕に巻いた包帯を見せる。
「なるほど。智なき今、あの魔獣を倒せるかどうかはこのアイテムに掛かっている訳か」
「ええ。私を指揮官として生き返らせてくれたアイツに報いないと」
「まだ、智さんは死んでませんよ」
シリアスな二人のボケに可愛らしい癒し手の少女が的確にツッコミを入れ、気を新たに引き締める。




