第14話 虚勢
第14話 虚勢
土煙の中から一つの人影が出てくる。親衛隊のメンバーではなく、壁に打ち付けられた筈の男だった。
(何で?)(壁に全身打ち付けておいてまともに立てる筈がない)(あんなに削られた鎧も治ってる)
(傷一つないなんておかしいでしょ。)
様々な独り言が口から出る。激しい戦闘だったにも関わらず、その傷跡がさっぱりと消えていた。それどころか、目は虚になり肌は生気を失っていて、生きていた証が見当たらない。
「全身を強化していたとはいえ、あんなに全身を打ちつけたのに、歩ける筈が無い。兄さんに一体何をした?」
拳を握り締め、声を腹から絞り出した。すぐ空気に溶け込んだが、憤りを感じ取るには充分すぎる。
「分からないんですかぁ〜? あそこまで実践して手の内を明かしたのに。まぁ、いいでしょう。私が司る属性は支配に特性を持つ闇。具体的には死霊術とでも言いましょうかね?』
「兄さんを殺したのか?」
「そんな俗な言い方しないで下さい。我々の同胞を体の中に入れて力を貸したと言って欲しいですね。人が普通に生きる時間では得られない力や知恵を渡したんですからね。なあ、ナジム?」
「あ....ああ?」
僅かにリーム王は反応するものの、意識はぼんやりとしているようであった。
「あなた方も希望するのであれば力を与えた上で私の駒にして差し上げますよ。どうせ帰るところも無いんだ。憂さ晴らしに色々な世界を蹂躙しませんか?」
唇を血が出るほど力強く噛みしめ、怒りが限界に到達する。体の血液が熱く滾り、地面を蹴る。気がつくと障壁の外にでて、高弁垂れる喉笛に食らいつこうとしていた。土煙の中から出てきた男は巨大な鎌状に血液を固め武器を作り出し、その場で思い切り振るうが、全くリーチが届かない。
拳を打ちだし、喉を突く寸前で体が後ろに引っ張られる。障壁の際にいた短剣を携えた二人の男に身体を引っ張られて障壁の中に転げ回りながら戻される。
視線を戻すと先程の二人の腹わたが裂け、オレンジ色の光に包まれ、消えた。
身体に致命傷となる傷を受けると安全地帯に避難する扉が開き、迅速に治療を受ける為の安全装置魔法が展開されただけなのだが、腹わたが裂けた原因が見当たらない。
「ダメですよ。戦いにおいて冷静さを失ったら。今の犠牲が無かったら上半身と下半身がバイバイしましたねー」
「何をした?」
目の端で捉えた不可解な現象を転げ回る身体の体勢を素早く整え、真相を探る。観ていた限りでは何一つ分からなかった。腹部を摩ると、横一文字に鋭い鎌の様な跡がつき、白い肌が露わになる。
戦闘でのダメージが蓄積した衣服が既に悲鳴を上げていた。
」私は何もしていませんよ。私はね。ゴホッ』
モゴモゴと口の中から幾つものカプセルを吐き出し、様々な姿の生物が出現する。
「そう。私は何もしていない」
全長数十メートルはある百足に数匹の蝙蝠、それに加えた大蜘蛛が前進する。効果を高めるために円柱状に展開している障壁に百足が巻きつき、複数の部分に亀裂が入る。
「高さを狭めて良いから、ムカデが巻きついている下部を分厚くしろ。上から入ってきた蝙蝠は俺が撃ち落とす」
『『はい。』』
中に入った蝙蝠に火球を飛ばし、迎撃するがフワフワと飛び廻り効果が薄い。脚に纏わせた風の魔力を真上に飛ばすが、薄い羽が空気抵抗をもろに受け上昇していく為、捉えきれない。中でのイザコザが内部で障壁を張る者たちの集中力が削がれ、部分的に柔いところが荒立つ。その穴を蜘蛛が口から酸を出し解かす。
「今一歩ってところですねーぇ。おや貴方も手伝ってくれるんですか?ありがたいですねぇー。ってか、沢山私の魔力を遠隔とはいえ注入したんですから、その分は働いてくださいね」
『...』
無言で黒ローブの前にガルデが立ち、鎌を大きく横に振る。それと共に、大きな音を立てて障壁が崩れさった。
障壁にへばり付いていた百足がバラバラになり、蝙蝠や大蜘蛛も無惨に地面に散った。内部に居た人間も少なからず吹き飛ばされた。
一部分に亀裂が入り、そこから見えない何かで面がこそぎ取られた。
「何だよ。一体。何が起こったんだ?」
「鎌で起こした風圧が飛んできた?」
振られた鎌に視線を合わせて呟く。数十メートル離れた位置から鎌を振った男は今までの様に洗練された飾り気の無いデザインではなく、所々血液が滴った形を成し禍々しさを放つ獲物を持ち、振り切ったポーズからピクリとも動かない。
そもそも、あんなに離れた位置から風圧が届く筈がない。
「御名答。さっき見せたように私は死霊術が扱える。また、生前の能力を与える瘴気によって能力を大幅に上げることができる。それで硬化させる力で空気を固めて攻撃したんですよ。同胞を中に入れたとは言え、無理矢理体を動かさせて限界以上の力を出させるのでこうなりますがね」
斬撃を放った腕から血液が滴り、振り切った鎌の先端が自分の体に突き刺さっていた。
「思った以上に貴方が力を付け、瘴気を追加しましたのでもう痛みなど感じられない身体ですからこんな些細な事きにしませんがね」
身体に突き刺さった刃を蹴り、身体に深々と抉り込ませる。




